第2話
おかしい・・・・・。これは幻だろうか・・・・。
今日、私は一人で東の山・・・通称:森山(ぼうぼうに生い茂った森の山なので森山だ)に山菜を摂りに来ていた。
そう、山菜を摂りに来ていたはずなのに・・・・・。
「・・・・・おーい・・・・」
この時期の木の実はとってもおいしい。
もちろん、きのこも欠かせない。木の根元を目を凝らしながら見ていたら、あれ?なんだが人の足に似た形のきのこが生えているではありませんか。
その足から視線を上げると、気にもたれかかったキンキラの人が気を失っているではないか!?
どこからどう見ても、我が国のものではないのが明らかだ。
まず、服装が豪華だ。
そして、髪の色が金色だ。
私の国の人間は皆、髪が漆黒のように黒い。目の色は深い青だ。
なんて、言っている場合ではない。
まさかの、不法侵入者である。
なぜ、不法と決めつけるのかと言えば・・・・、言わずもがなだ。
というか、悲しくなるので言うのはやめておく。
ともかく、目の前の人間は気を失っているようだった。
「ど、どうしよう・・・・」
困ったことに、私は我が国民以外に出会った事がなく、ちょっとしたパニックになってしまっていた。
「と、とにかく、こんなところにいたら風邪を引いてしまうわ。かと言って私には運べないし・・・・」
よし。とりあえず、城に戻って応援を呼んでくることにしよう。
このまま、この人を置いて行くことにちょっと気が引けてしまうが、仕方がない。
私は、羽織っていたマントをその人にかけて、あまり収穫がなかった籠を持つと、歩きなれた山道を急いで下っていく。
「おーい!誰かー!!」
城が見えると私は大声で叫んだ。
遠くに見える人影は私の声に気づいて手を降っているようだ。
「ん?あれは、ネピアかな?」
近づいて手を降っている人物を確かめるとやはり、ネイルの婚約者ネピアがこちらに手を振っていた。
「ネピア!お願い!誰か男の人を呼んできて!!」
「姫様?どうかされたのですか?」
私の慌てぶりにネピアは振っていた手を下した。
「・・・はぁはぁ・・・。い、今、山菜やきのこを取りに山に入っていたら、男の人が倒れていたの!と、とにかく城に運ぶから誰か呼んできて!!」
肩で息をしながらそう言うと、ネピアも驚いた。
「まぁ!それは大変。すぐに誰か呼んできますね!」
そういうと同時にネピアは城に向かって走り出した。
これで、誰か山に来てくれるだろう。一つ息を吐き出して呼吸を落ち着けると、私は再び山へ向かって走り出した。
再び森山に入り、さっきの場所までくると、そこには先程と同じ格好のまま未だ目を瞑っている男がいた。
「はぁ・・・。よかった。まだ目が覚めていないみたい・・・・」
よいしょっとその男のすぐ目の前に膝を着くと、私は男の顔をじっと見つめた。
「・・・ちょっと顔色が悪いわね・・・・」
血の気が引いている様に見えるその額にそっと手を当てて見る。
「うん。熱があるとかそういうのじゃないみたいね。怪我をしているわけでもなさそうだし・・・」
一通り男を観察すると、呼吸もきちんとしているし、大けがをしているわけでもないので、本当に気絶しているだけの様だ。
「うん。これなら、大丈夫そうね・・・・。それにしても、うちの国にはいない美形だわ」
男が気絶しているのをいい事に、はじめて見る他国の人間をまじまじと観察した。
金色をした髪も珍しいが、ここまで整った顔も珍しい。
さぞかし、女の子にもてる事だろう。
「だけど・・・・。こんなに細いと力仕事なんてできないわね。・・・下手したら私の方が逞しいかも・・・・」
自分の腕と男の腕を見比べながら、こっそりと溜息をつく。
一応、私も女としての自覚はあるのだ。
しかし、この国の男はもともと体つきがしっかりしている上、力仕事や畑仕事を毎日している事でがっしりとした体つきの男性が多い。
だから、あまり気にならなかったのだけれども・・・・。
「他の国はお父様のお話通り、畑仕事なんてしないのかしら?」
首をひねりながら私は考える。
見るからに豪華な服を来ている目の前の男は、きっと貴族とかそんな感じの高貴な人なのだろうと推測する。
一応、国の王女として他国の階級の知識くらいはある。
平民は、今私たちが来ているような服を着、貴族は普段からドレスやらジャケットやらを着るのだとお父様から教えられた事がある。
もちろん、わたしも一応持ってはいる。
ど田舎だけど、決して貧乏な訳ではない。かといって、裕福なわけでもないが・・・・。
しかし、国民と一緒に仕事をするにあたってそんなものは邪魔なだけだ。
人数が少ない分、私たちは助け合って生きている。
だから、私たち王族も好んでこの動きやすい服を着ているのだ。
「・・・・まぁ、確かにこんな格好してたら、仕事なんて出来やしないわ」
ちらりと再び男に目を向ければ、その豪華な服もあちこち土にまみれて汚れていた。
「あぁ・・・・。土汚れって結構落ちにくいのに・・・・」
そんな事を思っていると、麓の方から何人かの声が聞こえてきた。
「あ、来たみたいね」
声のする方に視線をやれば、ネイルの姿が見えた。
「ネイル!!」
私の声にネイルが気づくと、ネイルの後ろにいた男も私に気づき駆け寄ってきた。
「レディ様、お怪我はありませんか?」
恰幅のいいおじさんが私に声をかける。
「ローグさん。来てくれてありがとう。私は大丈夫だから、この人を城まで運んで上げて?」
そう言うと、ローグさんとネイルが私の後ろに倒れている男を見た。
「この人は・・・・?」
「わからないわ。でも、うちの国民ではないわよね」
たった500人程度しかいない国民の顔は全員覚えている。
「そのようですね。来ているものも我が国の物ではないですし・・・・。そんな者を城に連れて行ってもいいのですか?」
ローグは少し警戒をしているようだ。
「・・・構わないわ。倒れている人を放ってはおけないし、この国に何かの目的で来たとしても、うちには何もないじゃない」
私がそういうと、ネイルとローグさんは二人して顔を合わせ肩をすくめた。
「また・・・レディはそんな事言って・・・。この国だっていいところはたくさんあるだろ」
ネイルが私を窘めるようにそう言うが、確かに私たちにとってはいいところだ。
だが、他国から見ればそんな事がないのは、皆が知っている事だ。
「とにかく!!早くこの人を運んで上げて頂戴!」
ネイルとローグさんにそう言うと2人は溜息をつきながら、男の腕をつかみ肩に担いだ。