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第10節 時空法(1)

「はぁ・・・・・・」

 ダンテはうんざりしていた。

 次の日は月曜日で、一限から必修科目の授業があった。そして、どこからどうバレたのかは分からないが、一限の時点ですでにダンテが調査官になったことは学園中に知れ渡っていた。それは自分が教室に入った瞬間に分かった。学生たちが好奇に満ちた目でジロジロと見てくるのだ。

(ヤな感じだな・・・・・・)

 それはキャンディショップにお使いに行かされたときの感じに似ていた。異質な存在を観察するかのような視線--教室にいるだけでかなりのストレスが溜まった。それから三限まで、この視線にさらされ続けたダンテは、さすがにイライラを抑えるのも限界にきていた。


「あ、来た来た。調査官だ」


 時空法の教室に入ってきたダンテにユーリがニヤニヤしながら冷やかしの声を浴びせる。

「うっせえよ!」

「こわっ。怒りすぎじゃない? それに悪口でも何でもないんだからさぁ。むしろ、いいことじゃん」

「うるせえ! 黙れ!」

「オレに当たんないでよ」

 ダンテはいつもの指定席に鞄をドンと置くと、乱暴に椅子を引いて座った。

「公式に決まった訳ではないのですか?」

 ケーラーがダンテに声を掛けた。ダンテはケーラーの方を一瞥したが、すぐに視線を目の前の鞄に移す。

「昨日、一応受けるって言っただけだ。契約書もまだだ。ロックの他は、ドミニクとエステルとユーリしか知らないはずなのに、何でここまで広まってんだよ・・・・・・」

「まあ、いずれは分かることですし、ユーリさんもおっしゃるように悪いことではないのですから、そんなに気にされることはないですよ」

「そりゃ、悪いことじゃねぇけどよ・・・・・・」

 もちろん調査官になることは悪いことではない。むしろ名誉なことだ。しかし、ダンテには今日の学生たちの視線が『ダンテが調査官になること』を『悪いこと』だと言っているように思えてならなかった。


「おはようございます・・・・・・」

 ドミニクがげっそりした様子で教室に入ってきた。

「あ、もう一人の調査官が来たよ」

 ユーリがまた冷やかす。

「おい、ドミニク・・・・・・もう昼だぞ」

「そう、そうですね・・・・・・何だか朝から気疲れしてしまって、挨拶も間違えてしまったようです・・・・・・すみません」

「いや、別に謝らなくてもいいんだけどよ。つーか、お前言ってないよな? 何で、こんな広まってんだよ」

「言ってませんよ。こうなるのが分かってるのに」

「だよな。つーことは・・・・・・」


「おはよー!」

 エステルが元気よく教室に入ってきた。

「おい! エステル、もう昼だ! つーか、お前、何でこんなに広めてんだよ!」

「え? 何のこと?」

 エステルは目をパチクリさせる。

「調査官のことに決まってんだろうが!」

「え? 私、クレアにしか言ってないよ?」

「そっから広まったんじゃねぇのかよ」

「そんなことないよ! クレア、『まだ、言わない方がいいんだよね?』って、言ってくれたんだよ! 言うわけないじゃん!」

「じゃあ、誰が広めたっていうんだよ」

「知らないよ、そんなの!」


  ガラガラガラッ--


「みんな、おはよう!」

 教壇側の扉が開き、ロックが姿を現した。彼にしては珍しくエステルと変わらない位のハイテンションだった。

「おい・・・・・・もう昼だって言ってんだろ」

 ダンテが本日三回目の突っ込みを入れる。

「ん? そうだな! 何か、テンションが上がっててな! 朝も昼もどうでもいい感じだ!」

「何で今日はそんなにハイテンションなの?」

 エステルはロックを振り向き首を傾げた。

「調査官が決まったからじゃないか! ずっと悩みの種だったことが解決したんだ! 嬉しすぎてみんなに報告して回ったぞ!」

「え・・・・・・みんなって?」

「バークリーに、ドルバックにテレサ先生に--あ、そのときゼミ生もいたから、そいつらにもついでに。それから・・・・・・」

「広めたのお前かよ!」

 ダンテが椅子からガッと立ち上がる。

「いいじゃないか! 決まったことなんだから! それとも何か? お前はこの期に及んで、引き受けないとか言う気じゃないだろうな!?」

「受けるけどよ! 昨日の今日で、こんだけ広まってたらビックリするだろうが! 心づもりってもんがあるんだよ!」

「気の小さい奴だな。もう、うるさい、うるさい。授業、授業」

「ほんと、自分勝手だよな! お前!」


  キーンコーン、カーンコーン--


 ロックとダンテの言い争いは、チャイムによって中断された。

「よ~し、みんな、今日も前回に引き続き屋外で『フロート』の実践だ! 今日は何と『コロッセオ』が取れたぞ。今から行くぞ!」

「「お~!」」

 エステルとユーリがロックのテンションに付いて行く。

「教室には戻って来るのですか?」

 ケーラーが質問する。

「ん? そうだな。そのときのノリで決めよう。向こうで解散することになるかもしれないから、鞄持って行ってもいいぞ」

「決めとけよ・・・・・・大体、いっつも場所取るのも遅いんだよ・・・・・・」

 早めに決めておいてくれたら現地集合できるのに、とダンテはいつも思っていた。

「ほんとにお前はうるさいな。そんなこというなら、お前が取れ」

「はぁ!? 教師の仕事だろうが!」

「ねぇ、もう早く行こうよ~」

「時間なくなっちゃうよ、ロック~」

 ユーリとエステルが急かす。

「ん・・・・・・そうだな。うるさいダンテは放っといて早く行こう」

「・・・・・・」

 ダンテはもう反論する気力もなかった。 

「それじゃあ、行くぞー!」

「「おー!」」

 ロックは可愛い子分を二人引き連れて、廊下へと飛び出していった。

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