#2
「あんた何者なの?」
昨日より世話になっている村長の家に魚を持っていき、また暇になったので少しぶらついていると、ずっと黙ったままついてきていた少女が口を開いた。まぁ、何か言いたそうなのは気付いていたけど。
「一応魔術師。相手が何者かは分からんが安心して任せとけ。」
「…あんた本当に魔術師なの?」
「なんでそんなことを聞く?」
「だって普通魔術師っておじいさんが多いんでしょう?あんたまだ全然そんなんじゃないし。」
「お前魔術の仕組みって知ってるか?」
少女は首を振る。その仕草は少し可愛らしい、そんなことどうでもいいが。
「魔術ってのは魔力さえあれば使える。魔力ってのは成長するにつれて増えてく。じいさんが多いのは普通六、七十にでもならないと魔術を行使できるほどの魔力が無いからだ。」
「じゃあ、あんたは?」 その質問に俺は杖を掲げた。
「魔力の込められた道具があれば素人だとしても炎を出すことぐらいできる。」
まぁ、魔力が無い訳でもないのだが。
ちなみにエルフやドラゴンが強力な魔力を持っているのは、もともと生まれながらにして高いのに加えて寿命が非常に長いからだ。
千をこえたドラゴンにもなると山一つをも軽々消せると聞く。
「…わたしにもできるってこと?」
「練習すればな。」
「ちょーだい。」 少女は両手を前に差し出した。
「…お前、歳いくつだ?」
「十七。」
スゲーなコイツ。
呆れと感心。冗談なのか本気なのか判断しづらい。
「…貸すだけならいいぞ。」
「やだ、ちょーだい。」
「…じゃ貸さない。」
「だったらそれでいいや、貸して。」
…コイツスゲー。
「…なんにも出ないんだけど、どうなってんのこれ」
昼食をいただいた後、先ほどの川に戻り杖を貸してやった。ちなみに昼食の場には何故か少女もいた。
「じゃあ、諦めろ。」
「やだ。」
どうやったら諦めてくれるだろうか。
正直に言ってしまうと何も出る訳が無いのだ。この杖にはなんの魔力も込められてないただの木なのだから。
言ってしまえば小さなフェイク。この少女のように知らない者もいるが、旅をしている者や少し物事を知ってる奴は、俺のようなのが魔術を使えばまず魔術具の存在を考える。この場合はあからさまな杖に目が行く。
要するに少しでも楽するためのこすい手段なのだ。
「なにかヒントとかないの〜」
…ヒント。
その言葉に一つ思いついた。つまり、見込みが無いことを分からせてやれればいいのだ。
「じゃあ簡単な呪文を教えてやる、それでもできなかったら諦めろ。」
即興で意味のありそうな言葉を並べる。
ここで言い訳をさせてもらうと、いくら即興でも全く意味が無いわけではない。 魔術の行使に必要なのは具体的なイメージ、だから“呪文”と思っていればそれは効力を発揮する。
また、実際に呪文を唱える魔術師がほとんどである。
呪文を唱えることでイメージの補強をし、反復することで脳に覚えさせる。そうすると何か不測の事態に陥った時でも呪文さえ唱えればスムーズに魔術を使うことが出来る。それにイメージするだけで魔術が行使出来たりするとすごく危険だったりする。例えを挙げると、火事の夢を見たとしたらその時炎が出たりする。
少女はブツブツ呟きながら呪文を覚えようとしてる。集中することも大切だぞ、とその背中に声をかけた。すると覚えたようで自信満々で少女は顔を上げた。
「ちゃんと見ててね。」 その笑顔を見て思った。なんで俺こんなことしてんだろうか。
夜には野盗かなんかと戦おうっていうのに何の準備もしていない、野盗程度なら特にすることもないけど。それでも普通村長か誰かが何か言ってくるもんではないのだろうか、詳しい打ち合わせとか敵の情報とか。
「……………の言葉に従い炎よ力を現せ!」
聞き流していた“呪文”が終わった時、小さな火が現れた。
「………!!」
言葉も出なかった。 少女は驚きながらも得意そうな顔をしていた。