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青色の猫  作者: 猩々緋
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その15

 失敗した。まさかあのまま膝の上にいることになるとは。だから仕事中あそこにいるのは気が張って大変なんだってば。

 と、何度目かの後悔をしている今は深夜。相も変わらずラディスは私を抱えたまま寝ている。

 私はと言えば、抱えられた格好のまま眠れずにいた。この世界に来たからか、猫になったからか、どうもなかなか寝付けない。

 しばらくじっとしていればいつの間にか寝ているのだが、その間がどうも暇だ。

 動き回ってはラディスを起こしてしまうし、どうしようかなぁ…と寝返りをうつ。うつぶせ状態になると、ちょうど顎がラディスの腕に乗った。

 なんだかこれにも慣れてきたな…あれ、私順応性高すぎじゃないか?

 ええと…今日で何日目?四日目?まだ一週間も経ってないじゃないか。

 …なんだか自分自身が不安になってきた…。

 これは慣れきってしまう前に何とかしなくては。と、ラディスを起こさないようにゆっくりと腕から抜け出す。この中腰みたいな体勢、結構つらいものがある。動物の狩の時ってこの格好が多いけど、よくやるなぁ。と思ってしまう。彼らは命がけなのだから、このくらいはどうってことないのだろうけど。

 時間をかけてしっぽまで抜ききり、少し離れてようやく伸びをする。これほどまでに緊張したことなんてあっただろうか。

 さて、もともと私の寝床は用意されていたのだから、私はそこで寝ることにしよう。

 一応、と思っているのか、初日に置かれた私専用のカゴベッドは未だそこに置かれている。問題はこのベッドからどうやって降りるかである。

 ベッドの端まで行って見下ろせば、なぜか恐怖心が襲ってくる。

 いやいや落ち着け、大丈夫だって。猫のバネを信じろ。ていうか本能を信じろ。

 覚悟を決めて、飛び降りるために姿勢を低くする。その時ベッドがきしみ、後ろ脚が沈み込んでバランスを崩した。

 短い悲鳴を上げて転がるように座り込み、相変わらずのふかふか感に手こずりながら慌てて体勢を立て直した。

 なにがあったのかと振り返れば、上体を起こしてだるそうに座っているラディスがこちらを見ていた。

 私の緊張が水の泡だ。起こしてしまった。

 思わず固まって見つめ返していると、ラディスは無言のまま私を抱え上げて元の通りシーツにもぐりこんだ。

 一言も話さないことに困惑する。いつもなら「どうした」くらい言うじゃないか、こういう時。

 しかしそんな困惑も無駄なことだったようだ。なぜなら、隣からはすぐさま寝息が聞こえてきたから。

 …寝ぼけてたんかい。

 そうだ、ラディスって寝起きが悪いんだった。往生際が悪いといってもいい。

 なぜかほっとしつつ、私も諦め悪く抜け出そうとした。が、どうしてか非常に動きづらい。

 なんでだ?と首を傾げつつ前進を試みるが、やっぱり動きづらい。あまり動いてラディスを起こしてしまってはいけないので、あくまで慎重に動く。

 もう少しで抜けられそうだ、というところではたと気が付いた。そうか、抱きしめる力が強くなってたんだ。

 なにその抱き枕取られた子供みたいな反応。抱き枕はあってるのかもしれないけれど。

 若干呆れながらも、先ほどより強引に抜け出たのでラディスが起きないか心配だった。けれど起き上る様子もないし、寝息は規則正しい。

 これなら今度こそ、と意気込んでベッド端までいく。しかし再びベッドがきしむ音がして、前足を上げた状態で固まった。

 え、だってさっきまで普通に寝てたのに。

 恐る恐る振り向けば、そこにはやはり起き上って私を見ているラディスがいた。しかも、

 「…何してるんだ?」

 覚醒しているらしい。

 眠たげな眼をしながらこちらを見て、わずかに首を傾げる。

 固まったまま動かない私をさらに不思議に思ったのか、近づいてきて私の背を撫でた。

 「…よくはわからんが、もう遅いんだ。早く寝ろ」

 言って、ラディスは私を連れてベッドに入りなおした。三度抱きこまれて、静かに息をつく。

 たかだかベッドから出ることが、なぜここまで難しいのか。

 考えて考えて、結局そのまま寝入ってしまった。

短くてすみません。

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