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第7節 ルカ

「終わった?」

 嵐が去り、皆の心臓の鼓動が収まったのを見計らって、ロメオが隣の部屋から顔を出した。

「あぁ・・・・・・終わったよ」

 ダンテがロメオを睨みつける。

「俺のせいじゃないよ。むしろ俺は被害者だよ? 兄さんの手紙が来たときの姉さんの荒れっぷりはこんなもんじゃなかったんだから」

「・・・・・・そりゃ、悪かったな」

 ダンテはテーブルに両肘を付き、頭を抱えると、ハァ、と大きな溜め息を吐いた。

「ロメオさんは、今回の件については、どうお考えなんだろうか?」

 ロックがおそるおそる尋ねる。

「俺ですか? いいんじゃないですか? 俺、『調査官』っていうのが何なのかはよく知りませんけど、皆に聞いたらすごそうじゃないですか。『賢者』の次にすごいんですよね?」

「うん・・・・・・まあ、そんなイメージで間違ってはいないと思うが・・・・・・弟として、家族としてはどうなんだ? イルマさんのような気持ちは強いのか?」

 ロメオは少し考え込んでいるようだった。

「俺、兄さんが皆からすごいって言われるの嬉しいんです。それに、兄さんが死ぬなんて、俺には想像できない。俺・・・・・・バカなのかなぁ・・・・・・ルカのことがあったのに、兄さんに関しては大丈夫だって、何かそんな気がしてるんです」

「・・・・・・ルカさん、のことは聞いてもいいのか?」

 ロックが控えめに尋ねる。

「いいですよ、ねぇ、兄さん?」

「あぁ」

「ルカは、ロベルトさんの息子で、俺たちの親友です。あ、ロベルトさんっていうのは、村の入り口で姉さんが怒ってるって言ってた人です。昔っから仲良くって、特に兄さんとは同い年ってのもあって、よく二人で悪さして大人から怒られまくってたんですけど・・・・・・」

「そこはいいよ・・・・・・」

 ダンテが口を挟む。

「そう? で、話飛ぶんですけど、俺たち小さい頃に両親なくしてるんです。俺が五歳のときだったんですけど・・・・・・ロベルトさんはそれから俺たちの親代わりみたいな感じで、子供だけになった家に毎日来てくれて、面倒見てくれて、ルカとも本当の家族みたいになってました。仕事も教えてくれました。ロベルトさんとこは鍛冶屋なんですけど、その手伝いをさせてもらってて。兄さん、結構才能あったんですよ? まぁ、ルカには及びませんでしたけどね」

 ロメオはハハハッと笑う。

「ルカは本当に器用で、天才的で、でも自分が好きな物しか作らなかった。いるでしょ? たまにそういう奴? 包丁や農耕機具なんて、多分、練習の一回切りしか作らなかったんじゃないかなぁ?」

「じゃあ、何を作ってたんだ?」

 ロックが口を挟む。

「アクセサリーばっかですよ。ネックレスとかブレスレットとかピアスとか、そんなのしか作ってなかった。チャラチャラしたやつでしたからね。この村に、ルカが作ったアクセサリー持ってない女の人なんて多分いないですよ」

「イルマさんも?」

 エステルが尋ねる。

「もちろんだよ。姉さんも持ってる。いつも着けてるよ、ブレスレット」

 ロメオはエステルに微笑みかけた。

「で、そのルカが材料の仕入れから村に戻る途中、モンスターに襲われて死んだんです・・・・・・つい二年前にね」

 何となく想像できた結末だが、ロメオの淡々とした口調に三人は胸を締め付けられた。

「もう少し早く・・・・・・結界を張りに来てくれてたら良かったんだけどね」

 ロメオの顔が少し歪む。今まで客観的に話し続けてきた彼の初めての本音が見えた気がした。

「ごめん・・・・・・なさい・・・・・・」

「えっ!?」

 突然、エステルがポロポロと涙をこぼした。

「えっ、何!? どうしたの!?」

 ロメオは訳が分からなかった。

「中央アカデミーが・・・・・・もっとしっかりしてたらよかったんですよね。ダンテの・・・・・・家の近くにも、ちゃんと結界張ってたら・・・・・・」

 エステルは初めて祖父バークリーを責めたい気持ちになった。確かに、中央アカデミーの保護区域は広く、全ての地域を結界で保護するのは現実的に困難だ。しかし、人がいると分かっているところには最低限結界を張っておくべきだろう。カイラニは、辺境の村とは言え、ちゃんと地図には載っている集落なのだ。

「あ、エステルさんを責めてる訳じゃないよ! 弱ったな・・・・・・ちょっと兄さん・・・・・・」

 ロメオがダンテに助けを求める。

「エステル、別に俺らはアカデミーやバークリーを恨んでる訳じゃない。結界張れる人間だって限られてる。現実的にこんな田舎にまで手が回るなんて思ってない。二年前、あの祭司が来たのだって、運が良かっただけだ」

「でも・・・・・・」

「でもも何もねぇよ。大体、アイツが死んだのは・・・・・・」

 そこまで言いかけて、ダンテはハッと口を噤んだ。

「え・・・・・・?」

 エステルがキョトンとしてダンテを見上げる。苦虫を噛み潰したような表情だった。

「何でもねぇよ」

 ダンテは椅子からガタンと立ち上がった。そのまま玄関の方へ歩いていく。

「兄さん?」

「ちょっと出てくる」

 ダンテはそれだけ言うと、扉を勢いよく開けて外へ出て行った。

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