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第3節 ミルド(1)

「おいし~! これ、何て言うお菓子なんですか?」

「これはねぇ、ミルド伝統のお菓子で『コルン』って言うの。丸くて可愛いでしょ? お月様の形なのよ」

「へぇ、お月様なんだぁ。何て言うか、クッキーよりも柔らかくて、マドレーヌより固くて、こんな食感初めてです!」

「焼き加減が重要なのよ。よかったら今度、作り方教えてあげるわ」

「え、いいんですか!?」

「もちろんよ。ロック先生もコルン好きだから、作ってあげたらきっと喜ぶわ」

「そうなんだ! 頑張って作ろうかなぁ」

 エステルとクロエは、応接用のソファで向かい合って、ペチャクチャと他愛のない話を続けていた。研究室に到着してから、もう三十分は経過している。

「おい・・・・・・何か話をするんじゃなかったのか」

 自分の仕事机で黙々と本を読んでいたドルバックが、ついに二人に声をかけた。

「あ、そうだったわね。エステルちゃん、ミルドのことだっけ? 何が知りたいのかな?」

 クロエが話を切り出す。

「あ、はい・・・・・・」

 そう言われても、エステルは何をどう聞けばいいのか自分でも分かっていなかった。とにかく、ミルドが言われのない差別で苦しんできた、その原因が召喚法にある--その程度の知識しかなかったので、自分でもそもそも何が知りたいのか分かっていなかったのだ。いや、一つだけ知りたいことはあった。なぜ、クレアがミルドを嫌っているのか--しかし、これをクレア以外の人物に聞いても意味がない様な気がする。それに、嫌われている張本人に聞くなど以ての外だ。

「エステルちゃんは、ミルドのこと、どこまで知ってるのかな?」

「・・・・・・召喚法が得意なせいで、他の人たちに怖がられて、差別を受けてきたってことくらいしか知りません」

 エステルは自分の無知が恥ずかしかったが正直に言った。

「あら、じゃあ、超初心者ね。どうして興味を持つようになったのかしら?」

「それは・・・・・・」

 それこそ、エステルの口からは言えなかった。クレアの印象を悪くしてしまう。それにクロエの気分も害してしまうだろう。

「ドミニクが関係してるのかな?」

「あ・・・・・・」

 エステルは嘘がつけない性格だった。こうして図星をつかれると、どうしても顔に出てしまう。

「やっぱりそうなのね・・・・・・エステルちゃんは、うちの弟のこと嫌い?」

「--!? そんなことないです! ドミニクさんはすっごく優しいですし、召喚法も得意で尊敬してます! なのに何で嫌われなきゃいけないのかなって・・・・・・!」

 エステルは、あっと口を押さえたがもう遅かった。エステルの周りにミルド嫌いがいることがバレてしまった。

「・・・・・・そっか、私たちのこと嫌いな人って、結構多いもんね。でも、それはミルドのせいでもあるの。本当は、それを聞きたかったんじゃない?」

 クロエが少し困ったように笑う。その顔はドミニクによく似ていた。

「え・・・・・・と・・・・・・」

 エステルは言いよどむ。

「いいのよ、遠慮しないで。私はエステルちゃんになら話してもいいって思ってるの。ドミニクと仲良くしてくれてるみたいだし」

 クロエは今度はニコッと明るく笑った。

「おい・・・・・・クロエ」

 ドルバックが口を出す。

「分かってるわよ。エステルちゃんの教育に悪いことは言わないから。でも、大事なことは端折らないわ」

「・・・・・・お前がいいなら構わないが」

 ドルバックを黙らせると、クロエはエステルに向き直り笑顔で話し出した。

「ミルドはね、そもそも最初の召喚の賢者『ジゼル』の末裔なの。だからミルドの起源ってなるともう何千年も前に遡ることになるのよね。ミルドはそれからもずっと、大精霊に認められ、召喚の賢者を輩出してきたわ。現召喚の賢者『アメリー・コレット』もミルドよ。『アメリー・コレット』のことは知ってるわよね? 最後に大精霊に認められた召喚の賢者の子孫にあたる人よ」

「アメリーさんにはお会いしたことがあります」

「そうなんだ。面白い人だったでしょう?」

「はい!」

「でも、彼女はミルド以外を信用していないの。何となく分かったんじゃないかしら?」

 クロエはまた困ったように笑う。

「・・・・・・私に、興味を持ってくれないな、とは思いました」

 エステルは少し躊躇ったが正直に答えた。

「うん・・・・・・多分、そうなんでしょうね。彼女はミルド以外全員嫌いよ。それは彼女の家族も、彼女自身も、ミルドを畏れる人たちに命を狙われ続けてきたからなの」

「・・・・・・『魔女狩り』ですか?」

「そうね。でも最近では二十年前に大規模のなのがあったきりで、久しくお目にかかってないわね~」

「あってたまるか」

 呑気そうに言うクロエにドルバックが突っ込む。

「でね? 魔女狩りの話なんだけど、ミルドが黙ってやられてただけだと思う?」

「--?」

 エステルは首を傾げた。

「ちゃんと反撃してたわ。上級精霊を召喚して、ね」

「え!? 上級精霊で!? そんなの・・・・・・」

 絶対勝つじゃない--と言おうとしてエステルは口を噤んだ。命を狙われているのだ。正当防衛という言葉が頭に浮かんだ。

「上級精霊なんて喚んだら、並の魔法律家じゃ歯が立たないわ。賢者でも戦い馴れていなければ負けるでしょうね。まあ、バークリー校長やロック先生レベルなら勝てるでしょうけど」

「上級精霊って・・・・・・数少ないんですよね?」

「そうね。百いるかいないかってとこじゃないかしら?」

「それをミルドが全員、契約してるんですか?」

 エステルは本当にミルドが上級精霊を独占しているのか気になった。

「ミルドの中でも上級精霊を召喚できる者は限られているわ。そうね・・・・・・私の知る限り、十人ってとこかしら」

「え!? そんなに少ないんですか!?」

 それでは独占なんて無理のように思える。

「そうよ。それに普通は、一体ずつしか契約できないわ。上級精霊はプライドが高いから、他の上級精霊と契約していたら契約してくれないの」

「プライド、高いんですか? そんな風には・・・・・・」

 エステルはケーラーを思い出していた。ケーラーも上級精霊のドラゴンだ。プライドが低いわけでもないだろうが、それほど高そうでもない。むしろそういったものを超越しているような感じだ。

「それはあなたの側にいらっしゃるホワイトドラゴンのことかしら?」

「え!? 知ってるんですか?」

 エステルはビックリした。

「知ってる訳じゃないけど、見た目と雰囲気がね。私が契約しているゴールドドラゴンにそっくりよ」

「え!? クロエさんも上級精霊、召喚できるんですか!?」

 エステルはさっきから驚かされてばかりだ。

「こいつはすごいぞ。上級精霊五体と契約している。おそらく歴代最高だ」

 ドルバックがまた口を挟む。

「そんなことないと思うけど・・・・・・」

 クロエが苦笑する。

「召喚の腕はミルドの中でも一、二を争うレベルだろう」

 ドルバックはなぜか自慢げだった。

「ドルバック先生も上級精霊、召喚できましたよね?」

「ん? ああ、十年前に成功した。それもクロエの協力のおかげだ」

 そう言うとドルバックはまた自慢げに口角を上げる。

「へぇ、クロエさんってすごいんですね!」

「ふっ、そうだろう」

「何威張ってんのよ・・・・・・」

 クロエはドルバックに呆れた視線を向けながらも、少し照れくさそうだった。

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