#0.5
それは彼女にとって単なる暇つぶしだった。
「それじゃあ、これからする説明をよ〜く聞いてね♪」
美しく整った顔立ち、後ろで大きく結った腰ほどの長い真っ赤な髪に同じく真っ赤な瞳、黒い革製の服で小柄な身体を包んだ彼女は、場違いな軽い口調にソプラノの声で言った。
腹、腕、胸元。それらをかくさない格好は普段なら直視することの出来ないほどであったが、今はそんな余裕は無かった。
彼女の言葉を俺は遮る。
「村は、どうしたんだ?ほかのみんなは?いったい、何が起きたんだ?」
知りたかったこと、分からなかったことをまくしたてた。
俺の質問に彼女は不愉快そうに細い眉を歪めた。
「それはこれから説明してあげるから、黙ってなさい。」
「何か知ってるのか!?」
「黙れ♪」
彼女は笑いながら物理的に黙らせた。
俺はうめくしかない腹への一撃にうずくまる。
「ではでは改めて説明をするよ♪」
俺が持ち直す間もなく彼女はご機嫌に説明を始めた。
「まず、あなたはゲームの主人公に選ばれました♪ちなみに当選理由は顔がわたしの好みだったからです!ゲームは簡単、わたしを捕まえることです。あなたに拒否権はありません!そのために人質がいます。」
「あんた、何を言って……」
彼女は俺の言葉を遮り続ける。
「誰だと思いますか?それはあなたの妹さんです!」
そこで彼女は話を止めた、硬直した俺の反応を見るために。
脳に言葉が浸透するのに時間がかかった。理解をするのに抵抗があった。認める事を拒否したかった。
彼女はそんな俺をニヤニヤして見ていた。
無意味な葛藤が終わったとき、渾身の力を込めて俺は殴りかかっていた。けれどその拳は簡単にかわされ、カウンターとしてまた腹への一撃がきた。
体勢を崩したものの、今度は膝を折らなかった。そのままもう一度殴りかかった。 実戦では使えそうに無い大きなモーションの回し蹴りが俺を迎え討った。
その時、彼女の楽しそうな笑顔が脳に焼き付いた。
「お!起きた起きた♪」
再度殴りかかる。
「それで話の続きだけど、妹さんの事まで話したんだよね♪」
彼女はかわしながら続ける。
「捕まえるっていってもこのとおりあなたとわたしには力の差がありすぎる。だから、あなたの身体を改良しました。」
足を払われ転ばされた。そこで彼女は大きく腕を開いてその場で回りながら言った。
「この村の人たちの魂を使って。」
「―――!!」
「その結果、不老不死とまではいかないけど、多分四百年ぐらいそのまんま見た目歳をとらなくて、切った腕もしばらくくっつけておけば治っちゃうようになりました!でもでも、改良したって言っても身体の強度はそのままだから刃物とかで普通に切れちゃうから気を付けてね♪それと首とかとれたら死んじゃうよ。さすがに治らないからね。それにわたしの魔力をわけたげたから、その辺のザコなら瞬殺できるし、三百歳くらいのエルフとかエセ吸血鬼とか、生まれたてのドラゴンとかならガチで殺りあえるからね♪」
最後に、と人差し指を立てながら、倒れている俺に目線を合わせながら言った。
「あなたが死んだら妹さんがひどい目に遭うから。
ちなみに妹さんの命もあなたと同じくらいにしたから、あなたが諦めたりしたらその長い命のぶんだけ苦しむことになるよ♪それじゃあがんばってね〜☆」
そう言うと彼女の姿は消えた。
――そうそう、わたしの名前はルーナって言うの。忘れないでね♪
彼女はゲームと言っていた。だからだろう、ルーナはある意味最悪な仕掛けを残していった。
不思議な感覚、ルーナから離れれば離れるほど彼女の存在を感じ、近づくとその感覚は薄くなる。
離れているかぎりルーナの存在を感じさせられる。
彼女を追いかけるための仕掛けであり簡単には捕まえることが出来ないようになっている。
この悪趣味なゲームを終わらせること。
それが生きる理由となった。それを、生きる理由にさせられた。
エセ吸血鬼は純血では無いもと人間な吸血鬼のことです。
おつきあいいただきありがとうございます。