第7節 レッドグリフォン
「ここだよ--あぁ、何か懐かしいな」
2人は大通りから少し横道へ逸れたところにある灰色の建物の前で立ち止まった。石でできた頑丈そうな造りだ。窓は少ない上に高い位置に設置されており、中の様子が外からは分からないようになっていた。
「あれ・・・・・・血痕じゃないの?」
壁には赤黒い飛沫が所々飛び散っている。
「まあ、喧嘩の多いところだからな。つーか、掃除しとけよな、依頼人が来なくなるじゃねぇか」
「そう言う問題かな・・・・・・」
ドミニクは中に入るのが俄に嫌になった。ダンテよりも屈強な大男が何人も現れて、いきなり殴りかかられるのではと心配になった。
「まあ、みんな一癖あるけど、仕事に関してはまともだから、そんな顔すんなよ。それより--」
「--?」
「さっき言ってた、ミルドの奴もいるかもしれねぇ。別にお前は気にしないかもしんねぇけど、何考えてるか全然分かんねぇ奴だから、気を付けといた方がいい」
「・・・・・・その人の本名分かる?」
「いや、ジェイって名乗ってるけど、多分偽名だ」
「ジェイ・・・・・・ね」
ダンテは木製の分厚い扉を押して中に入った。ドミニクもその後に続く。内部は窓が少ない割には明かりが取れていて、思ったより開放感があった。奥の方にカウンター、手前にはテーブルと長椅子が並べられており、少し大きめの酒場のような雰囲気だった。実際、酒も出しているようで、テーブルでは五、六人の男が、真昼間からジョッキを片手にカードに興じていた。
「・・・・・・ん? お前、ダンテか!?」
カードの輪の中にいた男の一人がダンテに気付き声を発した。その声には若干驚きが含まれていたものの歓迎の色はなかった。
「久し振りだな、カスト。相変わらず仕事を貰えなくて、こんなとこにいるのか」
「・・・・・・やっぱりダンテか。テメェも相変わらず口の減らねえヤツだな。何しに来た」
カストと呼ばれた男は、白く濁った目でダンテをギロリと睨んだ。
「別にテメェに用はねぇよ。ボスいるか?」
「ハッ・・・・・・勝手に探せや」
「そうさせてもらう」
ダンテはカスト達のテーブルを通り過ぎると、真っ直ぐにカウンターに向かった。男達の視線がダンテとドミニクに突き刺さる。ドミニクはこういう敵意を剥き出しにした人間が特に苦手だった。出来るだけ早くダンテがボスと話を付けてくれるのを祈るばかりだった。
「アル、ボスはいるか?」
ダンテがカウンター越しに声を掛ける。アルと呼ばれた男はグラスを磨く手を止めると、真っ直ぐにダンテを射抜いた。
「・・・・・・何しに来たんだ。仕事か」
「違う。ちょっと情報が欲しいだけだ。お前の仕事を横取りしようなんて思ってねぇよ」
「・・・・・・どうだかな。ボスは二階だ。用が済んだら、とっとと帰ってくれよ」
「分かってる。ありがとな」
アルはダンテに怪訝な表情を返した。本当に早く帰って欲しそうだ。
「おい、ソイツは誰なんだよ」
二階に向かおうとした二人の背中にアルの棘のある声が突き刺さる。
「俺の連れだよ。見りゃ分かるだろ」
ダンテは足を止め、アルに向き直った。ドミニクもアルを振り返る。アルは不審そうに目を細めている。
「得体の知れないヤツをボスに会わせるわけには行かない。ソイツはここで待たせろ」
「ハッ!?」
「なんだ? ソイツをボスに会わせなきゃ行けない理由でもあるのか」
「連れだって言ってんだろ! 俺が信用できねぇって言うのか!」
「ハッ! テメェを信用したことなんてただの1度もねぇよ」
「--!? アル、てめぇ! 俺が命救ってやったのも覚えてねぇって言うのか!」
「何勘違いしてやがる! テメェのせいで死にかけたんじゃねぇか!」
2人の言い争いが激しくなる。いつ殴り合いの喧嘩が始まってもおかしくない雰囲気だった。
「ダンテ、僕はいいよ。ここで待ってるから」
こんなところで時間を食っている暇はない。それに自分がボスに会ったところで得られる情報は変わらないだろう。ドミニクは素直に辞退するのが賢明だと判断した。
ダンテはドミニクを振り向くと少し眉をしかめたが、にこりと笑顔を返すドミニクを見て小さく溜息を吐いた。
「・・・・・・じゃあ、俺だけで行ってくる。悪いけどちょっと待っててくれ」
「了解」
ダンテが2階への階段を上っていく。
ドミニクは男達の鋭い視線を一身に浴びながら、こんなことになるなら最初から外で待っていればよかったと激しく後悔した。




