10話:右頬が痛いです
『結衣、俺のお嫁さんになって』
結衣は頭の中で何度もリフレインする言葉を確認するために、右頬を思いっきり抓った。
「いたい…。痛いよ、昌哉君」
「それだけ思いっきり抓れば痛いだろ」
頬を抓る結衣の行動に、昌哉は苦笑した。
そっと右頬から結衣の手を外し、抓ったせいで赤くなった箇所を優しく撫でる。
「痛いのが夢だったっけ?」
「違う。痛くないのが夢で、痛いのが現実だ」
「…」
「俺のお嫁さんになるのは嫌?」
結衣は首を横に振ることで答える。
嫌なはずがない。でも、信じられないのも本当だ。
自分の都合がいい夢を見ている気がして、思わず頬を抓ってしまった。
「…私なんかでいいの? 昌哉君よりずっと子供だよ?」
「結衣がいいんだ。それに今は子供だとしても、俺がちゃんと大人にしてあげるよ?」
「なっ! 昌哉君のバカ! 変態! ロリコン! セクハラだよっ!!」
やけに意味深な顔で言われた言葉の意味を理解すると、顔を真っ赤にして悪態をつく。
(私は年齢的な意味で言ったのにっ! 確かにそっちの意味でもお子様ですけどねっ!!)
結衣の悪態に気分を悪くするどころか、昌哉は嬉しそうに微笑んだ。
年齢差が不安だったのは、何も結衣だけではない。
結衣が昌哉に対して恋心を抱いていたのは知っていたが、ある日を境に態度がよそよそしくなってから不安になった。
年の離れた昌哉よりも、同じ時間を過ごす同級生に心変わりするかもしれない。
しかもその後に昌哉はイギリスに留学することになり、不安は増すばかりだった。
真っ赤になる結衣の反応を見て、深い付き合いをする異性がいなかったことに昌哉は安堵する。
「で、プロポーズの返事が欲しいんだけど」
「………さっきしたじゃん」
「ん? よく聞こえない」
「ちゃんと嫌じゃないって首振ったよ!」
「ゆーいー。俺は言葉で返事がほしいな」
しばらく逡巡してから、結衣は覚悟を決めると昌哉の耳に唇を寄せて小さな声で言った。
蓋をしたはずの、恋でした。
でも捨てることが出来ない、想いでした。
心の片隅に追いやられた、箱。
蓋を開けて取り出したこの想い、受け取ってもらえますか?
「まーくんのお嫁さんにしてください」
『 完 』
―――――では、ありません。
とりあえず起承転結の『起』が終わりました。
とても長い前置きですみません。ホント、すみません。
この話の根幹は『年の差のある幼馴染の学園ラブ』です。
教師と生徒の学園ラブ! 幼馴染! お嫁さんになるとか言っちゃってるんだよ! ヒャッハアァァーっ!!
と、己の欲望をこれでもかと詰め込んで設定を考えていたら、いつのまにか夫婦になってました。
次回からは結衣の通う高校が主な舞台になります。
でも、ちょっとだけ幕間や閑話みたいなのを載せる予定です。
お気に入り登録&評価、有難う御座いますっ!
嬉しいです! これからも頑張ります!!
もうしばらく昌哉と結衣の物語に、お付き合いくださいませ。ペコリ(o_ _)o))
※最後の結衣の台詞を書くにあたり、プロローグの冒頭の台詞を修正しました。