プロローグ
『わたし、まーくんのおよめさんになるっ!』
幼い子供の、しかし真剣な想い。
大人になれば「そんなこともあったね」と懐かしんで終わる出来事。
初恋は実らない。
だって相手は8つの歳の差。
歳を重ねるごとに顕著になる差に、どんなに努力をしても追いつくどころか離れていく感じがした。
それでも淡い恋心は育って、止めることなど出来るはずもなく。
隣にいられればと思い、年下の幼馴染で妹的なポジションにおさまっていた。
もう少し大人になるまで。
そうすれば一人の女性としてみてもらえるはず。
そんな、微かな希望を抱いていた時期もあった。
今でもあの時の情景を思い出すと、胸が痛む。
考えれば分かるはずなのに、そんな素振りが微塵もなかったから安心していた。
偶然、街中で見かけた想い人の横には綺麗な女性。
顔を寄せて楽しそうに会話をする二人の姿をそれ以上見ていられず、反対方向へ走りだした。
その日は布団の中でひたすら泣いて、翌日は酷い顔になっていたのを想い人に心配されたが、泣ける映画を見たと嘘をついた。
「まーくんのこと、大好きだったよ…」
大学へ向かう想い人の後姿を見つめながらぽつりと呟いて、実らなかった恋にそっと蓋をした。