第3話 ※
王子視点です
どうも、外が騒がしい・・・・。
ふと、周りの喧騒に耳を傾けながら、今までの事を思い出していた。
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「フレイ王子!お逃げ下さい!!」
側近のリクにそう言われ、俺は魔が住むとされる森へと足を踏み入れた。
シュアランス王国の第1王子 フレイ・M・シベリウス。それが俺の名前だ。
先日、国王が病に倒れ床に伏せった事を皮切りに、次期国王の座を狙った弟王殿下が俺を狙ってくるようになった。
昔からあの伯父は、父が即位した事が面白くなく、何かと口出しをして来ていた。
あの伯父がいなければ上手くまとまる案件も、あの伯父の所為で、何度無駄に時間を割かなければいけなかった事か。その上、欲が深く、その権力を振りかざして自分の思うとおりにしていた。
思い出すだけでも、頭が痛くなる。
そんな中、隣国のスカットマティー国王子が我が国に訪れた時に事が起きた。
事もあろうに、王子の飲み物に毒が混入されていたのだ。
この大陸で一番大きいスカットマティ―国の王子の飲み物に毒、だ。
もちろん、その場には俺を含め叔父も参加していた。
王子が飲み物の臭いがおかしいと言う事で、傍に控えていた侍女にその飲み物を飲ませたところ、侍女は泡を吹いて倒れてしまった。
その様子を見た伯父がどういう事だと俺を責めてきた。
管理が行き届いていないと怒鳴り散らしたかと思えば、隣国王子を毒殺しようと企てたのではないかと騒ぎ始めた。あまりに馬鹿けだ事に思わず舌打ちをしそうになったものだ。
とにかく、その場にいた王子に謝罪し部屋に戻ってもらった後、伯父にも屋敷に戻ってもらった。
そして王子に説明をと思い、すぐさま王子の部屋に駆けつけると、そこには屋敷に帰ったはずの伯父がいた。
私は、そこでやっと嵌められたのだと言う事に気付いた。そして、それは既に時遅く、王子にある事無い事を吹き込み、私がこの国の次期国王に相応しくないと言いだした。
もちろん、そんな事を隣国の王子に言った所で、我が国の王位継承を王子がどうにか出来るわけがない。
が、しかし、隣国の王子は、今回の件で謝罪を求めるとともに、私を隣国、スカットマティー国へ留学という名目で国から出る事を望む正式文書を送ってきたのだ。
もちろん、こんな事がなければすぐにでも断る案件であるが、今回王子の命を危険にさらしたこともあり、断れるわけがなかった。
すぐにでも国に戻れるようにと掛けあうつもりで隣国に向かう道中に、伯父の手の者に襲われ、俺は側近に言われるがまま、森に逃げ込んだのだ。
何日も何日も歩き続けているがこの魔の森は一旦足を踏み入れると二度と出てこられないと言われているように、一向に森から出られる気配はなく、木の実や川の水で飢えを凌ぎ、なんとか森の出口を目指して彷徨うが、すでに体力が限界だった。
俺は、木に寄りかかるとそのまま意識を手放してしまった。
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「・・・めよ。だって・・・・・ぃ」
俺は、生きてるのか・・・・?
身体に感じるぬくもりは、やわらかい物に包まれているようだ。
「ふふ・・・・。だから・・・。あら、目が覚めそうだわ・・・」
「誰だ!?」
人の声に反応した俺は思い切り身体を起こすと、目眩がした。
「大丈夫!?・・・・もうっ、急に起き上がるから」
目の前が真っ暗になる中、聞こえてきた声はやわらかな女性の声だった。
「とにかく、横になって下さいね。まだ、完全に体調が戻ったわけではありませんから」
暗かった目の前が次第に光を取り戻してくると、目の前にはにっこりと笑う女性の姿が見えてきた。
「・・・・ここは・・・・?」
先程まで確かに森の中にいたはずなのに、俺は視線の中に入ってくる光景は森ではなかった。
きっと、誰かに助けられたのだろうと思い、視線だけを彷徨わせ当たりを見回し俺は即座にここがどこかと検討をつける。見渡す家具は質素でありながらも、質のいいものを使っている。
どこかの村屋敷だろうか・・・?
「大丈夫ですよ。ここはもう山のなかではありません」
女性は、俺の視線に気づいたのか、優しくそう言った。
「・・・あぁ・・・」
女性の見た目からも魔の森近くの村の領主の屋敷か何かだと検討をつけた。
「あと、服は汚れていたので洗濯させていただきました。あ!私がやったわけではないので大丈夫ですよ!?」
目の前の女性は頬を初めながらそういうが、毎日侍女が着替えを手伝っているので別に何とも思わない。このような村では自分で着替えることが普通なのかもしれない。
「あぁ、構わない。世話をかける。ところで、ここはどの当たりなのだろうか?何日も魔の森に入ってしまっていたので全く方向がわからず、ここがどの辺かわからないのだが・・・・」
とはいえ、魔の森付近の村と言えばおおよその検討はついていた。
多分、レセナ村当たりだろうと想い聞いてみたのだが、女性から帰ってきた言葉に俺はおもわず固まってしまった。
「魔の森・・・・ですか??それが、どこの事を言うのかは存じ上げませんが、ここはペイル国です」
ペイル国・・・・・・?
そのような国など聞いたことが・・・・・。
頭をフル回転させて俺は世界地図を思い出す。
すると、女性は肩を落としながら口を開いた。
「・・・スカットマティー国とシュアランス王国の境の端の端にある国の名です・・・」
その言葉に、俺は幼き頃に習った授業を思い出した。
たしか、我が国とスカットマティー国の間にありながら、特に秀でた物もなく戦争時にその国に入ろうものなら山々に囲まれ、背面は海しかなく、入口を固められてしまえば落ちるしかないという土地。では、農業に関して何か出来るかと言えば、地形が良くない為に食物も育ちにくいというまったくもって何の特にもならない土地だと・・・。
そのような利用価値のない上、国土も狭く侵略したところで、逆に負担が増えるような国は俺の記憶からは当の昔に削除されていたのだった。
それが、まさか今現在いるところが、そのような国だとは・・・・。
「・・・・そうですよね。やっぱり、我が国の事ご存知ないのですよね・・・」
悲しそうな声に俺はハッと気づき、慌てて言葉を発した。
「い、いや!そんな!!忘れ去っていたわけでは・・・・」
すっかりと忘れ去っていたけれども思わず口からついて出てしまった。
「・・・いいんです。この国の事を知っている方の方が少ないってことくらい聞いたことありますから・・・」
悲しそうに笑うその女性に俺はあまりにも申し訳なくなりそれ以上言葉が出なかった。
「レディ。あんまり話すとその人もゆっくり休めないだろ。とにかく、クワラ爺を呼んでこよう」
女性の後ろから聞こえた少し怒りを含んだ声に、俺は女性以外にも他に人がいた事に今更気づいた。
「今、医者を呼んでくるから見てもらったらアンタはさっさと自分の国に帰りな」
男はそう言うとさっさと部屋を出ていった。
「ネイル!そんな言い方!!・・・・すみません。悪気はないんですが・・・。とにかくクワラ爺を呼んできますね」
女性はそう言って頭を下げると、男を追って部屋を後にした。
一人残された俺は、ため息を一つつくと、これからのことを思いふたたび目を閉じた。