第10話 ※
部屋から出たものの、一体どこへいけばいいかわからなかった。
「ちっ・・・・」
思わず舌打ちもしたくなるというものだ。
見渡す限り畑・畑・畑・・・・。
ここは城の中ではないのか!?
確かに、窓の外から見た景色も畑だらけだったが、実際に下りてみると更に畑が広がっている様に思える。
これではいつ見つかってもおかしくない。
「・・・そろそろ、俺がいなくなった事がばれるだろうしな」
人がいなくなった隙に窓から外へ飛び出したはいいが、目当ての馬は全く見つからない。
それどころか、周りの畑が同じように見え、方向感覚まで狂ってきそうだ。
「とにかくこの城の敷地内から出ないと、話にならないだろう・・・・」
そう思い、身を隠しながら草むらの中を進むと、前方から声が聞こえた。
「レディ!!」
誰かが誰かを呼ぶ声に思わず息をひそめた。
「な、なにっ!?ゆ、夕食の事考えてよだれが出そうだったなんてことないよ!!」
「はっ!?お前、またそんな事・・・・いや!!今はそれどころじゃない!!あの男がいなくなった!!」
とぼけた声の後に続く言葉に、やはり見つかっていたかと眉を寄せる。
2人は何か言葉を交わした後、男の方がそこから去っていくのが分かった。残ったのはどうやらとぼけた事を言っていた女の様で、静かに胸をなでおろした。
この女ならば、何とかやり過ごせるだろう。そう思っていた矢先、再び女の声が聞こえた。
「それで隠れているおつもりですか??」
その言葉に心臓が飛び出そうになるくらい驚いた。
まさか、あのような事を言っていた女に見つかった!?
ふと、視線を前に向けるがそこに女の姿はない。
今の言葉は俺に対しての言葉じゃなかったのだろうか?
少し身を起こし、辺りを探ると何やら俺から離れた草むらをじっと睨んでいる女がいた。
よくみると、先程俺を投げた女だ。
女は依然と草むらをじっと睨んで立っている。
なぜ、あんなところを睨んでいるのだろうか?
俺がまさかあそこに隠れているとでも・・・・。
いや、まさかそんなはずはないだろう。あんなに自信ありげにあそこに立って睨んでいるのは他に理由があるのだろう。
それとも、試されているのだろうか?
きっとそうだろう。ここで逃げた所でこの国から出られるすべを持っていない俺はつかまるしかないのだ。
ならば・・・・・
「・・・・・こっちだ」
捕まって牢に入れられるよりは、素直に出て行った方がまだ話を聞いてくれるかもしれない。
そう思って女に声をかけた。
が、女は俺を見ると驚いた顔をして、俺と草むらを交互に何度も見ていた。
そして、何かに気づいたように慌ててこちらに駆け寄ってくるとぽつりと言った。
「そ、そんなところに・・・・」
その言葉に思わず俺の口から零れた。
「わ、わざとだよな?・・・ま、まさか本気だなんて言わないよな・・・」
なんだか、俺はいたたまれない・・・・・。
なんだかんだと、女に連れられてまた元いた部屋まで戻ってみると、そこにはのんきにお茶を飲みながらまったく探すそぶりも見せない爺が待っていた。
「ふぉっふぉ。おかえりなさい。姫様いつも言われている事が役にたちましたな」
いつも・・・・。先程、この女が言っていた言葉が蘇る。
・・・というか、こんな女に説教された事がどうにも腑に落ちない。
俺を無視して会話を進める爺と女を眺めながら、なんて危機感のかけらもない国なのだろうと思う。
俺のいた国でこんな会話などあり得ない。
誰もが信用などできない。
皆が敵なのだ。
国に思いをはせると思わず唇を噛んでいた。
ふと、爺の方が俺に声をかけてきた。その瞳は鋭く大人しくしていろと目で語っている。
まったく、そんな事に気づかない傍にいる女はぶつぶつと言いながら爺に言われた通り俺をベットへと連れて行く。ぐいぐいを俺の背中をおしてベットへ押し倒そうとする女の勢いに慌てて自分からベットへと入る。
すると、脈らいもなく俺の名前を聞いてきた。
・・・・素直にこたえると思っているのだろうか?
キラキラした目で俺を見てくる女はわくわくしながら待っている。
「・・・・・フレディだ・・・」
ついて出た名前はもちろん偽名。
身分を簡単には明かせない。
それでも、嬉しそうにその名前をつぶやいたかと思うと、さっさと寝ろと言ってお腹を叩く。
なんだか、それが心地よくなってきて俺は静かに瞼を閉じた。
おかしな女に、すべてを見透かしたような爺。
その上、見た目は単なる農民にしか見えないが侮れない国王。
・・・・・・一体、この国はなんなのだろう・・・・・
そう思った所で意識は闇の中へと吸い込まれていった・・・・・。