第10節 誘拐
(うぅ、ラッピー・・・・・・)
エステルは風の法の教室でうなだれていた。結局、ラッピーは一限の時間だけでは見つからなかった。二限を休んで捜索すると駄々をこねたものの、ロックに反対され、ダンテに教室まで引きずって来られた。仕方がないので観念して授業を受けている。しかし頭には何も入ってこなかった。
キーンコーン、カーンコーン--
(よし! 終わった!)
エステルはバタバタと鞄に授業道具を放り込む。
「おい、エステル」
隣に座っていたダンテが声をかける。
「私、捜しに行ってくるから!」
「あ、ちょっと待てって!」
ダンテの呼びかけも空しくエステルは風のように去って行った。
(ロックとドミニクさん、どこまで捜しに行ってくれてるんだろ・・・・・・ラッピー見つかったかな)
エステルはまず召喚法の教室に戻ってみた。しかし誰もいない。次にロックの研究室にも行ってみる。だがここも鍵がかかっており人の気配はなかった。もう勝手に捜しに行ってしまおうか--エステルは取りあえず学園の外に出ようと廊下を歩き出した。
「エステルさん!」
「--? あ、ドミニクさん!」
後ろからの声に振り向くと、こちらに向かって走ってくるドミニクの姿があった。
「探したよ・・・・・・ダンテさんから走って出て行ったって聞いて、慌てて追いかけて来たんだから」
「え! そうだったんですか! 迎えに来てくれたんですか?」
それなら待っていれば良かった、とエステルは少し後悔した。
「ロック先生が『捜すなら昼飯食ってからにしろ』って言ってたよ?」
「・・・・・・うん」
エステルは少し渋い顔をする。
「やっぱりすぐ捜しに行くつもりだったんだね・・・・・・ダメだよ、心配なのは分かるけど、ご飯はちゃんと食べないと。食堂、行こうね?」
ドミニクはエステルに目線が合うように屈むと、ニコッと微笑んだ。
二人は食堂で昼食を済ませると、ロックの元へ向かった。ロックはラッピーが街中に出ていると踏んで、聞き込み調査を開始していた。
「ロック!」
「お、エステルか。昼飯はちゃんと食ったか?」
「うん、食べた! ラッピーの目撃情報あった?」
エステルがロックを不安げに見つめる。
「今のところない。聞き始めたところだし、もう少し聞いて回る」
「そっか・・・・・・あ、じゃあ私も向こうで聞いてくるね!」
「あ、おい!」
エステルはそう宣言すると、反対側の路地へと走っていく。
「う~ん・・・・・・早く見つけてやらんとなぁ」
ロックがエステルの背中を見送りながら呟く。
「二、三日で戻ってくるという可能性も高いと思うのですが・・・・・・」
「あぁ、だが見つかるまで捜し続けるだろうからなぁ」
「そうですね・・・・・・」
ロックとドミニクは思わず苦笑いを漏らした。
「おい!」
「お、ダンテ。お前も来てくれたか!」
ダンテが二人に合流する。
「ドミニク、エステルには会えたのか?」
「えぇ。でも、ついさっき向こうの路地に入って行っちゃいました。聞き込みするって」
「・・・・・・勝手に戻ってくるんじゃねぇかなって、思うんだけどよ」
ダンテが少し面倒くさそうに言う。
「えぇ、でも、見つかるまで探し続けるだろうなって言ってたんですよ」
「まぁそうだろうな」
ダンテが大げさに溜め息を吐く。
三人とも今日の午後を捜索に費やすことに諦めが付いたようだった。
(お腹空いたっぴ・・・・・・)
ラッピーは後悔していた。
(家出したはいいものの・・・・・・行く宛がないっぴ・・・・・・)
ラッピーが前回物質界に喚ばれたのは百年以上も前のことだった。以前の契約者は当然のことだが亡くなっている。しかも精霊界に帰ろうにも魔法陣などの媒介がない。
(もう暗くなってきたっぴ・・・・・・寂しいっぴ・・・・・・エステルのところへ帰りたいっぴ・・・・・・)
だが、適当に飛んできてしまったのでここがどこかも分からない。暗くて細い路地の片隅で、ラッピーはとうとう、ぴぃぴぃ泣き出してしまった。
『ぴぃぴぃぴぃぴぃ・・・・・・』
お腹空いた--寂しい--怖い--ラッピーはもうただ泣き続けるしかなかった。
「どしたの? 可哀想に、マイゴ?」
『--!?』
突然降ってきた声にラッピーはビクッとした。泣くのをやめて声の主を見上げる。そこには二十歳前後の男性が二人、ヘラヘラと軽薄そうな表情でラッピーを見下ろしていた。
「青い、鳥・・・・・・精霊で間違いないよな・・・・・・」
「あぁ、多分・・・・・・」
二人はラッピーをジロジロと観察する。何とも不躾な態度だ。ラッピーは警戒した。しかし--
「おいで? お腹空いてるんだろ? クッキーあるぜ」
『ぴ!?』
男の一人が差し出したクッキーにラッピーは釘付けになる。空腹はラッピーの思考能力を低下させた。
「ほら、食べなよ」
男は食べやすいサイズにクッキーを割る。見た目ほど悪い人でもないのかもしれない--そう思ったときにはもう、ラッピーは差し出されたクッキーを口にしてしまっていた--




