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青色の猫  作者: 猩々緋
9/17

その9

 「一週間後にまた頼む。それまで休め」

 ライツから受け取った報告書を読み終えたあと、ラディスは二人に言った。彼らも「はい」と返す。

 そしてラディスが仕事に戻ろうと目線を下げると、「ラディス兄様」とライツが声をかけた。

 「夕食はご一緒できますか?報告書に書くまではいたらないような話ですが、お話したい事がたくさんあるのです」

 目をきらきらと輝かせながらライツが言う。その横に並んでいたディックも「ぜひ僕も」と自分を指している。

 対してラディスは少し迷っているようだった。昨日の様子や朝食のことを考えると、彼の食は今かなり細いのかも知れない。それを、どう見ても自分を慕っている様な彼らに見せたくはないのかも。

 しかしどのくらい離れていたのかはわからないが久しぶりに会ったんだから、夕食ぐらいは一緒がいいよなー、と、関係ないのに考え込んでしまった。

 そしてはっと思う。ラディスが彼らと夕食を食べるとしたら、私はどうしよう。

 兄弟水入らずに割って入りたくはない。

 部屋で待機していれば誰か持ってきてくれるか?いや、そんな迷惑かけるのもなぁ。

 一晩くらい食べなくても平気かも。朝には食べられるしね!よしそうしよう!

 と、自己完結していたら、ラディスにひょいと抱き上げられた。膝の上に乗ったかと思うと、緩く抱きしめられる。

 「・・・今俺はあまり食べられないんだが、それでもいいか?」

 ラディスが二人を見て言う。ライツはその言葉に一瞬目を見開いたが、ディックは満面の笑みで「はい!」と応えた。ラディスは応えのないライツを見る。

 「・・・もちろんです。お話したくてお誘いしているのですから。食事は二の次です」

 にっこり笑顔で、彼も応えた。

 では後ほど、なんて言いながら、ライツが部屋を出て行こうとする。が、ディックは出て行く気配がない。その首根っこをライツが掴み、引きずるようにして部屋を出て行った。

 それを座ったまま見送ったラディスは、今度こそ私を抱きしめ、耳元で何か言う。

 「お前も付いて来てくれよ」

 ・・・え。




 いや、付いて行く気なんかなかったんだよ、本当に。

 兄弟水入らずに居るとかさ、例え向こうが私を視認できないとか、気にしないとか、そうであったとしても私が気になっちゃうんだよね。

 でもさ、「ご夕食の準備が整いました」って迎えに来たリズさんが言った途端、ラディスが私を捕まえにかかるとか思わないじゃないか。あれから座りっぱなしで詰まれた紙束半分くらい処理し終えた人とは思えない動きだった。行動の先読まれるとか予想外だ。

 しかも私が嫌がって暴れたら、「嫌なのか」って、若干悲しそうなんだよ。いや、表情は大した差はないんだろうけど、目って本当口ほどに物を言う。

 そんなことされたら、付いて行くしかないじゃないか。

 

 そんなわけで、私は今彼らの食卓に混じっちゃっているのです。長いテーブルの端のほうに詰めて、兄弟三人でお話してます。いや、ラディスはほとんど聞き役なのだけど。たまに質問するくらいで。

 私はそのラディスの足元でご飯を食べています。

 三人は二等辺三角形の頂点みたいな位置に座っていて、私はラディスから見て右側、ディックの居るほうに居る。

 ディックは大食漢らしく、さっきから食べる手が止まらない。のに声が聞こえる。どんな技を使っているのかとても気になる食べ方だ。

 ラディスはやはりあまり食べられないらしく、手があまり動いていなかった。でもディックもライツも気にせず話しているようなので、ちょっと安心した。

 私の分のご飯も食べ終わり、このままこっそり抜け出してもばれないかも、と思うほど会話は盛り上がっていた。笑い声も聞こえるので、相当盛り上がっているのだろう。

 と言うわけで立ってみたのだが、壁際に控えていたリズさんに見つかってすごい視線をいただいてしまった。リズさんはあの追いかけっこもどきを見ているから、私が付いて来たのではなく連れてこられた事を知っている。だから見張っているのかもしれない。

 それでなくても、食事中に獣にうろつかれるのは嫌なのかもしれない。うん、こっちのほうが濃厚だ。

 うろついたら彼女に何をされるのか、と若干恐怖に陥った私は、仕方なくその場に伏せをして、彼らの会話が終わるのを待った。時々ラディスがこちらを見るので、脚に尻尾を絡ませて遊んでいた。猫のしっぽって本当に自在に動く。おもしろい。最初は驚いたラディスも慣れたらしく、その後反応を見せなくなった。



 「それではラディス兄様、本日はありがとうございました」

 「とても楽しかったです!またご一緒しましょう!」

 「ああ」

 ラディスを彼の部屋まで送った彼らは、ひとつ礼をすると踵を返して廊下を歩いていった。それをしばらく見ていたラディスも部屋に入り、椅子に座ると息を吐いて一気に力を抜いた。

 なんでそんなに(りき)んでたんだろう。

 傍に寄って見上げてみても、彼は私を抱き上げて撫でるばかりで何も言わない。ううむ、理由がまったくわからない。

 ラディスは机の上にある紙束をちらりと見たが、今日はもうやる気にならないらしい。私を降ろすと、入ってきたのとは違う扉を開いて、隣の部屋へ入っていった。

 何の部屋だろう、と扉の前で首を傾げる。扉は閉まっているので中の様子はわからないが、衣擦れの音と水音が何度も聞こえたので多分浴室だ。けれどラディスは割かし早めに出てきたので水浴び程度だと思う。いやしかし男性って入浴時間短いって聞いたしなぁ。

 ラディスは濡れた頭をタオルで拭くと、それを椅子に掛けてベッドへ向かった。私もそれを追い、昨日の寝る時と同じ位置に行く。

 寝間着に着替えたラディスはシーツの中にもぐりこむと、「おやすみ」と私に向かって言ってランプを消した。私も「にゃあ」と返して蹲る。

 が、しばらくするとラディスが起き上がった。何事かと彼の方を見ると、彼も私の方を見ている。なんだなんだ、と思っているうちに彼は私を抱え、そして寝る体制に入った。

 昨晩ラディスがうなされていた時に私が無理矢理した体制だ。なんだ、気に入ったのかこれ。

 またしばらくすると、寝息が聞こえてきた。うなされている様子もない、安らかな寝息だ。それに安心して、私も目を瞑った。

 ああ、なんかいろいろあった気がする。というか会った気がする。長い一日だったなぁー・・・。

 

 あれ、これまだ二日目?

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