第9話
男を連れて部屋へ戻ると、探していたであろう者たちが慌てて私たちへと寄ってきた。
「姫様!!あぁ~よかった・・・。見つけて下さったのですね。助かりました。王様から怒られるところでした」
年若い騎士が私にそう言って近づいてきた。
え?騎士がいるのかって?
いますとも。ただし騎士は副業ですけどね!
って、誰に説明しているのだろう。なんとなく、今これを言っておかないといけない気がしたのだが・・・。
「・・・・お父様は?」
「はい。そのうち見つかるだろうと、また畑の方へ出て行かれました」
その言葉にがっくりと肩を落とす。
そんなのんきでいいのか?お父様・・・。
ネイルなんか血相変えて探してたのに・・・・。
「・・・・とりあえず、この方を探している人たちに見つかったって知らせて来てあげて?」
騎士にそういうと騎士はわかりましたと頷いて城を後にした。
「ほら、貴方がそうやって勝手にいなくなるから皆仕事をやめて貴方に時間をさかなければいけなくなったのよ?ちゃんとここで療養していて下さいね?」
そういって、先程まで男のいた部屋の扉を開け男に部屋に入るよう促す。
「・・・だから、私はここでゆっくりしている暇はないと・・・」
「ゆっくりしている暇はなくても身体を回復させる時間は取らないといけません!!」
男の言葉を遮ってぴしゃりと言い放つ。
男も諦めたように首をふって部屋に入った。
「ふぉっふぉ。おかえりなさい。姫様いつも言われている事が役にたちましたな」
部屋に入るとクワラ爺がソファに座ってお茶を飲んでいた。
・・・なんだろう。どうして、お父様といいクワラ爺といい・・・・・
私は首を振る。考えない事にしよう。
それが一番だ。
「クワラ爺。せっかく私が彼を諭していたのにどうしてそういう事言うのよ・・・」
「ふぉふぉ、いつも言われている事が口から出るものです。姫様も皆の気持ちがわかりましたでしょう」
う・・・・。
クワラ爺は本当に痛い所をついてくる。
それに、今言わなくてもいいのに・・・。
そんな事を思っていると、クワラ爺は男の方に視線をやった。
「さて、走り回る元気はあるようですが、せめて今日一日はゆっくりしていただきたいものですな。また、走り回られても困りますゆえ、姫様、しっかりこの方を見ておいてくだされ」
クワラ爺に突然話を振られ、私は戸惑ったが、この人が大人しくしている様に見ておかなければいけない。
私はクワラ爺の言葉に頷いた。
「では、姫様。あとは宜しく頼みましたぞ」
そう言ってクワラ爺は部屋を出て行った。
扉から目をはなし、男の方を振り向くと男は所在なさげにそこに立っていた。
「・・・・ベットに横になって下さい」
男は私の言葉を無視し、そこに突っ立ったままだ。
「もう!ほら、病人はさっさと寝てください!!」
そういうと私は男の背を押しベットへ押し付けた。
男は慌てて自分でやると言うと、大人しくベットへ入ってくれた。
その事に満足して頷いていると、私はふと気付いた。
「・・・・そういえば、貴方のお名前は?」
そう問えば、男は驚いた様な顔をした後、少し考えていた。
自分の名前を名乗るのに何を考える必要があるのだろう?
首をひねっていると、男がぽつりと言った。
「・・・・フレディだ・・・・」
「そう!フレディって言うのね!よろしくね」
長い事悩んでいたから、それはそれは長い名前だったり、恥ずかしい名前なのかと思えば、普通だった。
一体何をそんなに悩んでいたのか気になる所だったが、とりあえず男の名前が分かった事で、相手を呼びやすくなった。
「じゃ、フレディ。早く寝て良くなってね」
そう言ってフレディのお腹の上を叩くと、フレディは何とも言えない顔をした後、諦めたように目を瞑った。