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青色の猫  作者: 猩々緋
13/17

その12

 今日は午後から謁見がある。と、朝食を食べ終わったちょうどその時にキーリスが言いに来た。どこかに監視カメラがあるのでは、と思ったことは秘密である。

 キーリスはそれを伝えると直ぐに部屋を出て行った。彼と入れ違いにいつも両手いっぱいの紙束を持ってくる青年が入ってくる。

 書類を持ってくるのは高確率でこの青年だ。そういう役職でもあるのだろうか。

 今日も紙束を抱えてきた青年は、それを執務机に置くと一礼した。その際に私と目が合い、微笑まれる。私は2、3回尻尾を振って返事を返した。

 彼は私を見ると大体微笑む。ラディスが笑っているともっと深く笑む。

 最近では、彼もディックやライツのようにラディス大好きな人なのだと思うようになった。

 彼が出て行った後、ラディスの足元に寄って行って座る。今日はどうしていようか、なんて考えていたら、ラディスが私を抱き上げて膝の上に乗せた。

 彼はそのまま仕事を始めようとしたが、私にしたら冗談ではない。この体勢、以外と神経を使う。私が動いたことでペンがずれてしまったらと考えると、もう・・・!

 と言うことで慌てて降りたのだが、再びラディスに捕まり膝の上に戻された。

 今日はどうしたんだこの人。

 仕方がないので机の上に移動する。広いこの机上で、ちょうどよさそうなスペースを見つけてそこに座り込んだ。

 ラディスはそれを見て少し考え込んだようだが、「まぁいいか」と私の頭を撫でて仕事を始めた。

 彼の仕事がどんなものか、直に見るのは初めてだ。ペンを走らせている書類をじっと見てみたが、いかんせん私の知っている字とまったく違う。

 ミミズが這っている。いや、これは筆記体という奴か?習ってないぞそれは。教科書に載ってはいたけれど、流し見た程度だからあまり覚えていない。

 睨むようにそれを見ていたが、処理し終えたのかその書類は別の山へと乗せられた。

 次の書類は計算ものらしい。うねうねと書かれた字の横に数字が並んでいた。これは私の知っているものだった。

 ラディスはもう一枚とって、表に数字を埋めていく。先にとった書類に書いてある数字ではないので、計算か何かしているらしい。

 それにしてもさらさら書きすぎだ。本当に考えてるのかこの人。

 ラディスはペンを止めると、思案顔になった。そして表の一番最後の欄を空欄にしたまま別に山を築いた。

 何故あそこは何も書かないのだろう。疑問に思いながら、淡々と続けられる仕事を眺めていた。

 

 ラディスが手紙のようなものを書き始めた時、ノックが鳴った。彼が返事をすると「失礼します!」と意気揚々とディックが入ってきた。

 「兄上!ぜひ仕事のお手伝いを・・・」

 「お前今は授業があるのではなかったか」

 ラディスが呆れ顔でディックの言葉を遮りつつ言うと、彼は思いっきり顔を背けた。それをラディスがじっと見つめる。耐え切れなくなったのか、ディックは顔を俯かせつつラディスの方を向いた。

 「・・・何か、兄上のお役に立ちたくて・・・抜け出してきました」

 ぼそぼそと呟く。それでもラディスは聞き取れたらしく、息をひとつ吐いた。

 「後で先生に叱られるぞ」

 ディックがうっ、と顔を(しか)めた。が、直ぐに立ち直り顔を上げる。

 「平気です!」

 ディックのその表情を見て、ラディスはなにやら考え込んだ。ディックはそれを不安げに見つめる。

 やがてラディスが顔を上げた。

 「では、役立ってもらうために数学を勉強してもらおうか。近頃数字ばかりが来るんだ」

 ディックは一瞬顔を輝かせたが、言葉を飲み込んだ後一気に暗くなった。まぁ、つまりは「勉強して来い」と言われているのだから当たり前か。

 それでも諦めきれないのか、彼は俯いたまま沈黙する。その間もラディスは淡々と書類をこなしていった。

 手紙らしき物も書き終わり、表は再び合計を空欄にしたまま新しい山へと積まれる。

 「では兄上、こちらで勉強してもよろしいでしょうか!?」

 がばりと顔を上げてディックが机に両手を叩きつけるようにしてついた。思わず驚いて飛び上がってしまい、ラディスに宥められた。

 「俺は別に構わんが・・・勉強できるような机も椅子もないし、先生の承諾が必要だぞ?」

 「椅子は運べばいいですし、机はさすがに運べませんが、なくても書き物はできます!先生の承諾は・・・何が何でも、とってみせます」

 先生の~のあたりから後込みしていた。そこはあまり自信がないらしい。

 しかし・・・と私はラディスの手元をちらりと見た。その手にはペンが握られている。

 鮮やかな細工が施された「付けペン」だ。

 ・・・ディックはインクをどこに置くつもりなのだろう。

 執務机は紙束でいっぱいだし、私がどけばスペースはできるだろうが、そんなことをしたらまた膝の上に行くことになりそうで嫌だ。

 ラディスもそこを疑問に思ったのか、握りこぶしを作るディックに声をかけようとした。しかし彼は声をかけられる前に「では、説得してきます!」と、意気揚々と部屋から出て行った。

 そんな彼をそのまま見送ってしまったラディスは、頭に手を当てて部屋を見回した。

 「・・・あれに乗せれば何とかなるか・・・」

 ラディスの視線の先にあるのは、ベッドに寄り添うように置かれた小さなテーブル。確かに、インクを置くくらいなら別に問題はないだろう。



 「許可をいただきましたよ兄上!・・・まぁ、代わりに宿題を倍出されましたが」

 ディックが勢いよく扉を開けて、朗々とした声と共に入ってきた。後半はほぼ呟いていたが。

 ラディスは書き終わった書類をいつもの山に積んで顔を上げた。そして少し目を大きくする。

 「・・・増えてるな」

 「・・・やはり、お邪魔だったでしょうか」

 ディックの後ろにはライツが居た。その手には数冊の本と筆記具が抱えられている。

 「いや、お前まで授業を抜け出してきたことが意外だっただけだ」

 ラディスが言うと、ライツは一歩踏み出して弁明した。

 「ラディス兄様、僕は今日の分の授業は終わらせてきました!これは宿題と予習分です!」

 「・・・そうか、お前は頑張るな」

 ライツの勢いに押されながらも、ラディスはそう返した。うっすらと笑っている気がする。

 ライツもそれに気が付いたのか、言葉が嬉しかったのか、うっすらと頬を染めて笑んだ。

 ディックを見やると、思いっきり視線を逸らしていた。身体動かす方が好きみたいだからなぁ。

 

 そんなこんなで、二人は椅子を持ち込んでベッド側で勉強を始めた。私は位置も変わらず、机の上でラディスの仕事を眺めている。

 やがて、ディックが本を見つめて難しい顔をしながらこちらへやってきた。

 「兄上、質問してもよろしいでしょうか・・・」

 「なんだ?」

 ラディスが顔を上げて問い返すと、ディックは持っていた本を彼に見せた。私も書類やらを踏まないように近付き、それを覗き込んだ。

 どうやら数学の教科書らしく、数字が並んでいた。

 数学・・・数学?

 ラディスが説明を始める横で、私は再度それを見つめる。並んでいる数字は分数になっている。それが記号を挟んで二つ並んでいる。

 ・・・分数の掛け算割り算だー・・・。

 ディックはどう見ても十代後半から二十代前半である。

 あれ、この世界の数学はこのレベルなんだろうか。と言うことは、ラディスが先ほどまでしていた計算もこんなに単純なものだったのか?

 驚愕に首をかしげていると、説明を受け終わったらしいディックと入れ替わりにライツが本を持ってやってきた。同じようにラディスに質問し、本を見せた。それを覗き込む。

 そこにはxやらyやら√やら、とにかくアルファベットや記号がたくさん書いてあり、式も長い。

 数学のレベルは私の世界と大差ないようだ。

 ディック・・・どれだけ勉強しなかったのか。

 私は呆然と式を見つめていた。

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