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第2節 依頼

 エステルが出て行ったのを確認すると、ロックはダンテに応接用のソファに座るよう勧め、自身もその正面の席に座った。

(一体、何の話だ?)

 真剣な表情で俯くロックの姿に、ダンテは思わず眉をひそめる。

 思えば、時空の賢者ロックと出会って、かれこれ一ヶ月が経つ。最初は不信感を抱いていたダンテだったが、『時空の塔』での事件の後、そんな気持ちはキレイさっぱりなくなり、今ではとても尊敬している。

 しかしだからと言って、友人のユーリのように彼を崇拝するというようなことはなかった。ダンテは、ロックが実はかなり鈍くさい人物だということを知っていたからだ。『時空の塔』に歪みは生じさせる、魔法律を使うのに必要な『時計』が直っていないことに気が付かない--挙げ句の果てには禁忌の魔法律『ブラックホール』を使って大陸を大きく抉ってしまった。このクレーターは飛行船や巨鳥に乗った人々によって発見され、今では大陸の七不思議となりつつある。

「おい、話があるならさっさと済ませてくれ」

 なかなか話を切り出さないロックにダンテが焦れる。

 ロックはゆっくりと顔を上げると、ダンテの目を真っ直ぐに見た。

「すまない。何て言おうか迷ってたんだが・・・・・・単刀直入に言おう。ダンテ、お前、俺の『調査官』になる気はないか?」

「は・・・・・・」

 ダンテの脳がフリーズする。

「いや、だから、俺の--『時空の賢者』の『調査官』になってほしいって話なんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ!?」

 思わず素っ頓狂な声を上げる。

 『調査官』と言えば、魔法律家のトップ『賢者』直属の弟子だ。いわばこの世界でナンバー2の地位にある者だと言っていい。エステルやダンテの通うこの中央アカデミーも、光の賢者バークリーとその調査官によって運営されている。そして実質的には学園都市パンデクテンを中心として、この大陸の大部分を統治している。パンデクテンだけではない。この物質界では『賢者』とその『調査官』によって支配されている地域がほとんどだ。それゆえ『調査官』の社会的地位は非常に高い。優秀な魔法律家は、みんなこぞって『調査官』を目指すのである。ダンテのような一介の学生に話が回ってくるようなものではない。

「嫌か?」

「イ、イヤとかそういうレベルじゃねぇだろ!? 『調査官』って・・・・・・大体、何で俺に!」

 ダンテは訳が分からなかった。

「ダンテ、お前は『調査官』の役割を知っているか?」

「賢者の仕事の手伝いと、賢者の護衛・・・・・・」

「あぁ、一般的にはそう言われている。だが、もう一つ重要な役割がある」

「--?」

「もしものときに『力の承継』をするという役割だ」

 ロックはしっかりとダンテの目を見据えて言った。

「は・・・・・・?」

「賢者はその力故に昔から多くの人々に命を狙われてきた。賢者は強い。簡単に殺されるようなことはない。しかし、それでも負ける可能性があるということは頭に入れておかなければならない。愚かな人間に『力』を奪われないために、瀕死の状態となった賢者に、まともな人間がとどめを刺す必要がある。『力の承継』は、死の直接的な原因を作った者に認められるからな。賢者は常に調査官と行動を共にし、その可能性に備えている」

「『力の承継』って・・・・・・! 俺は・・・・・・!」

 ダンテは思わず声を荒げた。

「知っている。お前は『力の承継』に否定的らしいな。だからこそ頼んでいるというのもある。お前は、命の重みを知っている」

「・・・・・・」

「お前なら仮に賢者の力を得たとしても、その力を愚かなことに使ったりしないだろう。俺は結構、人を見る目があるんだ」

 そう言うとロックはフフッと笑った。

 対するダンテは、全く笑ってなどいられなかった。

「ちょ・・・・・・ちょっと待てよ。俺以外にもいるだろうが・・・・・・! 大体、俺に政治はムリだ!」

「そんなことは分かっている。その点については全く期待していない。それに俺が将来、どこかの地域を治めることになるかどうかも分からん。実際、俺の父さんはただの放浪人だった」

「だけどよ・・・・・・他にいるだろう? 俺より強くて命の重みを知ってるような奴なんて・・・・・・」

 ダンテは腕っ節には自信があったが、魔法律家としてはまだ卵だ。自分より強い人間が、この世の中にたくさんいるということは、しっかり認識している。

「・・・・・・う~ん、いるのかも知れないが、今のところ一番信頼できそうなのがお前なんだ。俺だって色々考えたんだぞ? エステルは行く行くはバークリーの『調査官』にしなきゃいけないし、そもそも弱すぎる。ケーラーも一瞬考えたが、精霊が賢者になってくれる訳がない。魔法律の力で考えたら、アカデミーの教員が一番だが、教授クラスは全員バークリーの調査官だし、横取りするわけにも行かない。准教授や講師も、教授の下で研究しているし、いきなり引き抜くのも気が引ける。それにそもそも、どんな奴なのかよく知らん。色々、消去法で考えていった結果、今の段階で一番最適なのがお前だったという訳だ」

「消去法かよ・・・・・・」

「消去法を馬鹿にしてはいけない」

「かもしんねぇけどよ・・・・・・」

 ダンテはロックと目を合わし続けることができず視線を逸らした。

「暫定的に、ということでもいい。それにお前以外にも実は一人『調査官』が決まっている。これからも増やすつもりだ。お前だけに負担が集中することはない。どうだ?」

 ロックがダンテを説得にかかる。

「・・・・・・お前を殺さなきゃいけないかもしんねぇんだろ」

「・・・・・・そうだ」

 部屋が沈黙に包まれる。

「できる自信がねぇ・・・・・・俺は、お前が思ってるよりずっと臆病だ」

「臆病なんじゃない。まともなだけだ。俺はお前のそういうところを買っている」

「・・・・・・」

「・・・・・・少し、考えておいてくれ。俺も今すぐ返事をしてもらえるとは思っていない。お前の人生に関わることだからな。だが『調査官』にはメリットもある。俺が最高の環境での研究を約束する。有力な魔法律家と知り合える機会も多い。これは、力を付けるためにはとても有意義なことだ。色々考えて、結論を出してくれ」

 そう言うとロックは立ち上がり、自身の机を漁ると、一枚の紙をダンテに突き出す。

「これが契約書だ。二週間以内にサインして持ってきてもらえると嬉しい」

「・・・・・・」

「ん? どうした?」

 紙を凝視したままなかなか受け取ろうとしないダンテにロックは首を傾げる。

「それ・・・・・・お前の『身体測定』の結果じゃねぇか」

「あ・・・・・・」

「てか、五十二キロって・・・・・・ガリガリじゃねぇか」

「こ、これから筋トレをして徐々に増やしていく予定なんだ! 失礼なことを言うな!」

 気にしていることを言われてロックは若干キレた。

「もう! 早く出て行け。シッシッ!」

「おい、契約書は・・・・・・」

「あー、これだこれだ!」

 ロックが机に戻り、書類の山から乱暴に一枚の紙を引き抜く。

「『調査官』になったらな、賢者に対して無礼なことを言うんじゃないぞ。そうだな、もう書いておこうか」

 ロックはサラサラと何かを記入した。ダンテに突きつける。

「・・・・・・言わねぇよ。じゃあ、また考えとくから」

「はいはい、じゃあな」

「・・・・・・俺が悪いのかよ」

 ダンテは半ばロックに追い立てられるようにして研究室を出た。重要な頼まれごとをしたというのに、あんまりの扱いだ。

 契約書に書かれた文言を再度確認する。

『ガリガリ、痩せている、女の子みたい、その他これに類する一切の発言を致しません』

 もし調査官になったら大変そうだと、ダンテは心の中で大きなため息を吐いた。


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