第6話
全く・・・・。
思わず投げちゃったじゃない。
ごちゃごちゃ言ってないで病人はおとなしく寝る!!
これっって鉄則でしょう?
いつの間にか、爺が部屋にいてそれを見られてしまった事には、思わず眉を寄せてしまったが・・・・。
「だってぇ・・・。この人、馬に乗るとか言い出すんですもの。ついうっかり・・・」
バツが悪くペロッと舌を出してごまかしてみるも、やはり笑顔のままの爺の表情は変わる事がない。
「だってぇ・・・。じゃありませんぞ?姫様の言っとることはわかりますが、だからと言って人を投げていいわけがないじゃろう?」
にこにこしながらそう怒られるとなぜか全く逆らえない。
「・・・・ごめんなさい」
「謝る相手を間違っておりますな」
謝ればぴしゃりとそう返される。
しぶしぶ、ベットに身体を向けると勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!!・・・・貴方の言っている事は間違っていると思うのだけれど、貴方を投げた事は謝ります。・・・・お怪我はありませんでしたか?」
ふと、投げたことでもしかしたらどこか打ったりはしていないだろうかと気になった。
だが、目の前の男は私の言葉を聞いてなぜか俯いてしまった。
「ま、まさか・・・どこか痛めたりされましたか!?」
慌てて、男に近寄り確認するとなぜか男の方が震えていた。
「??・・・どこか痛いのですか?」
もしかして、痛すぎて泣いているのでは!?と思ってそぉっと顔を覗き込むと・・・・
「・・・・!!な、何がおかしいのですか!!!」
男は肩を震わせて笑っていた。
それを見た私は反射的に身体を起こして怒鳴ってしまった。
「くくくっ・・・・くっ・・・・す、すまない・・・・」
男は息も絶え絶えに笑っている。
「ま、まさか・・・・・っく・・・・投げられるとは思わなかった・・・・っくっく」
その言葉に思わずカッと頬が熱くなった。
「なっ!!だ、だって、貴方があのような馬鹿な事を言うから・・・・」
ふと、女らしくと、散々言われている言葉を思い出した。
あぁ・・・。こういうところがいけないのね。
なんて思っていると、男は笑いが幾分収まったのか。深呼吸をすると口を開いた。
「っく・・・。はぁ・・・。すまない。笑ってしまった事は謝る。だが、私の周りに人を投げる女性など居なかったのでな」
そういうと、男は私に向きなおり真剣な表情になった。
「・・・助けてもらっておいて申し訳ないが、訳合って素性を喋る事はできない。それに、すぐに国に戻らなければならない事情がある。身体の事を心配してくれるのはありがたいのだが、そういう事ですぐにでも馬を貸してほしい」
男は真剣なまなざしで私に向かってそう言った。
何か特別な事情がある事はわかったがどうするべきか私には判断がつかない。
後ろにいたクワラ爺に視線をやると、クワラ爺が頷いた。
「・・・よろしいでしょう。ただし、今すぐという訳には参りませんぞ?一度この国の王に会ってもらいましょう。その上で王の了承をご自分で貰ってもらえば宜しいでしょう」
クワラ爺はにこにことその男に向かってそう言った。
「この国の王に・・・・・・」
クワラ爺の言葉を聞いて、男は何かを考え込むように俯いた。
「ふぉっふぉ。心配されますな。決して悪い様にはなりませんぞ」
爺の言葉に男はハッとして顔を上げると、爺をじっと見ていた。
その視線を追う様に私も爺を見たが、爺はいつもと変わらずにこにこと笑っていた。
「・・・・わかりました。それでは、すぐにでも王へ謁見させてください」
男は何かを諦めたように溜息を着くと先程までの言葉とは打って変わって丁寧な言葉で爺にそう言った。
「もうすぐこちらに来られるじゃろうて。そう、焦りなさんな」
爺がそういうと男も頷き、視線を外へと外した。
まるで、それで話が終わったと言う様に・・。
爺と男の会話に全く入れず意味がわからなかった私は、一人ポツンと間に挟まれ彼らの会話のキャッチボールを眺めていたのだった。
しばらく、部屋には音もなく静かな空間が生まれた。
・・・というか、何が何だかわからなかったので、とりあえずお父様の到着を待った。
すると、扉からノックの音が聞こえた。
「待たせたな」
そう言って入ってきたのは、先程庭であった時のままのお父様だ。
「・・・・・国王・・・?」
お父様の声に振り向いた男は目を丸くすると確認するようにそう呟いた。
・・・・・見えないよね。
心の中で深く頷いた。
「左様。この国の国王でモリスティ・P・バルニエールだ。・・・・・ふむ。なるほど」
お父様は自己紹介した後に何やらしきりに頷きながら何かを納得した。
「レディナ。お前は少し席をはずしなさい」
お父様は急に私の方へ向き直るとにっこり笑ってそう言った。
しかし、男の事が気になり首を横に振ると、父はもう一度同じ事を言った。
「レディナ。席をはずしなさい」
笑顔は変わらないが、父の言っている意味を悟り私は頷くとその部屋を後にした。
・・・つまり、私に聞かれたくない話をこれからするのだろう。
私に聞かれたくない話・・・。一体、あの男は何者なんだろう。
やはり、他国の人間がこの国に来た事で何かしらの問題になるのだろうか?
首をひねりながら私は、ここにいてもしょうがないと思いなおし、再び庭へと足を向けた。
その頃、部屋の中では、にっこりと笑ったままの国王が男に問いかけていた。
「さて、シュアランス王国の王子が何の御用かな?」