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第9節 調査官のお仕事

「やっと片付いたな・・・・・・お茶を入れるから、ちょっと待っててくれ」

 ロックはまとめた書類を机の中に片付けると、紅茶を入れに席を立とうとする。

「僕がやりますよ、ロック先生」

「気を遣わなくていい、座ってろ」

「いえ、淹れさせてください。僕、紅茶入れるの得意なんですよ? キッチンはこちらですね」

 ドミニクはそう言うと、ロックが立つよりも早くキッチンへと向かった。

「悪いな、紅茶はそこに出てると思うから」

「はい、ありました」

 ロックは結局、ドミニクの好意に甘えることにした。

「何か、ドミニクさんって、もてそうだよね」

 エステルが呟く。

「そうだな、ミルドの民は大体、ああいった気遣いができる。だから精霊にももてるんだろう」

「クイーンちゃんもメロメロだったもんね」

「あぁ、ダンテにはできない芸当だ」

「やりたくもねぇよ」


「紅茶、入りましたよ」


 ドミニクがキッチンから出て来た。優しく微笑みながら紅茶を配る。エステルは、どこかの執事みたいだと思った。

「・・・・・・さっき、僕の話してました?」

 自分もソファに腰かけると、ドミニクが困ったように笑った。

「はい! ミルドの民は気遣いができるから、人間にも精霊にもモテモテだって、言ってたんです」

「・・・・・・そんなことないですよ。少なくとも人間には嫌われています」

「え・・・・・・」

 エステルは何と返してよいのか分からなかった。

「おい、お前暗いんだよ。エステルが引いてるだろうが」

 ダンテはそう言うと紅茶をズズッとすすった。

「・・・・・・すみません」

「謝んなよ。まったくよ・・・・・・こいつがそういう意味で言ったんじゃねぇってことくらい分かるだろうが」

「・・・・・・すみません」

「謝んなつってんだろうが」

「・・・・・・」

 ドミニクは喉まで出掛かった「す」の文字を飲み込んだ。

「ダンテ、そんなにきつく当たってやるな。ドミニク、お前が今まで、心ない人間にどれだけ辛い思いをさせられてきたかは分からない・・・・・・だが、ここにはそんな人間はいない。それだけは分かっててくれ」

「はい・・・・・・」

「ドルバックはミルド以外の人間に上級精霊が召喚できることを身をもって証明した。お前たちのためにな。そういう人間もたくさんいる。だからお前も、そういう人間たちのことを信用してくれないか?」

「そう、ですね。僕も・・・・・・信用していない訳ではないんですが・・・・・・どうしても、不愉快なこと言ってしまうときがあって・・・・・・ドルバック先生にもよく注意されるんですが・・・・・・気を付けます」

「うん、これからはきっとダンテも注意してくれるだろう」

「・・・・・・お手柔らかにお願いします」

「俺は気を遣えるタイプじゃねぇからムリだ」

「ふふふっ」

「何笑ってんだよ」

 エステルは大人たちの話にあまりついていけなかった。ただ、自分が世間知らずなんだろうということは分かった。

「さて、休憩はこの程度にして、仕事の話に移ろうか。エステル、お前もう、自習に戻っていいぞ」

「は~い」

 エステルはまだ少し残った紅茶を持って、自分の机へと移動した。


「大体知っているとは思うが、調査官の仕事の概要を説明しておこう」

 ロックはダンテとドミニクに説明を開始する。

「まず、『賢者の護衛』--つまり俺が死なないように守るということだ。だが、俺は最強だからお前たちに守られる場面などないだろう」

 ダンテとドミニクは少し口を挟みたい気持ちになったが我慢した。

「次に、『力の承継』--これは、前に一人ずつ説明したから省く。まあ、俺が負けることなどないだろうから心配しなくてもいいが、一応、覚悟は決めておいてくれ」

 二人は軽く頷いた。

「最後は、『賢者の研究の手伝い』だ。これがメインの仕事になるな。賢者の研究は、普通の研究者のそれとは一味違う。『魔法律の発見』--これが賢者に課せられた使命だといっていい。どんなことするか知ってるか?」

 ロックが二人の目を一度ずつ見る。

「遺跡とかに行って、『魔法律書』探してくるんじゃないのか?」

 ダンテが先に答えた。

「うん、まずはそれだな。大精霊は各地に『魔法律書』を残している。それに大精霊によって伝えられた『魔法律書』が、千年前に彼らが物質界を去ってから、人間によってあちこちに散逸させられてしまった。それらを集めて編纂するのが賢者の仕事、ということになっている。だが、これは取りあえず、賢者がやった方がいいと思われているだけで、誰にでもできることだ。賢者にしかできない研究が一つある」

「『自然法の発見』--ですね」

 今度はドミニクが答える。

「そうだ、魔法律は大精霊がこの物質界を生み出したときにすでに完成させられている。その一部は、大精霊が記した『魔法律書』によって人間に伝えられた。しかし、大部分は客観的に存在するものの発見されてはいない。それらを『自然法』という。研究により『自然法』を発見すること--これは賢者でなければできないことだ」

「要するに、魔法律書探しに行くか、ここで研究するか、どっちかってことだろ?」

 ダンテが説明をまとめる。

「まぁそうだ。あ、後ドミニク。エステルの護衛は継続してくれ」

「分かりました」

「それで、ダンテ。お前もエステルの護衛に加わってくれ」

「俺も? 分かった」

「頼んだぞ、ちゃんとバークリーに『エステル手当』を出すように言っておくから」

「何よそれ~!」

 エステルが変な手当に抗議する。

「お前のための手当、通称『エステル手当』だ」

「変な名前付けないでよ~!」

「俺が考えたのに! 失礼なやつだな!」

「--!? センスないよ!」

「何だと! 分かりやすいだろうが!」

 ロックとエステルの口げんかが開始された。調査官の仕事の説明は終わったのかどうかよく分からない。

「ロック先生って、面白いですよね」

 ドミニクがダンテに話しかける。

「あぁ・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「よろしくお願いしますね・・・・・・」

「あぁ、こちらこそ・・・・・・」

 五十歳年下の女の子と本気で口げんかをする賢者を見ながら、ダンテとドミニクは初日にして結束を固めた。

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