3話:眩しいです…
百合の提案から驚くほど時間が早く過ぎたように感じた結衣。
気が付けば、昌哉が帰国する日になっていた。
朝、母である千秋ではなく百合に起こされ、笑顔で渡された服に着替る。
言いたいことはあったけれど、逆らえる空気ではなかったので結衣は黙って従った。
朝食を食べ、千秋と百合からこれでもかというぐらいに身支度を整えられると車に乗せられた。
(嫌な予感しかしない…)
後部座席で東堂夫妻の会話に耳を傾けながら、結衣は車がどこに向かっているのか聞けずにいた。
出掛けるときも行き先を告げられていない。
しかし、昌哉が帰国するのが今日なのだから間違いなく行き先は一つしかない。
(…空港、だよね…)
車の窓の外を流れる景色を眺めながら、結衣はそっと小さな溜息を吐いた。
昌哉と会うのは実に二年振りになる。
留学している間は、一度も日本へ帰って来てなかったので本当に久しぶりの対面だ。
嬉しいと思う反面、どう接していいか判らなくて緊張してしまう。
「大丈夫、結衣ちゃん? 気分が悪いの?」
「大丈夫だよ。…昌哉君に会うの久しぶりだからちょっと緊張してるだけ」
「そうね、きっと会ったら吃驚するわよ」
「前より格好良くなってるんだろうな」
「あら違うわよ。昌哉が吃驚するんだから」
「?」
きょとんとした顔をしている結衣に、百合はにっこりと笑って続けた。
「前より可愛さに磨きがかかった結衣ちゃんを見たら、どんな反応するのか楽しみだわ」
百合の発言に、結衣は曖昧に笑うことで流した。
イギリスで金髪碧眼の美女を見慣れた昌哉が、まだ子供の結衣を見た所で驚くわけがない。
逆にあまりの子供っぽさに、がっかりされる姿の方がまだ想像できた。
昌哉がそういった態度を表に出す人間でないことは分かっているので、あくまで結衣の想像でしかないけれど。
車中で当たり障りの無い会話をしていると、目的地である空港に到着した。
昌哉の乗っている飛行機は予定通り運航していたようで、あとしばらくすれば到着するアナウンスが流れている。
何度も時計の時間を確認し、落ち着かない様子の結衣を東堂夫妻は微笑ましく見ていた。
到着アナウンスが流れて暫らくすると、徐々にゲートから人が出てきた。
その数は時間が経つごとに増え、人混みの中に昌哉の姿を探すが見当たらない。
「結衣っ!」
大きな声名前を呼ばれ、結衣は声が聞こえた方へと視線を向ける。
そこには満面の笑みを浮かべ「ただいま」と挨拶する昌哉が立っていた。
昌哉は駆け足で結衣の元まで来ると、両手で結衣の顔を上向かせもう一度名前を呼ぶ。
(…眩しすぎるっ!)
笑顔が眩しい、なんて言葉が体言されているのを結衣は間近で体験していた。
「おかえりなさい」の返事も忘れるほど、目の前のキラキラしている昌哉をただ見つめるしかできなかった。