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青色の猫  作者: 猩々緋
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その5

 まぁ、この世界に私みたいな獣は居ないのだろうと思っていた。道端で見た犬っぽいのも、いろいろと付属がついてキメラのようだった。

 新種であるなら調べたいだろうし、ましてやラディスはお偉いさんである。調べなくてはいけないのだろう。

 じゃあ何で昨日のうちに来なかったんだろう。と考えていると、「昨日は寝ているからなんて理由で帰されましたが今日こそは・・・」とキーリスが言っていた。そんな理由で帰したラディスも、帰されたキーリスもすごいと思う。

 とにかく、上司のそばに危険かどうかもわからないものが居ては、下に居る人は不安でたまらないのだろう。正直体を見回されるとか触りまくられるとか嫌だが、そこは仕方がない。

 覚悟を決めた私の横で、ラディスは不安げに私を見ていた。今更になって私に恐怖を覚えたのか?と思ったのだが、抱き上げたことから違うらしい。

 「ラディス様!」

 「悪い・・・お前らの「調べる」というのはどうにも不安でな・・・」

 言いながらラディスは私を強く抱く。

 どうやら、ここに動物が連れてこられるたびにキーリスたちが「調べて」いたそうだ。その度に動物たちの絶叫が聞こえるらしい。

 どんな調べ方してるんだ、と不安になってしまった。

 「それは安全を確かめるためには仕方のないことなのです。・・・ラディス様、王子であるあなたのお側にそのようなよくわからない獣が置かれて、我らは心休まる時がないのですぞ」

 またも出てきた王子という単語。それは明らかにラディスを指していた。

 予想していなかったわけではないが、ラディスは王子様だったらしい。驚くと同時に、ならばなおさら私の安全性を証明しなくては!と思って、ラディスをじっと・・・というか、じとっと見つめた。

 相変わらずの以心伝心振り、あるいは読心で、彼は私が何を思ったのかわかったらしい。多少戸惑っていたが、

 「・・・俺も立ち会う。それでいいな」

 了承の意を示しました。




 流石にその場で調べるわけではなく、移動した先は怪しい薬や器具の置いてある実験室のような―――――場所ではなく、向かい合わせのソファの間にテーブルが置かれた、応接室のようなところだった。

 そこで私はラディスの膝の上で、相手にお腹を見せる形で座っていた。お腹にはラディスの手が回っている。

 白衣の人たちがなんともいえない視線を送ってくるのだが、ラディスはそんなもの丸無視である。いやいやラディスさん、これじゃあ調べるも何もあったもんじゃないじゃないですか。

 「・・・まぁいいでしょう。生態は後日調べさせていただきます。本日はとりあえず、武器になりそうなものを調べましょう」

 なんだか不吉な言葉が聞こえた気がしたが、きっと私の聞き間違いだ、うん。

 メガネをかけた白衣の男が提案すると、白衣を着た女性、丸坊主の白衣の男が同意する。今居るのはこの三人だが、面倒くさい。前から白衣A、白衣B、白衣Cと呼ぼう。適当だなんて言わせない。

 白衣三人衆は私を見ながら議論を始めたようだ。やはり牙じゃないか、いや何か隠しているのかも知れない、もしかしたら魔法が使えるのかも。

 この世界には魔法が使える動物がいるんですか!ものすごく興味深いです!!

 彼らが言ったことは仮説に過ぎないのだけれども、私は期待に目を輝かせていた。

 「ソラ、お前武器になるものなんてあるのか?」

 頭上からラディスの声が降ってきた。一応動物ですから、身を守るためには備えていますよ。・・・多分。

 猫と言ったらやっぱり爪だろうか、と自分の手を見つめる。僅かに見えはするが、正直どうやって伸ばすのかがわからない。

 まあいいか、これが武器だ!と両手を挙げて口を開き、ラディスを見上げる。彼を見るためには顔を真上に上げなければならないので、ちょっとキツイ。

 「お前の武器ってこれか?」

 ラディスは片手で私の手の一方を掴み、もう片手で牙に触れる。ちょ、手はいいけど牙はやめてマジで。

 牙は肉を食べる動物には必ずと言っていいほど付いているので、すぐに納得したらしい。ラディスは私の手をいじり始めた。

 一見すれば何の変哲もない手なので、ラディスは僅かに首を傾げる。

 「おい、これがこいつの武器らしいぞ」

 気が付けば動物の武器について熱く語っていたらしい白衣三人衆が、驚いた様子でこちらに向き直った。その勢いに私が驚いたが、ラディスはそうでもないらしい。肝が据わってらっしゃる。

 「この・・・前足がですか?・・・如何様(いかよう)な武器なのです?」

 「知らん。尋ねたら指し出してきたのだ」

 ラディスは私の手をいじりつつ、白衣Aの質問に答えた。ちょっと、それじゃ天然さんみたいじゃないか。ほら白衣Cが「何言ってんのこいつ」みたいな目で見てるよ。ていうか王子にその視線って、度胸あるなおい。

 「その獣は人語を理解しているのですか?」

 「おそらくな」

 白衣Bが私をまじまじと見ながら尋ねる。それにラディスは曖昧に答えた。流石にここは肯定できないらしい。確認できないもんね。

 「では、少しテストをしてみましょうか」

 と、話が大いにずれる方向へ向かった。武器はどうなったコラ。ていうかラディスさん、肉球堪能してるだろ。絶対してるだろ。

 

 テストは単純なものだった。質問に対し、「はい」の時にだけ鳴く。それだけだ。

 「・・・本当に理解しているようですね」

 白衣Cが感激したように言う。目なんか輝いちゃってるし。

 「頭がいいのでしょうか。ぜひ計算もさせてみたいです」

 白衣Aも目が輝いている。

 「となると、その前足が武器だと言うのも本当なのでしょうか」

 白衣Cが、一人冷静に言う。もしかしてクールキャラなのだろうか。

 ようやく武器の話に戻り、内心ほっとした。早く終わらせてくれ。

 「よく見ると・・・爪らしきものがありますね。これを使うのでしょうか」

 そうそう。内心で頷くも、どう見てもこのままでは武器として使えない。短すぎるのだ。

 本当どうやれば出るのこれ。怒ったときとか威嚇のときとか、そういうときに出るんだよね。

 ・・・今怒る状況じゃないし。威嚇する対象居ないし。

 半ば自棄になりながら、爪伸びろ爪伸びろと念じてみた。が、もちろん無理。

 手を押せば爪が出ると聞いたことがあるが、果たして今居る人間が押してくれるのかどうか・・・。頼みの綱は未だにいじっているラディスである。ていうか本気で気に入ったんだな。

 白衣三人衆が議論を交わしている横で、私は今まさに手の甲に乗っているラディスの指を押してみた。が、一緒に私の手も降下する。

 それでもその行動を続ける私を見て、ラディスは直感したのか、指に力を入れた。

 「ああ、なるほど。隠しているのか」

 ラディスに拍手を送りたい気分です。三人衆も出たり引っ込んだりする爪を見て、感嘆の息を漏らす。


 結局私の武器は、危機的状況にのみ現すことのできる隠し刀ならぬ隠し爪、ということでまとまった。

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