第9節 ギルド
(何か・・・・・・話した方がいいかもしれない)
ドミニクはカウンターの席に座りながら、男達の胡散臭そうな視線に耐えていた。
「ここのギルドではお酒も出しているんですね」
「・・・・・・ああ、この辺じゃ普通だけどな」
「へぇ」
ドミニクが知っているギルドは、ほとんどがアカデミーの助成を受けた公的な機関だった。そこでは酒を出したりはしない。禁止されている訳ではないが、助成金を減らされてはたまらないので、アカデミーの嫌がりそうなことは何となく避けているのだ。
「アカデミーの目は気にしないんですか?」
「アカデミー? あんなとこ関係ねぇよ。この町のギルドはアカデミーの援助なんて受けてないからな」
「ああ、なるほど」
やはり非公認ギルドだったようだ。だからと言って違法という訳でもないのだが、助成も受けずにギルドを維持するのは相当大変なはずだ。『ガラの悪い』仕事も引き受けることになるのだろう。
アルと会話をしながらもドミニクは場の空気を悪くしないための話題探しに必死だった。ダンテのことを聞くのが一番自然なのだろうが、彼はどうやらここのハンター達に嫌われている。ギルドの話もしてしまったし、次は何の話をするのが自然だろうか--彼が孤独な葛藤を続けていると、突然アルの声が耳に入った。
「お前・・・・・・ジェイに似てるな」
「へ?」
驚いて思わず素っ頓狂な声を上げる。
「一年位前まで、ここにミルドのハンターがいたんだけどよ、ソイツに似てる」
「・・・・・・」
ドミニクは返答に困った。しかし取りあえず話題の提供があったので、それに乗ってみようと思った。
「どんな方だったんですか?」
「・・・・・・不思議なヤツ。誰に対しても敬語でしゃべるんだよ。それに男のくせに、女みたいな顔してた。目の色もお前に似てる」
「刺青は彫っていましたか?」
「ああ、ミルドだからな。全身、刺青だらけだった。気持ち悪いくらいにな」
「やっぱりアレ・・・・・・気持ち悪いですよね?」
「そりゃそうだろ。頭イカれてるのかと思ったぜ。ボスも何でミルドなんて入れたのか分からねえが、案の定、ここのヤツらとのいざこざで辞めちまったよ」
「いざこざって・・・・・・」
「大したことじゃねぇよ。仕事上のちょっとしたトラブルだ。だけどアイツは誰とも仲良くならなかったからな。その結果、誰にも味方して貰えなかったって訳だ」
「・・・・・・その方は、今どうしておられるのでしょう?」
「さあ・・・・・・辞めてからは全然見てないな。この町にはいないだろうな」
「そうですか・・・・・・」
ドミニクは胸が締め付けられた。まるで自分のことを言われているような気がした。
「あ・・・・・・でも待てよ。おい、カスト! お前、最近、ジェイ見たって言ってたよな」
アルは唐突にカストに話を振った。しかし、カストもこちらの話に耳を傾けていたらしく、自然に返事を返してきた。
「ああ、見たぜ。北門を出た辺りでな。何考えてるんだか分からねぇが『ヘルハウンド』の奴と一緒に居やがった。全くよぉ、ここ辞めさせられた腹いせにウチの情報売ってたらタダじゃすまねぇぜ」
「そんなことするようなタイプでもなかっただろう」
「ハッ! 分かんねえな。大体いっつも何考えてるか分かんねえ奴だったじゃねぇか」
「まあ、気味の悪い奴ではあったけどな」
「そもそもミルドなんて入れたのが間違いだったんだよ! ボスもモウロクしたもんだぜ」
「おい、ドミニク! 遅くなって悪かったな」
階段の上からダンテの声が響いた。男達の注意も一瞬にしてダンテに集中する。ジェイの悪口を聞いていられなかったドミニクはホッと胸をなで下ろした。
「情報はもらえた?」
「ああ、バッチリだ。場所は俺が知ってる。今から行こう」
「よかった、早く行こう」
二人は用のなくなった『レッドグリフォン』を後にする。扉を出ても、当然のことながら誰からも声は掛けられなかった。
「ねぇ・・・・・・何であんなに嫌われてるの?」
歩きながらドミニクは疑問に思ってたことを口にする。
「さあ、俺に仕事も女も取られて、逆恨みしてんじゃねぇか?」
「・・・・・・色々派手だったんだね。あ、そう言えばさ」
「ん?」
「さっき、ジェイさんの話をしてたんだけどさ・・・・・・僕ってジェイさんに似てるのかな?」
ドミニクは少し緊張気味に尋ねた。
「はぁ? お前がジェイに? 全然、似てねえよ。目の色くらいだろ」
「そっか・・・・・・」
その後二人は、ターガスの北西に位置するゴルチエの屋敷へ向かうため町の北門へと歩みを進めた。




