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青色の猫  作者: 猩々緋
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その8

 書類を顔面キャッチしてしまった彼は、多少仰け反ったもののすぐに体制を建て直し、未だ顔に張り付いている書類をはがした。

 それから姿勢をただし、「申し訳ありません、兄上!」と、きっちり90度のお辞儀をした。

 「仕事が達成できた喜びに興奮してしまい、礼を欠いておりました。今後はこのようなことがないようにいたします」

 「その台詞も何度目だ、まったく」

 額に手を当てながら、ラディスは嘆息する。

 「うわぁぁ、ごめんなさい兄上、今度こそはしっかりやりますから」

 「お前の今度は当てにならん」

 「兄上ぇぇぇ」

 その人は泣きそうに顔を歪めながら、机に両手をついてラディスに迫る。ラディスはそんな彼を無視して仕事を再開した。

 まるで親に叱られた子供を見るようだ。兄上とか言ってるから兄弟なんだろうけど。

 ラディスは短く息を吐くと、顔を上げて彼を見た。

 「ディック。それよりも、報告書はどうした。手ぶらのように見えるが」

 言われ、ディックと呼ばれた彼ははっとして自分の両手を見た。が、その手には何も持っていない。

 彼は青ざめてあわあわと口を開閉した。

 「ご、ごめんなさい兄上!あぁぁ、たぶん車の中だ。せっかく一生懸命書いたのに!!」

 車?この世界には車が存在しているのだろうか。

 首をかしげて聞いていたが、どうも私が想像した車とは違うことがすぐにわかった。

 「そうだ兄上、あの車はひどいです!積荷の代わりに人が乗る、なんて、大勢の移動の時には便利かと思いましたが、揺れはひどいしあちこち痛いしで、これならおとなしくシエスシエラに乗ったほうがましです!」

 「それは後で聞くから、さっさと報告書を取りに行け」

 ラディスは熱弁を振るい始めたディックを一蹴し、手をひらひらと振って追い出す動作をする。ディックは「そうでした!」と言って踵を返した。その背中に

 「走らず、歩いて行けよ」

 とラディスが念を押し、彼も「はい!」とかなりいい返事をした。が、よかったのは返事だけのようで、閉まった扉の向こうからはバタバタと駆ける音が聞こえた。

 ラディスは再び嘆息。お疲れ様です。

 足元まで寄っていくと、彼は私に気が付いたのか軽く微笑んで私を膝の上に乗せた。

 「騒がしかっただろ。悪かったな」

 言いながら私の頭から背中までを撫でる。いえいえ聞いている私にしたら、軽いギャグを見ている気分でした。

 数回撫でた後、満足したのか彼は私を膝に乗せたまま仕事を再開した。

 あれ、このままでいいの?ていうか、降りるときの振動で手ぶれとか起きそうで、降りるに降りれないんですけど。

 結局私はしばらくそのまま過ごす事になった。

 


 まどろみ始めた時、再び廊下がバタバタと音を立てた。どうやらディックは、懲りずに廊下を走っているらしい。

 その足音がドアの前で止み、一呼吸おいてからノックの音が鳴った。

 「兄上、ディックです!」

 「・・・・・・どうぞ」

 「失礼しまぶふぉ!!」

 彼はまたしても、顔面で書類をキャッチする羽目になった。

 ノックをしただけ、進歩はしたのかもしれない。

 「反省点は」

 「えぇ?えーっと・・・ノックはしました!」

 顔から書類をはがしながらディックは言う。

 「そうだな。そこは褒めてやろう。だが俺は「走るな」と言ったはずだが」

 言われて、彼ははっとして青ざめた。またしてもきれいなお辞儀を見てしまったよ。

 「うぅ・・・。こちら、今回の報告書です」

 「・・・よし。お前は部屋に戻って礼儀作法の勉強でもしていろ」

 「えぇ!?もうちょっといてもいいじゃないですか!」

 眉毛をハの字にして机に両手をつくディック。そんな彼を無視して、ラディスは報告書を読み始めた。

 今にも泣き出しそうな彼を哀れに思いながら見つめていると、彼も私の存在に気がついたらしい。ばっちりと目が合った。

 「兄上、新しい獣を買ったのですか。よく見つけましたね、こんな小さいの」

 言いながらも私から視線をはずさず、まじまじと見てくる。

 そんなにじっくり見られると、恥ずかしいのですが・・・。

 私は思わず身じろぎし、ラディスの方に寄った。それにあわせるようにディックも乗り出してくる。そのときにバサバサバサッ・・・と、紙の束が落ちる音がした。

 「・・・ディック」

 はっとしてももう遅い。紙の束が落ちる音――――机の上の書類が、無残にも床に散らばったのである。

 ラディスの低い声に呼ばれた彼がそろそろと顔を上げると、酷く冷めた目で自分を見ているラディスがいた。

 「お前は本当、礼儀も行儀もなっていないな・・・。ソラの方がまだ理解しているぞ」

 なんか例に挙げられてしまった。恐怖と疑問符で顔を埋めた彼のために、「ごめんなさいソラって私です」と、机に両前足と頭を乗せる。

 その私の頭をラディスが撫でたことで理解したのか、「僕はこの獣以下ですか・・・」と俯いてしまった。

 そしてしょんぼりしたまま落ちた書類を集め始める。ラディスもため息を吐くと、私を降ろして自分も書類を集め始めた。

 私も手伝えればなぁ、と思いながら二人を見つめる。私は薄い紙を掴めるような手を持っていない。

 もどかしさになんとも言えない気分になっていると、突然扉が大きな音を立てて開いた。

 「ラディス兄様!!ただいま戻りましたー!・・・って、何してるんです?」

 入ってきたその人は、しゃがみ込んでいる彼らを見て首を傾げた。

 「ライツ・・・お前はノックを覚えろ」

 ラディスは額に手を当て、本日何度目かのため息を吐いた。ため息の多い日ですね。お疲れ様です。



 「あはは、ディック兄様は相変わらずば・・・ええと、元気ですね!」

 ライツと呼ばれた、どうやら三男らしい彼は、机に最後の紙束を置きながら言った。何か言いかけたが、聞かなかったことにしよう。

 「ラディス兄様、こちらはアスティニアとジェニスの報告書です」

 「ああ、ありがとう」

 ラディスはライツから報告書を受け取ると、椅子に座ってそれを読み始めた。ディックの報告書は既に読み終わっていたらしい。

 毎度思うが、読むの速いなぁ。速読でも習得しているんだろうか。

 ライツはそんな彼の様子をじっと見ていた。そしてディックは、なぜか私の真横で座り込んで私を見ていた。

 何だろう。変なプレッシャーがかかって彼のほうを向けないぞ。

 この視線から逃げれないかと移動してみたが、そうすればディックは四つんばいで付いてくる。いやいやいや、王子のする行動ではないだろそれ。

 「・・・ディック」

 「はい!」

 ラディスに呼ばれ、彼は座ったまま姿勢を正した。気づけばラディスはこちらを見ていて、ライツも・・・あの・・・うん、「なにしてんのあいつ」みたいな蔑んだ目で見ている。

 弟が兄に向ける目ではないと思う。

 「さっきから何をしているんだ、お前」

 「はい!この、ソラの生態が気になりまして、少々観察をしておりました!」

 いつの間にか私は観察対象にされていたらしい。ディックは白衣三人衆みたいな研究家気質なのだろうか。

 「そうか。では、お前はゴードンフィリアに自分と同じ歩き方で追い掛け回されたいか?」

 「え」

 ゴードンフィリアが何かわからない私は首を捻ったが、ディックは少し考えた後に青ざめて身震いした。ライツも顔を引きつらせている。

 「い、嫌です!あんな巨体が二足歩行で後ろを付いてくるなんて・・・何を考えているのか」

 「では、今のお前の行動は?」

 ディックはまたも考える。そしてはっとして、「申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!」と、土下座をした。

 洋装の人が土下座。この世界にその謝り方があったという意味も込めて驚いたが、その土下座の勢いに驚きすぎて後ずさってしまった。

 ラディスがため息をついたのは言うまでもない。

お気に入り件数が1000件超えしていました!

皆様ありがとうございます!!


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途中に出てきた町の名前を変えさせていただきました。

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