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青色の猫  作者: 猩々緋
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その6

 更に調べたそうな白衣三人衆の視線を無視して、ラディスは私を抱えて部屋を出た。もしかしてこれから絶叫せざるをえないような検査をされるのか、と内心びくびくしていたのでほっとした。

 ラディスの腕の中で、きょろきょろと辺りを見回す。昨夜は暗くてちゃんと見れなかったが、真っ白な壁に彫刻された立派な柱、点々と置かれた調度品など、確かに城と言っても過言ではない風体だ。

 「落ち着かないみたいだな、ソラ。少し散歩するか?」

 頭を撫でながらの提案に、私は快い返事を返した。



 まず向かった先は中庭だった。噴水を中心として十字の通路があり、その他の地は全て草花で埋まっていた。

 通路に降ろしてもらい、すぐ傍にある花に近づく。

 「通路から出るなよ。折角庭師が育ててくれているんだ、荒らしては勿体無い」

 わかっていますとも!と一度ラディスを見やり、すぐに視線を花に戻す。今目の前にあるのは、赤と薄桃色の花びらが、交互に、幾重にも重なった、なんとも愛らしい花だった。道なりに歩いていけば花の種類が変わり、今度は百合の花が鈴蘭のように垂れ下がっている花が見られる。しかしその花びらは白ではなく、うっすらと青みがかっていた。

 しばらく歩き回ってみると、通路によって四つに区切られたこの中庭は、それぞれが四季を現しているのだと気が付いた。

 最初に見ていた区域は花が咲き誇っていたのに対し、左隣は花びらが散り始め、種の準備をしていた。後ろを振り向けば未だ蕾を作り始めたばかりで、斜め向こうにいたっては花の陰など皆無だ。

 そこまで思い至ったところで、ラディスが傍にいないことに気付いた。何処に行ったのかと見回せば、彼は噴水の縁に座りながら私を眺めていた。

 うっすらと微笑んでいることから、酷く退屈だったわけではないらしい。

 しかし、「酷く」ではないだけで、「退屈」なのだったらどうしよう。

 ラディスの方へと寄りながら、彼と花を交互に見る。

 「俺のことは気にしなくていいから、好きなだけ愛でていろ」

 頭を撫でて言ってくれるが、やっぱり迷ってしまう。

 とりあえず一通りは眺めたのだし、人を待たせてまで自分の好きなものに没頭する気はない。

 私は噴水の縁に飛び乗り、ラディスの隣に座った。

 「・・・他のところにも行くか?」

 彼の提案に頭を摺り寄せると、再び私を抱え上げ、来た渡り廊下の反対側にある渡り廊下を横切る。

 しばらく歩くと、人がちらほらと見えるようになってきた。その全員が、ラディスを見て深々と頭を下げる。それを気にした風もなくラディスは歩き続ける。前方に馬小屋のようなものが見えてきた。

 「お、王子!いかがなさいました!?」

 馬小屋の前にいた数人が、ラディスの突然の登場に目を剥き、深々と頭を下げた。所々土に汚れ、何人かは手に水の入った大き目のバケツを持っている。ここで飼育をしている人たちらしい。

 「散歩に来ただけだ、気にするな。普段どおりにしていろ」

 無茶を言いなさる。案の定飼育員たちは困惑気味に顔を見合わせていた。

 ≪まったくこの王子は、もっと周りを見ろっての≫

 ≪いやいや、言い方が悪いだけじゃない?≫

 ≪あと無表情なところとか?≫

 どこかから聞こえた声に、ピクリと耳を立てる。何処からかと視線を巡らせるが、誰もが様子を伺うようにラディスを見ているだけで口を開いてはいない。

 巡らせた後視界に入ったのは、馬小屋の中に居る存在だった。

 確かにぱっと見は馬だ。しかしその額には、銀色に光る長い立派な「角」があった。所謂「一角獣」である。

 最初に目に入ったのは、全体的に白く、銀色の(たてがみ)を持った、額から角を生やしたその動物。その隣には全体的に黒い、同じく額から銀色に光る角を生やした同じ形の動物。更にその隣にも全体的に灰色の・・・と、計3頭の馬のような動物が居た。

 ラディスはその内の1頭―――白い馬の様な動物に近づくと、横に回ってその体を撫でた。彼に抱かれたままの私も自然と近づくことになる。大きな瞳と目が合った。

 ≪ああ、貴女が新しく来たっていう子?初めまして≫

 突然先ほどの声が聞こえ、それと同時に目の前の動物が鼻を鳴らした。あまりの驚きに無意識に身を引くと、ラディスが安心させるように撫でてくれる。

 ≪え、ええと・・・ハジメマシテ・・・?≫

 試しに銀色の鬣をなびかせる目の前の動物に話しかけてみる。やはり「にゃー」と言っているようにしか思えないが。

 ≪ええ。ここには慣れた?って言っても昨日来たばかりだもの、まだ難しいかしら。そんなに小さいと大変よね≫

 会話が成り立ったらしい。更に驚いていると、

 ≪お、新入りが居るのか!?見たい見たい!!邪魔だ王子退けろ!!≫

 後ろからとんでもない言葉が聞こえてきた。

 ≪おいもっと敬えってー。そいつのおかげでめし食えてんだからさ≫

 ついで聞こえた声は、言葉に反して敬ってはいない。

 ≪ちょっと、黙りなさい≫

 目の前の動物から、鋭い声が発せられる。それに他の二つの声が黙り込む。おお、彼女(?)がリーダーか。

 私がジッと見つめていたからか、ラディスが彼らを紹介してくれた。

 「ソラ、この銀色のシエスシエラがフィリシア、隣の黒いのがリグナス、その隣の灰色のがアルファだ。こっちの2頭はフィリシアの子だ」

 彼らの種類はシエスシエラというらしい。そして目の前の彼女はリーダーではなく母親だった。母は強し。

 ≪貴女はソラって言うの?よろしくね≫

 ≪あ、はい。よろしくおねがいします≫

 フィリシアが鼻を近づけてくるので、同じように私も鼻を近づけた。これで挨拶になっているのだろうか。

 「もう恐くないか?」

 ラディスの問いかけに、頭を摺り寄せて返事をする。彼は「そうか」と微笑んで頭を撫でてくれた。

 ≪あら、無表情王子を微笑ませるなんてすごいわね≫

 少し驚いたようにフィリシアが言う。無表情王子・・・確かに人に対して笑っているところを見たことはない。

 ≪貴女随分と気に入られているのね。いいことだわ≫

 彼女は明るい調子で言うと、≪あ、そうそう≫と思いだしたように言う。

 ≪この奥にも、ワイバーンが2頭いるの。挨拶しておきなさい≫

 ワイバーン。ドラゴンの体に、手の代わりに翼があるあれだろうか。まさか知っている種類の生き物がいるとは思えなかった。

 言われた奥のほうを覗き込むが、何かがあるようには見えない。じっと見ていると「行ってみるか?」とラディスに聞かれたので、「是非に」とひとつ鳴いた。

 

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