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第2節 旅のしおり

「つーか、ロックのやつ遅くねぇか?」

 ダンテが手元の時計で時刻を確認する。三人は「授業が終わったらすぐ研究室に来い」とのロックの命令により集合していた。それなのにロックが一番遅れている。


 ガチャ--


「おぉ、お前ら早いな」

 ようやく開いたドアを三人が一斉に振り向く。

「ロックが遅いんだよ。もう三十分も待ってるんだから」

「え・・・・・・?」

 ロックはキョトンとしている。

「今日、四限までじゃなかったのか?」

「三限までだよ・・・・・・」

 やっぱり勘違いしていたかと、三人はロックを白い目で見る。彼は何事にもきっちりしている割に、こういうところで案外抜けていたりするのだ。

「う、悪かった・・・・・・そんな目で見るなよ」

「こっちだって暇じゃねぇんだよ」

「もう、悪かったって言ってるじゃないか」

 ロックは三人の座るソファをそそくさと通り抜け、自分の机の席に座った。

「さ、気を取り直して大事な話だ」

 ロックは両手を胸の前で組み、その上に顎を置いた。

「昨日、ラッピーを誘拐した奴らから警備隊が話を聞けたらしい」

「あぁ、よかった・・・・・・気が付いたんですね」

 ドミニクがホッとしたように呟く。ダンテは気まずそうに視線を落とした。一方、エステルは暴行事件の話までは聞かされていなかったので小さなハテナマークを頭に飛ばした。ロックは気にせず話を続ける。

「あいつら、ラッピーをブローカーに売ろうとしていたらしい」

「え!?」

 エステルは絶句する。しかしダンテとドミニクは特に驚かなかった。何となくそうだろうと思っていたのだ。精霊はその姿形の美しさから愛好者が多く、力の弱い下級精霊などは捕らえられて売買の対象とされていた。もちろん違法であるし、それ以前に罰当たりな行為なのだが、昔から闇取引は後を絶たない。それだけ儲かる市場なのだ。

「元を潰してやりたいところだが、あいつら本当にただのチンピラらしくて、全く情報を持っていなかったんだそうだ。最近、青い鳥の精霊の値段が急激に上昇してるから、自分たちも捕まえてみたとか言ってるらしい」

「最低だよ!」

 エステルが怒りを露わにする。ラッピーも『ぴぃ!』と鼻息を荒くした。

「でもどうして青い鳥の精霊の値段が上がってるんでしょう?」

 ドミニクが眉をひそめる。

「ここ半年で五倍にも跳ね上がっているらしい」

「五倍!? そりゃ普通じゃ考えられねぇな。金持ちのコレクターが現れたってとこか」

 ダンテが通な意見を口にした。

「あぁ、俺もそうじゃないかと考えている。で、バークリーの協力も得て少し調べてみたら、『ターガス』の街が怪しいことが分かった」

「ターガス!?」

 ダンテは思わず大声を上げた。

「--!? どうしたの、ダンテ?」

 エステルはびっくりしてダンテを振り向く。

「あ、わりぃ・・・・・・」

「ターガスは、カイラニから一番近い街らしいな」

「え、それって、ダンテの地元ってこと!?」

「そうだな・・・・・・」

 ダンテは苦々しげに視線を落とした。

「あそこはよ、結構治安が悪いんだ。俺も昔いたから知ってるけどよ・・・・・・ブローカーもいた」

「え!?」

 エステルが目を丸くする。

「ガラの悪い小規模のギルドがいっぱいある。犯罪まがいのことも、日常的に行われてたな」

「で、お前もそんなガラの悪いギルドに所属してたハンターだったって訳だな?」

「・・・・・・まあ、否定はしねぇよ」

「そんな・・・・・・!? ダンテも精霊売ってたの?」

 エステルが泣きそうな顔でダンテを見つめた。

「はぁっ!? 売ってねぇよ! 俺はモンスター退治と用心棒しかしねぇ! んな、下衆な仕事請け負うか!」

 精霊の売買は裏の世界でも蔑まれるような下等な仕事だった。エステルがそのあたりの事情を知っているはずがないとはいえ、プライドを傷つけられたダンテは若干キレた。

「何だ、ビックリしたじゃん。よかったよ」

 エステルはホッと胸をなで下ろした。ダンテがキレていることは特に気にしていない。

「勝手に馬鹿な三流ハンターと一緒にしてんじゃねぇよ。俺の所属してたギルドは一番まともで実力のあるところだ」

「ふん・・・・・・『レッドグリフォン』か」

 ロックが呟く。

「・・・・・・よくご存じじゃねぇか」

 ダンテは吐き捨てるように言った。

「あそこはまだマシだな。ちょっと安心したぞ。『ヘルハウンド』だったとか言われたら正直引くところだった」

 ロックがはっはっはと笑う。

「んなワケねぇだろ! あのハイエナ集団・・・・・・きっと今回、青い鳥の精霊集めてんのもあいつらだ! この機会に二度と再起できないように叩き潰してやる!」

 ダンテの剣幕にエステルはビクッとした。ラッピーも『ぴ!』っと震え上がる。

「ふん、何か因縁があるようだな。だが、今回の件にヘルハウンドが関係しているかは分からん。慎重に判断すべきだ。それからダンテ、エステルが怖がるから乱暴な言葉遣いはやめろ」

「・・・・・・悪かったよ」

 ダンテは縮こまったエステルをチラッと見て素直に反省した。ロックはうんうんと満足そうに頷くと、机の中から徐に何かを取り出す。

「じゃ、これが今回の予定表だ! エステル、配ってくれ!」

「え? なになに?」

 エステルが立ち上がり、手作りの冊子のような物を受け取る。

「『旅のしおり』・・・・・・何これ?」

「何だ?」

 ダンテとドミニクが訝しげにエステルを見る。

「あ、ごめん、ごめん! はい!」

 二人はそれぞれエステルから冊子を受け取った。中をパラパラとめくってみる。そこには、明日カイラニに到着する時間や、ターガスでの調査の時間、昼食の時間からお風呂、歯磨きの時間に至るまで分単位で細かくスケジュールが書き連ねてあった。

「・・・・・・ロック先生、明日僕たち、カイラニとターガスに行くんですか?」

 ドミニクが勇気を出して質問する。

「そうだ! 一泊二日、ターガス調査の旅! ついでにダンテの兄弟にご挨拶をしに行く旅だ!」

「聞いてねぇよ!」

 ダンテがソファからバッと立ち上がる。

「土日を空けておけと言っておいただろう。ちなみにイルマさんには了承済みだ」

「俺に先に言えよ!」

「うわぁ、楽しみ~! ダンテ、イルマさんってどんな人?」

「ただの口うるさいガキだ! つーか、何でエステルも行くことになってんだよ! カイラニはいいとして、ターガスは本当に治安悪いんだぞ!」

「そう言うのも見せといた方がいいと思ったんだ。社会勉強だ」

「ロック! おやつはいくらまで?」

「向こうで買ってやるから手荷物は少なめにしろ。俺のテレポートの負担が大きくなる」

「え!? ロック先生、テレポートで行くんですか? 四人もこの距離は流石にキツくないですか?」

 ドミニクがロックを心配する。

「あぁ、着いたらすぐ寝るから、調査はお前らだけでやってくれ」

「丸投げかよ!」

 ダンテはその後も散々文句を言い続けていたが、当然ロックの気が変わることはなく、『一泊二日、ターガス調査の旅』は、しおり通り催行されることとなった。


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