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第6節 ターガスの町

「で、ターガスとやらは、どこにあるのだ」

 オブシディアンは風を切りながら首を後ろに傾けた。

「お前、知らないで飛んでたのかよ・・・・・・」

「ふん・・・・・・貴様、やはり今から降りるか」

「殺す気かよ」

「僕も知らないんだよ。ダンテ、この先でいいの?」

 ドミニクがダンテを振り向く。

「あぁ。って言うか、もう見えてるだろ。あれだよ」

 ダンテは眼下に広がる白い町を指さした。建物の色はパンデクテンの街によく似ている。しかし、剥き出しの赤茶色の地面とマーケットの色とりどりのテントは雑多な雰囲気を醸し出していた。区画整理もあまりされていないらしく、建物は思い思いの方向にごちゃごちゃとひしめき合っていた。

「品のない町だな」

 オブシディアンが毒づく。

「ディアン! 失礼だろう」

「いや、実際、品なんて微塵もねぇよ。俺も別にこの町が好きって訳じゃない」

 ダンテは約2年間この町でハンターをしていたが、特に愛着があるわけでもなかった。いい思い出が全くないわけでもないが、イヤな思い出の方が多い町だ。他人にこの町をどう言われようと別に気にならなかった。

「こいつで降りたら、さすがに目立つだろ。町の手前に空き地があるから、そこで降りた方がいい」

「じゃあ、そうしようか。ディアン、頼むよ」

「了解した」


 空き地に降り立つと、さっそくオブシディアンはドミニクに対価を請求した。ドミニクは、鞄の中から直径20センチ程の薄いグリーンの包みを取り出して広げるとオブシディアンの前に両手で差し出した。包みの中には、丸いお菓子が黄金色に輝いていた。

「ふん・・・・・・やはり、お前の焼くコルンは美味いな」

「それはどうも。今日は、色々手間かけさせたから、もう1個お礼ね」

 オブシディアンがコルンを1つ食べきったのを見計らって、ドミニクは鞄からもう1つ包みを取り出した。

「ふん・・・・・・まあ、これくらい何でもない。またいつでも喚ぶがいい」

「ありがとう、ディアン」

 オブシディアンは2つ目のコルンを食べ終えると、満足そうに目を細めた。そして「では」と一声掛けると、白い閃光とともに2人の前から消え去った。

「あいつ、ほんとに美味そうに食べてたな。コルンって、そんなに美味いのか?」

 ダンテが感心したようにドミニクに話しかけた。

「ふふ、ヴァレリー家のコルンは世界一だよ。今度、ダンテにもご馳走するよ」


 少し歩くと、ターガスの町に到着した。ドミニクは空中からでは分からなかったその活気の良さに驚いていた。思ったより人も店も多い。

「大きな町だね。こんなに立派な町だなんて思わなかったよ」

「まあな。南部では有数の町だしな」

 2人は肩を並べて大通りを歩いていった。外見的にそれぞれ目立つ要素のある2人は、余所者ということもあって、かなり周囲の目を引いていた。

「なんか、結構警戒されてるよね」

「俺らが自分たちの不利益になることをしに来たんじゃないかって疑ってるんだ。お前も警戒しとけよ」

「なるほど、警戒するのには慣れてるよ。で、今はダンテの昔所属してたギルドに向かってるってことでいいんだね?」

「ああ、そうだ。あそこの奴らも、みんな一癖あるから気を付けてくれ。まあ、ボスは基本的にいい人なんだけどな」

「ふ~ん、なんか楽しみになってきたよ」

 ドミニクはニコニコと笑っている。

「お前さ・・・・・・」

 ダンテがドミニクを見下ろしながら呟いた。

「ん?」

「ミルドのくせに、なんて言うか・・・・・・地味だよな」

「へ?」

 ドミニクはいきなり何の話だろうと思った。

「あ、いやな・・・・・・これから行くギルド--『レッドグリフォン』って言うんだけどよ、そこに1人ミルドがいたんだよ」

「え!?」

「ソイツ、見た目的に結構ハデだったからよ、ミルドってみんなそんなもんかと思ってたんだけど・・・・・・」

「僕が全身『刺青』じゃなくて、ピアスもしてないから、不思議に思ったってこと?」

「まあ・・・・・・そうだな」

 ミルドの民は、精霊を召喚するための刺青を全身に彫っていた。腕や背中だけでなく、顔面にまで刺青を入れるのが普通で、魔力を増幅させるためのピアスなどのアクセサリーも、至るところに装着しているのだった。

「アレ、気持ち悪いでしょ・・・・・・」

 ドミニクは困ったように笑った。

「まあ・・・・・・初めて見たときはビックリしたな」

「それに、ミルドって丸分かりでしょ」

「そうだな」

 それに関しては昔から疑問に思っていた。ダンテは偏見の目を向けられる立場にありながら、堂々と身元を曝すミルドの考えが分からなかった。

「ドルバック先生がね、反対したんだよ。ミルドは十三歳になったら成人の議として背中に刺青を入れるんだけど、それもさせてもらえなかった。そのときは、ちょっとショックだったかな・・・・・・姉さんは元々刺青なんて入れたくないって言ってたから別によかったみたいだけど、僕は少し憧れもあったから・・・・・・」

「へえ・・・・・・」

「でもね、その当時は大規模な魔女狩りがあって数年しか経ってなくて、ドルバック先生も僕らの身を守るのに必死だったんだ。先生は、僕らの身元を隠すのにすごく苦労してた。それなのに、自分が先生の気持ちを踏みにじるようなことしたくなかったから、我慢したんだよ」

「反対されなかったら、刺青入れてたのか?」

「多分、入れてたね」

 ドミニクの口調ははっきりとしていた。

「どうしてだよ。あんなもん、ただのキズだぞ。それに顔面まで入れてたら周りがビビるだろ」

「それでも入れたいものなんだよ。僕たちは自分たちの祖先であるジゼルをすごく尊敬してる。彼女が決めたことには従いたいんだ」

「ふ~ん・・・・・・そんなものなのか」

「そんなものなんだよ」

 2人はまた黙って歩き出した。

「今は?」

「え?」

「今は入れたいと思うのか? 刺青」

 ダンテは自分でもなぜだか分からないが、この話題に強く引き付けられていた。少し繊細な問題に踏み込みすぎたかと後悔したが、ドミニクが気分を害した様子はなかった。彼はダンテの目を真っ直ぐに見ると、真剣な表情で尋ねた。

「似合うかな?」

「は?」

「似合ったら、やってみようかな」

 ドミニクはそう言うと、ははっと明るく笑った。

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