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青色の猫  作者: 猩々緋
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その7

 シエスシエラの小屋を更に奥に進むと、牧場のように広い平野に大きなドラゴンが居た。なにせラディスを丸呑みできそうなほどの大きさである。彼より小さい私は萎縮してしまった。

 「ソラ、大丈夫だ。彼らはおとなしいから」

 ラディスが背中を撫でてくれるが、これは自分の意思ではどうにもできない。

 ラディスに気が付いたのか、オレンジに近い赤の身体を持ったドラゴンが頭をこちらに近づけてきた。彼は私たちのすぐ隣に頭を降ろし、ラディスはその鼻筋を撫でた。

 「こいつはグランツ。父上のワイバーンだ」

 ぎょろりとした金色の目に見られ、身体がすくむ。

 ≪は・・・はじめ、まして≫

 ≪ああ、初めまして。新しく入った子かい?≫

 グランツは、まるで温和なおじいさんのようにゆったりと喋った。その喋り方にほっとして、緊張が少しほぐれた。

 ≪お前さんのように小さいもんには、私は恐いかねぇ。すまないねぇ≫

 ≪い、いえ、私の方こそ、恐がってごめんなさい≫

 そう言うと、彼は僅かに目を細めた。

 心なしか緊張の解けた私を見て取ったのか、ラディスは私の頭を撫でながら口を開いた。

 「もう一頭ワイバーンが居るんだが、大丈夫か?」

 その声にあわせてグランツも頭を上げ、後方を見た。同じ方を見てみると、少し離れた位置に寝ているワイバーンが居る。こちらは濃い赤色の身体だ。

 多分大丈夫だ。見た目は(大きさもあり)恐い彼らだが、性格は温厚らしい。多分大丈夫だ。

 半ば言い聞かせるように考えた後、ラディスに頭を摺り寄せ、了承を示した。

 彼は微笑むと、懐から細い笛のようなものを取り出し、それを吹いた。風が吹いたような音が鳴る。

 奥に居たあの濃い赤色のドラゴンにもそれは聞こえたらしく、起き上がりこちらへとゆっくり歩いてきた。飛ぶほどの距離はないにしても、その姿はなんだか気が抜ける。

 私たちの元へ辿り着いた彼は、グランツとは反対側に、同じように頭を降ろした。その鼻筋をラディスが撫でる。

 「こっちはガレリオ。俺のワイバーンだ」

 愛しそうに鼻筋を撫でながら紹介してくれる。

 ≪あの、はじめまして≫

 ≪はい、初めまして。新しく入った子だね?同じ主を持つ者同士、よろしくね≫

 こちらも、気が抜けるほどゆったりと喋るドラゴンだった。ワイバーンというのは皆そうなのだろうか。

 ≪君はいつここに来たの?もう慣れた?≫

 ≪昨日、です。慣れるのはまだ・・・≫

 ≪そうさなぁ、昨日の今日じゃぁ、まだ慣れられんわなぁ≫

 ≪じゃあ、あのおじいさんの身体検査は受けた?≫

 ≪あ、あれはなんとなく緩めにしてもらいました≫

 ≪本当?いいなぁ、僕はがっちりやられちゃったもんだから、もうあのおじいさんの顔すら見たくないね≫

 ≪はぁ・・・≫

 喋り方はゆったりなのに、随分喋るドラゴンである。そんな彼を見るグランツの目は孫を見るようである。おじいちゃんか。

 私がいつまでも彼らと話していたからか、ラディスがその場に座り込んだ。私は彼の胡坐に座るように降ろされる。

 退屈だったのだろうかとおろおろしていると、「気にするな」と彼が私の頭を撫でた。それでもおろおろすると、「大丈夫、ラディス様も休憩したかったのだろうさ」と、グランツが言った。ガレリオも同意するので、少々心配になりながらも、お言葉に甘えることにした。

 ≪ああ、そういえば、貴女のお名前は?≫

 二頭に同時に聞かれ、どれだけ抜けているのだろう、と思ったが、名乗らなかった私も対外抜けていたのだと気付かされてしまった。

 


 ≪お前さん、ラディス様が獣好きだって知っているかい?≫

 唐突にグランツが言った。

 ≪え、でも、さっき・・・シエスシエラの前ではそんな感じはしませんでしたけど≫

 ≪なんでも、人間の前では表情を崩さないようにしているそうだよ≫

 ≪だからそっけなくなってしまったのかもしれんなぁ≫

 私はうつらうつらとしてきたラディスを気にしながら彼らの話を聞いていた。そういえば、人に対して微笑みかけたところは見たことがない。

 ≪子供の頃なんかは、暇さえあれば僕らのところに遊びに来ていたんだよ≫

 ≪暇でなくても来ていた様で、時たま叱られていたなぁ≫

 グランツが目を細める。ガレリオも笑っていた。

 ≪近頃は政務が忙しいらしくて、あまり来ていなかったんだが・・・元気そうでなによりだ≫

 ≪それにソラが近くにいるのなら、わざわざここまで足を運ばなくてもいいみたいだしね≫

 私はラディスを見上げた。気付いた彼が微笑んでくれる。

 どうやら、動物セラピーは彼に対して十二分の威力を発揮できるらしい。これはいいことを聞いた。

 しかし肝心の彼はもうそろそろこのまま寝てしまいそうだ。

 ≪あの、またお話をしに来てもいいですか?≫

 ≪ああ、いつでもおいで≫

 ≪どうせ僕らも暇なんだ≫

 それを聞いて礼を言うと、ラディスを起こして来た道を戻った。

 陽はもう西に傾いてきている。

 


 部屋に入って始めに目に入ったのは、高く積まれた書類だった。午前中を丸々と、午後の日が出ている時間の半分を使ってしまったのだ。このくらいは当たり前だろうか。

 ラディスはため息をつかないまでも、一度前髪を掻き揚げ、おとなしく机へと向かった。これはまた夜遅くまで掛かってしまうかもしれない。

 私もため息を吐きたくなったが、彼がしなかったものを私がするわけにもいかず、それを飲み込んだ。


 ラディスが仕事を始めて数時間も経たぬうちに、廊下を騒がしく駆ける足音が聞こえた。その足音がこの部屋まで近づいてくる。ラディスはこの時ようやくため息を吐いた。

 足音は部屋の前で止まったかと思うと、間もおかずに勢いよく扉が開かれた。

 「兄上!!ただいま戻りましたぶほぁっ!!」

 声に驚いて扉のほうを見ると、顔面に紙束を貼り付けた状態でのけぞる青年が居た。何なのかとラディスを見ると、座ったまま何かを投げたような体制をしていた。

 「お前はいつになったら行儀を覚えるんだ・・・」

 あの紙束を投げたのはラディスらしい。

 ていうかそれ、仕事の書類じゃないの?

気が付けばpt2000越え、お気に入り登録数500件を越えていました!!

ありがとうございます!!

更新はかなり遅いですが、お付き合いいただけるとうれしいです!!

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