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第10節 庭

ロメオに連れられて三人がやってきたのは、結界の祠のある広い空き地だった。 

「ここ、さっきのとこだね」

 エステルが空き地をぐるりと見渡す。先程は風から逃げるように急いで歩いていたので周りを気にしていなかったが、よく見ると道が分かれている。今来たカイラニ方面の上り道の他に、下へ行く道がもう一本あったのだ。

「こっちに行ったら何があるんだ?」

 ロックがロメオに質問する。

「行ってみますか? 馬車もこっちに行くんですよ」

 三人はロメオに続き、道を下っていく。あまり広い道ではない。馬車が通るにはギリギリの幅だろう。すぐ右側は崖で、足がすくむような高さだった。エステルは、こんなところを馬車で通りたくないと強く思った。

 二、三分歩くと、左側の山肌にぽっかりと洞窟が開いているのが見えた。

「うわっ! 洞窟だ! 何か、魔法律書とか落ちてそう!」

 エステルが興奮気味に声を上げる。

「そんな簡単に落ちてる訳ないだろう。ロメオさん、馬車はあの洞窟に入っていくくのか?」

 ロックが先頭を歩くロメオに尋ねる。

「多分そうだと思いますよ。誰も馬車の後付いていった訳じゃないんで分かんないですけど、他に道はないですから」

「洞窟の中には何があるの?」

 エステルが目をキラキラさせる。

「ハハッ、残念だけど何もないよ。だだっ広い空き地が広がってるだけ。行ったら分かるけど、全然つまんない場所だよ」

 そうこうしている内に、四人は洞窟の前に着いた。ここも馬車で通るのは大変そうだ。だが、無理な幅ではない。洞窟としては大きい方だろう。

 中はほぼ真っ直ぐの道で距離も短かったため、ロメオの言う空き地はすぐに現れた。しかし、その空き地は全く『つまんない』場所ではなかった。

「うわぁ! きれい~!」

 洞窟を抜けた先でエステルは感動の声を上げた。

「これは・・・・・・すごいですね」

「あぁ・・・・・・」

 ロックとドミニクも目を丸くしている。

 四人の前に広がっていたのは、『楽園』と言っていい程の美しい庭だった。一面の緑に、様々な種類の花が色を添え、生い茂る木々には甘そうな果実がたっぷりと実っていた。それらを吹き抜けになった天井からの光が優しく包み込んでいる。外の岩だらけの荒れ地が想像できない位の別世界が広がっていたのだ。

「ロメオさん! 全然つまんない場所じゃないじゃないですか! 天国みたいです!」

 そう言うとエステルは庭に向かって駆け出す。

「いや・・・・・・一月前は、こんなんじゃなかったんだけど・・・・・・」

 ロメオは以前とは全く違う空き地の様子に言葉を失っていた。

「一月以内で、誰かがこんな状態にしたというわけか・・・・・・」

「これを一月では・・・・・・難しいと思うのですが」

 ロックとドミニクが首を捻っている。


『ふんふ~ん♪ 風の~大精霊の~ご加護に~♪ 』

 

「ふぇ?」

 風に乗ってのんきな歌声が聞こえてきた。エステルはぐるっと辺りを見回す。

「あ、クイーン!」

『ん? おや? あなたたち、もう来てたんですか?』

 一本の木の枝から、きれいな青い鳥がロックたちの方へ向かって飛んでくる。ロックが左腕を真横にぐいっと突き出すと、鳥は当然のようにそれを止まり木にした。

「クイーン、お前、こんなところで何してるんだ?」

 ロックが首を左に回し、クイーンの顔を見る。嘴には真っ赤なイチゴの蜜が付いていた。

『何って言われましても、食事としか言いようがありませんね』

「はあ? お前! 外で変なもの食うなって言ってあるだろう! ここの果物、食ったのか!?」

 ロックがクイーンを怒鳴りつける。

『もう、耳元でうるさいですね。普通の果物でしたよ。いえ、違いますね・・・・・・とってもスイートな果物でした』

 クイーンがうっとりとした表情を浮かべる。

「何か身体に異常を感じたりはしてない?」

 今度はドミニクが心配そうに声をかける。

『あら、ドミニクさん! え・・・・・・異常って、今のところ何もありませんけど・・・・・・どういうことですか?』

 クイーンが目をパチクリさせる。

「この庭、ここ一ヶ月くらいの間に造られたものらしいんだ。それまではただの空き地で、しかも誰が造ったのかも分かってないみたいなんだ」

『え!?』

 クイーンはつぶらな瞳を目一杯大きくした。

『で、でも・・・・・・もう二時間位、ここでお食事をしていますから・・・・・・大丈夫だと思うのですが』

「今のところ異常はないんだな?」

 ロックが問う。

『そうですね』

「ならいいんだが・・・・・・」

 ロックはひとまず胸をなで下ろした。

「ねぇ! じゃあ、私も食べていいよね?」

 エステルがニコニコしながらロックに確認する。

「え? いやいや! 誰のか分からないだろう! 勝手に人様のもん食うな! クイーン! お前もここの様子を見たら、人の手が入っていることくらい分かるだろう!」

『う・・・・・・美味しそうだったんでつい・・・・・・』

 クイーンが恥ずかしそうに頬を染める。

「でもここ・・・・・・一応、村の入会地なんですけど」

 ロメオが眉間に皺を寄せている。

「どういうことだ?」

「カイラニの皆で管理してる場所なんです。だから、月に一度は誰かが見に来ることになってて、前回は俺だったんですけど・・・・・・いったい誰がこんなことしたんだ?」

「村の誰かじゃないってことだな?」

「勝手に入会地いじる奴なんてカイラニにはいませんよ。それにこんなもん造ってたら、さすがに誰かに気付かれます」

「外部の人間が勝手に整備したということですか・・・・・・でも何のために」

 ドミニクも不思議そうに首を捻っている。

「あの・・・・・・俺、先に村に戻ってても構いませんか?」

 ロメオが若干険しい表情でロックに尋ねる。

「ん?」

「このこと、早めに報告しときたいんです。取りあえず、ロベルトさんには。皆さん、調査を続けるんですよね?」 

「あぁ、そのつもりだ。そうだな・・・・・・じゃあドミニク、お前一緒に村に戻ってくれ。ダンテも戻ってるかもしれないし、それからまた来てくれ」

「分かりました」

 ロックはそう言って、ドミニクとロメオを村に返した。

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