第9節 家出
(信じられないっぴ!)
ラッピーは怒っていた。
(あんな恐ろしい上級精霊がいるところに連れて行くなんて、エステルはどうかしてるっぴ!)
ラッピーは上級精霊が怖かった。同じ精霊界の住人だと言っても、階級によって魔力は全く異なる。下級精霊は上級精霊に取り込まれ、消滅させられてしまうことだってあるのだ。
(ラッピーはまだまだ人生を謳歌したいっぴ・・・・・・せっかく久しぶりに物質界に喚んでもらったのに、取り込まれてしまっては意味がないっぴ)
あのドラゴンは自分を狙っているに違いない。次に見つかったときはきっと終わりだ。ラッピーはそう思い込んでいた。
(逃げるしかないっぴ。エステルには悪いけど・・・・・・家出っぴ!)
ラッピーは学園の敷地を越え、パンデクテンの街へと飛んでいった。
「ラッピー! ラッピー!?」
エステルの声が学園中に響き渡る。
「おい、お前、授業中だぞ。もっと静かに探せ」
ダンテが注意する。
「だって、だって・・・・・・ラッピーが!」
「落ち着けよ。きっとすぐ見つかる」
「うぅ・・・・・・ラッピー・・・・・・」
エステルとダンテは学園の時計塔の屋根に移動した。
「ここからならよく見渡せんじゃねぇか? あいつ結構目立つ色してたし、青いもんが飛んでたらそれだろ」
「あ、あれ!」
エステルの視界の端を青い物体が横切った。
「いたか!?」
ダンテがエステルの指さす方をバッと見る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あれはユーリだ」
「そ、そうだね」
「怒られるぞ」
「い、言わないでね」
水色の髪をフワフワ揺らしながら浮遊するユーリは、遠くから見ると青い鳥のように見えなくもなかった。
二人の視線に気付いたのか、ユーリも時計塔の方へと向かってくる。
「ねぇいた?」
「い、いないよ!」
「--? そう。でもそんなに遠くには行ってないはずだよねぇ? 家出したんならまだしも」
「家出!?」
エステルはショックを受けた。
「あり得るんじゃない? もう、戻りたくないって思ってるかもよ?」
「そんな・・・・・・」
ラッピーに嫌われてしまった。自分の不注意のせいで・・・・・・エステルは頭が真っ白になる。
「おい、ユーリ。適当なこと言ってんじゃねぇよ。まだ捜し始めたとこなんだ。とっとと捜しに行くぞ」
「はいはーい」
ダンテとユーリは時計塔を離れ学園内の捜索に戻った。
エステルも二人とは反対側を捜してみようとコロッセオの方へ向かって移動していった。
(いないなぁ・・・・・・)
コロッセオに降りたったエステルは、ぐるりと観客席を見渡す。ラッピーがいる気配はなかった。
「エステルさん、ラッピーいた?」
ドミニクがゆっくりとエステルの側へと着地した。エステルはふるふると首を左右に振る。
「ドミニクさん・・・・・・あの、精霊って家出したりするんですか?」
エステルが不安げにドミニクを見上げる。
「家出? ラッピーが家出したかもしれないって思ってるの?」
「はい・・・・・・」
ドミニクは少し返事に困った。自分もその可能性を考えていたからだ。ドミニクは腰を折ってエステルと目線を合わせると、優しい口調で言葉を返した。
「エステルさん・・・・・・精霊にも心があるから、嫌になって契約者の元からいなくなっちゃうことも偶にはあるんだ。でもね、ちゃんと仲直りすれば大丈夫。ラッピーも、もしかしたら怖がって帰りたくないって思ってるかもしれないけど、エステルさんが捜してあげなくちゃ仲直りはできないよ?」
「はい・・・・・・」
「それに、まだ家出したって決まった訳じゃないでしょ? エステルさんのこと待ってるかもしれないんだから、取りあえず今は捜すのに集中しよう?」
「そう、ですよね。私がラッピーを見つけなくちゃ」
「そうだよ。だから元気を出して捜しに行こう?」
ドミニクはニコッと笑った。
「はい!」
エステルは気持ちをしっかり持ち直すと、ドミニクと共に捜索を再開した。
「ふん・・・・・・学園内にはいないかもしれんな」
ロックが呟く。
「街に出て行っちまったってことか?」
ダンテがロックを振り返った。
「あ、じゃあ街まで捜しに行こうよ! フロートで!」
ユーリがニコニコしながら提案する。
「それはダメだ。街中で軽々しく魔法律を使ってはいけない。よっぽどのことがない限り許可は下りん」
「精霊一体が迷子なだけじゃ流石にムリだとよ。ユーリ、諦めろ」
「ちぇ」
ロックとダンテに諫められ、ユーリは少し拗ねた。
「とにかく、もうすぐ一限が終わる。お前らは教室に戻って次の授業に行け。捜索は俺とドミニクで継続する。ダンテ、次、風の法だったな?」
「あぁ」
「ドミニクの休講を伝えておいてくれ。後、エステルをちゃんと出席させろ」
「分かった」




