閑話:結衣'sコレクション
その日、上機嫌な百合と千秋の笑顔に昌哉は嫌な予感しかせず、片頬を引きつらせた。
被害に会う前に逃げようと思うが、二人が手に持っているものが果てしなく気になる。
何故か本能は聞けと訴えるので、恐る恐る尋ねることにした。
「それ、何なんですか?」
ラベルのないDVDが二枚と裏返しにされた写真が三枚。
昌哉の問いかけに、百合はにんまりと笑う。
(まさか…)
百合が裏返していた写真の一枚を一瞬だけ見せると、素早く後ろに隠す。
「母さん、その写真を渡して下さい」
ちらりと見えた写真は、先日如月家の炬燵で眠りこけた昌哉と結衣の姿があった。
ずいっと手を差し出し写真を要求するが百合に「嫌よ」と一刀両断される。
「お願いします。写真とデータを渡して下さい」
「そんなんじゃダメ」
頭を下げて懇願するも、百合はクスクスと笑いながら駄目だしをする。
「………何が望みですか?」
「あら、物分りが早くて助かるわ」
「何年母さんの息子やってると思ってるんだ…」
百合が昌哉にお願い事をするときは、いつも結衣の秘蔵写真もしくは動画を持ち出してくる。
しかもそれらは、昌哉が持っていないものだから性質が悪い。
「今回は千秋ちゃんの協力を得て、結衣ちゃんの卒業あーんど入学式の写真と動画もあります」
「かなり大盤振る舞いだけどいいの? 小出しにしなくて?」
「昌哉が留学してる間に、どれだけ撮り溜めたと思ってるのよ」
「留学しているときに、散々要求した結衣の写真諸々を拒否し続けた理由はそれかっ!」
結衣のいない生活の寂しさを紛らわすため、幾度となくメールで要求するがすげなく断られた日々。
まさか帰国後に取引材料として持ち出してくる百合に、昌哉の顔が青褪めていく。
今回の分でも小出しにすれば片手分の取引にはなるのに、躊躇いもなく出してくるとなるとまだ昌哉に隠匿されている数はかなりあるはずだ。
「…渡米する前までには全部出して下さい」
「どうしようかしら? そいうのは昌哉の態度次第ね」
「ぐっ…。今回は何をすればいいんですか?」
苦虫を噛み潰したような顔をした昌哉に向かって、百合は櫂から借りた車の鍵を渡す。
「郊外に大型のアウトレットモールが出来たの」
「買い物に付き合え、と?」
「だって櫂さんは渡米の準備で忙しいし、昌哉は暇でしょ」
「昌哉君、ごめんね。でも渡米する前に一度行きたくて」
千秋は申し訳なさそうな顔で謝るが、無条件で手元のものを渡す気はないようだ。
昌哉は溜息を吐いて仕方がなく鍵を受け取ると、二人を乗せて目的地へと車を走らせるのだった。