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閑話:如月夫妻の会話

4話の裏話的なものです。

 結衣が東堂夫妻に連れられ、帰国する昌哉を迎えに行っているその頃。


 如月家では、千秋が歌を口ずさみながら料理をしていた。

 譲はダイニングテーブル頬杖をついて、その姿を眺めているが眉間には深い皺が刻まれている。


「遅かれ早かれ結衣はお嫁に行くんですから、いつまで拗ねてるんですか…」


 明らかに『不機嫌ですっ!』という表情をした譲に対して、千秋は呆れた口調で言った。


「だとしても結衣はまだ十六歳だぞ。それに学生でもあるんだ。なのに昌哉の奴はっ!」

「譲さんが海外転勤にならなければ『結婚』ではなく当初の予定通り『婚約』でしたけどね」

「だが、」

「それに昌哉君と約束したのは譲さんでしょう。反故にするんですか?」

「………あんな約束、子供の戯れでしかないだろう…」

「あら、昌哉君は幼い頃も大人になった今も、いつでも結衣に関しては本気ですよ」


 幼少時の微笑ましいエピソードで終わるはずの出来事が、今になって後悔する羽目になるとは思わなかった。


 そう、あれは結衣が四歳になったばかりの頃。

 瞳をキラキラさせながら十二歳の昌哉に『お嫁さん』宣言をしたのだ。

 あの時、普通なら「お父さんのお嫁さんになるっ!」といわれるはずだったのに、と今思い出しても腹が立つ。

 そういえば、結衣の初めては全て昌哉が奪っていった。


 初めてハイハイした時も、結衣は昌哉の元へと向かっていた。

 言葉を発したときも「パパ」や「ママ」ではなく「まー」といって昌哉に笑いかけた。

 勿論、歩いたときも昌哉の元へ行き、その腕の中におさまっていた。

 

 結衣の『お嫁さん』宣言から数日後、昌哉は真面目な顔をして譲の前に現れた。

 話があるといわれ、珍しいと思い聞いてみることにしたのがそもそもの間違いかもしれない。


「結衣が十六歳になったら、婚約させて下さい。籍を入れるのは結衣が高校を卒業してからにします」

「…昌哉、何言ってるか分かってんのか?」

「分かってますよ」


 じっと睨みつけても怯むことなく、逆に睨み返してくる昌哉に対して譲はある事を条件に約束をした。



 ―――もし結衣が十六歳になった時、二人が想い合っているのであれば婚約を認めよう、と。



 確かに結衣は可愛いが、昌哉との歳の差がかなりある。

 しかも十年以上先のことだ、心変わりするだろうと楽観的に考えた。

 昌哉が成人したら酒の肴にして、からかってやろうと思った。


 だが、譲の予想は大きく外れ、昌哉は結衣を攫っていくことになる。


「…まさか結衣が承諾するなんて」

「ふふふ。それこそ物心がつく前から、結衣は昌哉君のことが好きですからね」

「分かってるが、腹の虫が治まらん。とりあえず、一発殴ることにする」


 ぐっと拳を握り締める譲に、苦笑が浮かぶ千秋。


「手加減してあげないと駄目ですよ」

「ふんっ。一人娘を攫っていくんだ。本気で殴るに決まってるだろっ!」

「結衣に嫌われますよ」

「うっ。…結衣がいないところで殴る」


 さすがに結衣に嫌われるのは耐えられない譲の言葉に、やれやれといった感じで千秋は首を振った。

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