第9節 墓地
ダンテは村から少し離れた墓地まで歩いてきていた。
(花・・・・・・買って来れたらよかったんだけどな・・・・・・)
カイラニに花屋はない。乾燥した大地に生息する花はほとんどないからだ。花を手に入れるとすればターガスの町まで行く必要がある。
(そういや、今日の午後はターガスに行くことになってたんだよな・・・・・・マズいな・・・・・・ロックの奴、機嫌悪くしてるかもしんねぇな)
若干傾き始めた太陽を見て、ダンテは家を出てきたことを少し後悔した。
両親に挨拶を済ませると、彼はもう一人に挨拶するため墓地の奥の方へと進んだ。
「あ・・・・・・」
「え?」
ダンテの声で振り向いた人物が、ムスッとした表情で言葉を発した。
「・・・・・・追いかけてきたの?」
「え? あ、あぁ」
本当は偶然だ。自分も頭を冷やすためにここに来ただけだったのだが、とりあえず、追いかけてきたことにした方がよさそうだとダンテは判断した。だが、実際は追いかけてきたわけではないので、それ以上言葉が続かない。
「ルカ・・・・・・生きてたら、お兄ちゃんのことどう思ったかな?」
「は?」
ダンテが言葉を探していると、先にイルマが尋ねてきた。
「どうって?」
「だから・・・・・・! お兄ちゃんが調査官になるって知ったら、どう思うかなって言ってるの!」
「あぁ・・・・・・」
どう思うのだろう--いや、そもそもルカが生きていたら、ダンテはアカデミーには行かなかっただろう。だから生きていたら、なんていう仮説はナンセンスで--
「喜んでくれたのかな・・・・・・」
「は?」
「もう! さっきから『は?』とか、『あぁ』とかばっかりじゃない!」
「あ・・・・・・わりぃ」
ダンテはイルマの言わんとしていることが全く分からなかった。
「ルカ・・・・・・お兄ちゃんのこと大好きだったよね」
「お前のことも大好きだったと思うぞ」
「うん・・・・・・でも、お兄ちゃんは特別だったと思うの」
「そうかぁ?」
ますます話の方向が分からない。
「私も、お兄ちゃんのこと大好きだよ」
「・・・・・・お前、さっきから何が言いたいんだ?」
気持ち悪いぞ--と、言おうとしてダンテは言葉を飲み込んだ。
イルマは声も出さずに泣いていた--
「私はね・・・・・・調査官なんかになってほしくないの。ずっと、家族一緒に暮らしていけたらなって・・・・・・でもね? ルカは違うと思うの。ルカは、きっと喜んでるわ。お兄ちゃんがターガスで活躍してるって聞いたときも、すっごく嬉しそうだったもの・・・・・・私は、心配だっただけなのに」
ダンテはルカの墓を見つめながらただ黙っていた。視界の端には、エプロンの裾で涙を拭う妹の姿があった。
しばらくして彼女はふっと顔を上げた。気配を感じて振り向いたダンテと目が合う。
「お兄ちゃん・・・・・・」
「ん?」
「おめでとうね」
「・・・・・・あぁ」
精一杯の笑顔を見せる妹に、ダンテは心の底から感謝した。




