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青色の猫  作者: 猩々緋
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その13

 ラディスが謁見に行ってしまったので、私は外出の許可をもらって(と言っても部屋から出してもらっただけだけれど)、ワイバーンたちのところへ来た。暇になったらここに来る様な習慣がつきそうだ。

 他愛もない会話をして、ふと思い出して聞いてみた。

 ≪そういえば、戦争があり得ないってどうしてですか?≫

 昨日ディックがこぼした事。日本のように戦争放棄でもしているんだろうか。

 グランツがううむ、と唸る。ガレリオを見れば、グランツの方を見ていた。説明は任せると言うことなのだろ。

 ≪そうさなぁ、ならまずは、この国の歴史を話そうか≫



 この国ができて150年ほど経ち、周辺国も同じくらいの歴史を経ていた。それよりも10年ほど前、人間の世界は滅亡しようとしていた。

 グランツも人間が滅んで行く様を見ていたと言う。木々が無くなり、枯れていく土地。少なくなっていく食料を奪い合い、ある者は殺され、ある者は飢餓に苦しみながら死んだと言う。

 自業自得と言えばそうなのだろう。人間が便利さだけを求めた代償だ。

 そんな様子を見ながら、グランツを含めた大型の獣は自分たちの森を守り続けた。自分たちが自由に暮らせる、人間に侵されない土地を広く確保していた。

 人間は次第にその土地に目をつけた。奪い取ろうと幾人もの人間が乗り込み、返り討ちにあっていた。

 獣たちはその姿を、怒りでも憎しみでもなく、呆れと悲しみで見ていた。

 あるとき、一人の男が獣たちの前に現れた。その男は武器も何も持たず、ある要求をしてきた。

 「この土地の一部を貸していただきたい」

 もちろん始めは拒否した。しかし言葉が伝わらないながらも必死で訴え続ける男に次第にほだされた獣たちは、人語を話せる獣を呼んで条件を出した。

 獣たちの生活を必要以上に脅かさないこと、森を殺さないこと、人間本位にならないこと。

 男はその条件を飲んだ。それを受けて、獣たちは森の端のほんの一部を男に貸した。

 条件など守れないだろう、と一部の獣は思っていたらしい。ところが男は、条件のために人間に厳しく当たった。

 条件はルールとなり、破ったものには罰を与えた。

 10年ほど経つと、その土地には男を王とした国ができていた。そこに住む人間たちは、獣に大きな敬意を示していた。人間本位どころか動物本位の国になっていた。

 更に時が経つと、緑の範囲も国の数も増えていた。どの国にも共通のルールがあった。

 獣に敬意を払うこと。

 そのルールは何年経っても破られることは無く、獣とも共存するようになっていった。


 

 ≪・・・それでな、戦争をしない理由だが≫

 一息ついてグランツが続ける。

 ≪国々の間には森があるんだ。戦争をすればその森が戦場となり、侵されるだろう?獣たちにも迷惑がかかる。だから、どんなに相手国に敵意を持っても戦争はできないのだよ≫

 私は呆気に取られていた。そんなこと、というのはあれかもしれないが、それでもそんなことで戦争が起きないと言うことが驚きだった。

 ≪今じゃ獣を殴ったら死刑なんだよ≫

 ガレリオの言葉に更に驚いた。行き過ぎた動物愛護ではないかそれは。

 ≪けれどなぁ、人間と暮らすようになってから、もともと臆病だった小さな獣たちが更に隠れるようになってしまってな。私もシエスシエラの子より小さい獣を見るのは百年ぶりくらいだな≫

 それで私は珍しがられていたのか。

 頭の中を整理しながら考える。昨日ライツが言っていた「獣虐待なんて冗談にもならない」と言うのは、本気で冗談でも言えない事だったらしい。

 ≪でも、獣の売り買いはいいんですか?≫

 グランツを見て言うと、≪そんなことがあるのかい?≫と逆に質問で返された。

 ≪グランツさん、僕は売られてきたよ。確か生態を調べたいからって理由だったと思う。その後ラディス様が気に入ってくださったからここにいるんだけど≫

 ≪そうだったかの。私は自分でここへ来たからなぁ。しかし、愛玩目的だけの売買はないのではないか?≫

 となると、と考える。ラディスは当然そのことを考えただろうし、愛玩目的で買った訳ではないだろう。いや、買うどころか保護目的だったのかも知れない。嫌がったら森にでも放したのかも。

 この国のルールと彼の動物好きを考えると、あり得ないことでもないだろう。そんなことされたら生きていける自信がないけれど。

 ≪・・・あれ?グランツさんていくつですか?≫

 ふと、先ほどの話から考えてみた。建国が約150年前、それより前には既に居たと言っている。

 ≪うん?どうだったかなぁ、四百・・・は過ぎているはずだよ≫

 グランツは本当におじいちゃんだった。驚いてガレリオにも同じ問いをすれば≪僕はまだ120くらいだよ≫と返ってくる。それでも十分じゃないのか。

 ≪知らないの?僕らの寿命は大体六百か七百くらいだよ≫

 驚きっぱなしの私に、更なる爆弾が落とされた気分だった。

 

 シエスシエラの小屋の前を通ると、ライツがアルファの首に抱きついていた。なにやらアルファはとても喜んでいるようだ。

 ≪うわぁライツ様だ!また来てくれたんだ!ねぇ今日こそ散歩に行こうよ、僕走りたい!!≫

 アルファは足を踏み鳴らしながら顔をライツに摺り寄せる。身体の振動にあわせて尻尾が揺れていた。

 ライツも笑みながら「よしよし」とアルファの首筋を撫でた。アルファは更に嬉しそうに鼻を鳴らす。

 「随分興奮してるね。どうしたの?」

 ≪そりゃあ自分の主が来てくれたらね!嬉しくないわけないよ!≫

 隣を見ると、じゃれあう一人と一頭を羨ましそうに見ているリグナスがいた。私はそっちのほうへと寄っていく。

 ≪あーいいなぁ・・・。ディック様今日は来ないのかなぁ≫

 ≪リグナスの主はディックなの?≫

 問えば、彼は視線を私に向けて≪様付けろよ、様≫と顔を近づけてきた。角がちょっと恐い。

 ≪そうだよ、俺の主はディック様。ディック様は外出するのがお好きだったから、昔はよくあの方を乗せて走ってたんだ。今でも遠征の際は俺を使ってくれるんだけど、この前は何か新しい乗り物の実験とかで連れてってくれなくてさぁ・・・≫

 ため息をつくように鼻が鳴る。そして再び、羨ましそうにライツ達を見た。

 確かグランツとガレリオも王様とラディスが主だと言っていた。この世界では一人一頭パートナーが居るのだろうか。

 けれどそう考えると、昨日いた兵士たちの動物が居ない。ここには三頭しか居ないし、ワイバーンはあの二頭だけだ。

 ≪シエスシエラってここの三頭しか居ないの?≫

 ≪いや、他にも居るよ≫

 リグナスが視線をこちらに戻した。ライツたちは何か飼育係のような人と話し始めたようだ。リグナスもそれが気になったのかちらりとそちらを見たけれど、直ぐに戻して質問に答えてくれる。

 ≪ここに居るのは王家の方専用なんだよ。ワイバーンはさすがに居ないけど、シエスシエラなら山ほど居る≫

 なるほど、彼らは特別扱いされていたらしい。と言うことは、とフィリシアを見る。

 ≪フィリシアさんも誰か主がいるんですか?≫

 聞いた瞬間、リグナスが≪あっ≫と声をあげた。何かと視線を投げる前にフィリシアが応えた。

 ≪私の主は王妃様だったのよ。もう亡くなってしまったけれどね≫

 どこか寂しそうに言う彼女に私は慌てて謝った。ちょっと考えればわかることだったかも知れない。きっと今一番羨ましく思っているのは彼女なんだろう。

 アルファがライツに引かれて小屋を出て行く。その姿を、微笑ましそうに、羨ましそうに、彼女は見ていた。

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