第5節 イルマ
カイラニ村はパンデクテン同様、石造りの建物で構成された集落だった。しかし、同じ石造りと言ってもその構造は全く違った。パンデクテンの建物は、切り出した板状の白い大理石を組み合わせて造られたものがほとんどであるのに対し、カイラニの建物はゴツゴツした赤茶色の岩を器用に積み重ねて造られていた。
「ダンテの家って、小人のお家みたいだね!」
「はぁ?」
四人はダンテの実家の前に到着した。エステルは昔絵本で見た小人の家を思い出し、目を輝かせている。他の三人は少し緊張した面持ちだった。
「ねぇ、入らないの? 早く入ろうよ?」
なかなか家に入ろうとしないダンテをエステルが急かす。
「分かってるよ、ちょっと待てよ・・・・・・」
ダンテは深呼吸を一つすると、扉に手をかけ勢いよく前へ押した。扉はギィという音を立てて開いた。
「おい! 帰ったぞ! ・・・・・・って、あれ?」
「あ、お帰り、兄さん」
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
ダンテの目の前には懐かしい実家の風景が広がっていた。居間のテーブルの上には昼食の準備が整いかけており、妹のイルマがエプロン姿で鍋をテーブルへと移動させている途中だった。弟のロメオは、仕事の依頼なのだろう、イスに座って枝切りバサミの先端を工具で研いでいるところだった。
「お、おう・・・・・・ただいま」
あまりにも普通の妹弟の様子にダンテは拍子抜けした。怒っているというロベルトのオッサンの発言は嘘だったのだろうか。ダンテは呆然と玄関に突っ立っていた。
「こんにちは~! おじゃまします!」
「おじゃまします。イルマさん、ロメオさん、初めまして」
「失礼します・・・・・・」
固まったままのダンテの後ろから、エステル、ロック、ドミニクが続いて入ってきた。
「こんにちは! ロック先生に、ドミニクさん、エステルさんですね? 兄がいつもお世話になっています。妹のイルマです。こっちが弟のロメオです。ロメオ、立って!」
イルマは鍋を置いて四人の方へ小走りでやってくる。ロメオもイスから立ち上がり、姉の後に続いた。
「初めまして。弟のロメオです。こんな遠いところまで、わざわざすみません」
「いや、大事なお兄さんの一生に関わる話ですから、こちらから伺うのは当然です。ちなみに、私が『時空の賢者』セシル・ロックですので、お間違えなきよう」
ロックは先程の老人との会話を教訓に、早めに『時空の賢者』を名乗った。
「へ? ハハハッ、知ってますよ! クイーンが言ってたとおりだ! 金髪のガキ・・・・・・あ、いや少年の姿をした六十五歳のおじいさんなんですよね?」
「六十五歳はまだ、じいさんではない」
ロックは若干気分を害した。しかし、ロメオのせいにするのは可哀想だ。
「そう言えば、クイーンはどうしたんでしょうか? こちらに先に着いていると思っていたのですが・・・・・・」
ドミニクは部屋の中を見渡す。
「クイーンちゃんは、『ちょっと飛んでくる』って言って朝から出かけてますよ」
イルマがニコニコしながら答えた。
「そうですか、安心しました。それにしてもご兄弟、よく似ておられますね。妹さんの方は、華奢で可愛らしい雰囲気ですが、目元がよく似てらっしゃる」
「え・・・・・・」
イルマは初対面の男性にいきなり『可愛らしい』と言われて戸惑った。ただでさえ、ガサツで、お世辞さえ言えないような男たちに囲まれて暮らしてきたのだ。イルマはドミニクのようなタイプに免疫がなかった。思わず顔を真っ赤にする。
「おい・・・・・・人の妹、公然と口説いてんじゃねぇよ」
ダンテがムスッとした表情でドミニクの横に立つ。
「えっ!? 別に口説いてないよ?」
「なおさら、タチ悪ぃな」
「も、もう! 何言ってんのよ、お兄ちゃん! お昼ご飯、もうすぐできるんだから、手伝ってよね!」
「はぁ!? 俺も手伝うのか!?」
「当たり前でしょ!」
「帰って来たとこだぞ・・・・・・」
「あの、僕たちもお手伝いします」
ドミニクが控えめに申し出る。
「いいんですよ、皆さんは座ってらしてください。慣れない土地を歩いてお疲れでしょう? すぐ用意できますので」
「俺も疲れてるぞ」
「お兄ちゃんはいいの!」
そう言うとイルマはダンテの背中を押しながら、キッチンへと戻っていった。




