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指令を受けた精霊姫〜他人に成り代わり学園に潜入します

作者: おかき
掲載日:2026/05/01

学園の門を前にして、私フィオレンツァ・ガストンは口をポカーンと開けていた。


目の前に見える集団は、一人の可愛らしい令嬢に令息達が侍り甘い言葉を掛け合っている……。


正直に言うならば、気持ち悪い集団である……。


令息の顔を確認していくと、その中に銀髪の青年が視界に入った。

冷たい表情しか見たことない美青年を見付けたのだが、その銀髪の青年は甘い言葉をさらりと吐き、甘く微笑んでいる。


(悪寒が!肌にプツプツが!)


私は両手で自分を抱きしめ、腕を必死に擦る。

気持ち悪いその人物こそ、私の婚約者だったからだ。




彼は、カルロス・バルテン公爵子息。

バルテン公爵家の次期当主。

私の生家のガストン侯爵家とは領地が隣同士であり、両家は親交を深めていた。


幼い頃に私は彼に一度だけ会った事がある。


その時は会話もなく、彼は直ぐにどこかに消えたので別に気にもとめなかった。


初対面から4年後、私が15歳の時にバルテン公爵家から婚約の釣書が届いた。

カルロス様は私の一歳上で、子息が学園に入る前に婚約を。との話だった。


私の両親が乗り気で勝手に了承の返事を出していた。


私の意思は?とは思うが、貴族の婚約なんてそんなものだと諦めた。

政略結婚なんてざらにあるのだから。


私の両親も政略結婚ではあるが、お互いを尊重し愛を育んで今では仲良し夫妻で有名である。

両親と同じように…。とは思うけど、それなりの夫妻になれたら良いな?くらいには考えてはいた。



いたのだけれど……。

(無理だよね?絶対、絶対に無理だよね?)


初顔合わせの今日。

目の前で一言も話さず、冷たい表情の彼と仲良くなんて無理!


しかし、会話を試みてはみる!


「来月からは学園が始まりますね。」


「ああ。」


「学科は貴族科でしょうか?」


「ああ」


(はい、終了です。無理です。)


私は会話する気もなくなり、出された美味しい紅茶とお菓子を堪能した。


(もう良いわよね……。)


「バルテン公爵子息様のお時間をこれ以上頂くのは心苦しいので、そろそろ退席させて頂きますわ。」


椅子から立ち上がり軽くカーテシーをし、くるりと振り向くと少しだけ早足で庭園を出た。


「お嬢?早くないですか?」


「シリルも見てたでしょう?あんな冷たい態度で顔合わせする人と一緒にいれないわよ!彼、私を一瞬睨んだのよ?絶対に私が嫌いなのよ。でも、嫌いならなぜ私に婚約を申し出るのよ!」


「お嬢は婚約者いないし、侯爵家の令嬢だし、断トツに容姿が整ってるからじゃない?バルテン公爵夫妻は、お嬢の容姿をベタ褒めだから息子を通じて義娘にでもしたかったのかもね!」


ニヤニヤしながら話すこの男は、私の二つ上で私付きの執事見習いだ。


「煩いわよ!見習い!」


「儚い容姿なのに、口が悪いよねー。見た目詐欺じゃん!」


シリルはケラケラ笑いながらも私を馬車まで案内し、私達は早々に公爵家を後にした。


侯爵家に帰ってくると、両親から顔合わせの様子を根掘り葉掘り聞かれたが……。


「上手くはいかないと思いますよ?」


そう一言だけ伝え、私専用の執務室へと入って行った。


執務室の机には、上質な紙で出来た封書が置かれていた。

その封書の蝋印を見ると、この国の蝋印がおされていた。

国の蝋印=国王陛下からの封書。

この封書は邸の者はシリル以外誰も知らない。両親にすら伝えてはいない。


(王家の影が届けているらしいけれど、我が家の警備は大丈夫なのかしら?)


そんな疑問が湧くが机からペーパーナイフを取り出し、封書の中から丁寧に書面を出して開き文字を追う。


「明日の夜会に陛下の側にて任務を行うわ。」


「了解!陛下の側なら男性か?」


「そうね……宰相様くらいの年齢かしら?」


「解った。なら、明日の昼食後すぐに王宮に向かう手はずをしとくわ。」


シリルは手をひらひらさせ、執務室から出て行った。


書面をもう一度読み、明日の自分の任務を確認する。


今日のカルロス様との顔合わせを、ふと思い出した。

(あんなに冷たい態度を取るのは、嫌々なのよね?きっと……。

この婚約はもしかして陛下が絡んでるのかしら?

まぁー、そうだとしても陛下に尋ねる事は出来ないし仕方ない!その言葉で諦めよう!)


机に封書をしまい、精霊術で鍵をかけた。



そう。私は精霊術が使える。

この国には、水、火、土、緑、空の五人の大精霊がいて、その大精霊が自分好みの人間に祝福を授け契約をする。

受け継ぐ家門は決まっておらず、大精霊が選ぶため人間から選ぶ事は出来ない。


五人の大精霊の一柱の水の大精霊が今の精霊王である。


ここ二百年くらいは大精霊が人と契約をした話はないが、契約がなくとも国に祝福を授けてくださっているので国が乱れる事もない。


民達は精霊を大切にし、自然豊かな国を保っている。

稀に精霊が見える者もいて、精霊の力を借りてかなり弱いが精霊術を扱う事が出来る。

枯れた花を咲かせたり、小さな怪我を治せたり。

出来る事が小さ過ぎるが、「精霊は存在する」その証明として授けるだけである。


私のように精霊術を簡単に扱える者は、この世界にはいない。


私フィオレンツァが精霊王である水の大精霊と契約して「精霊姫」となっているから。


「私って最強なのよね……。なのに、陛下に上手く扱き使われてる気がしなくもない……。まぁ良いけど。」



12歳の神殿での加護判定で、私は水の大精霊の加護がある事が判明。

神殿の地下の召喚の間で、水の大精霊を呼び契約を結んだ。


フィオレンツァと水の大精霊の容姿は少し似ていた。

水の大精霊は濃い青の長い髪をしていて、瞳はとても薄い青目。

フィオレンツァの髪も瞳も同じ色であった。


召喚の儀には陛下もいて、フィオレンツァの精霊術の訓練の成果を後に聞いた陛下が、私に色々と頼み事をしてくるのだ。


正直面倒ではあるけれど……。

悪者を見つける手助けをするので結果的には国のためになる。


フィオレンツァは水を体の周りに膜として張り巡らせ、なりたい人物に姿を変える事が出来る。


毎回陛下の近くに侍り、相手の言葉や魂の揺らぎで嘘や悪意を読みとるのがフィオレンツァの役割である。



今回頼まれた任務も終わり、陛下と一緒にお茶を頂く。

私の好物のマカロンを陛下が沢山用意してくれるのだ。


「フィー、今日も大義であった。」


「今日の人はかなりの悪者でしたね。女性の人身売買なんて許せません。」


フィオレンツァはプリプリ怒りながらも、マカロンをパクパク口に放り込む。


「精霊もかなり怒ってましたよ。

皆さんも見えたら良かったのですが、精霊達はあの男を殴ってましたから。

小さな精霊が「酷い!」「バカバカ!」ってポコポコ殴る姿は可愛らしかったのです。

精霊を怒らせたのですから、それなりの処罰をお願いしますね!」


「相わかった。厳しい処罰を言い渡すとしよう。」


フィオレンツァは陛下の返事を聞いて、ニッコリ微笑みマカロンを頬張った。


「ところで、フィーよ。わしの個人的でもあり、王家のためでもあるのたが。

頼みを聞いて貰いたいのだ。」


フィオレンツァはマカロンを食べる事は止めないが、顔だけは陛下に向けると首を傾げた。


「今、息子が学園に通っておる。フィーは来年の入学だったな。

その時に、息子とその側近をフィーの目で見て判断をしてもらいたいのだ。」


(息子って、王太子殿下でしょう?側近って、冷徹カルロスも側近じゃなかったかしら?)


「精霊が見える子爵令嬢が同じ学園におるのだが、報告によると婚約者を放置し息子はその子爵令嬢を側に置いているらしい。

息子を呼び話を聞いたが、精霊が見える者は希少だから守っている。そう言うのだ。

精霊が見える者を守るのは良い。だが、婚約者を蔑ろにする必要がないだろう?そう話しても、婚約者は勘違いから嫉妬しているだけだと聞く耳を持たぬ。」


はぁー。と、陛下の深いため息が漏れる。


「側近達も同じように婚約者に冷たいようだ。フィーはどうだ?カルロスは優しいか?」


「え?公爵子息様は優しさって持ち合わせてるの?公爵子息様は私との顔合わせはいつも不機嫌でブリザードを纏ってますから、冷たいも何も……冷たいが普通かな?」


興味が無いので、どうでも良い。


「婚約者を公爵子息と呼ぶ時点で関係は希薄か。

でだ。来年までに収束すれば良いが、続くようなら処罰の対象とする。子爵令嬢もだ。それと、息子達の婚約者を救って貰いたいのだ。」


殿下達の婚約者は、子爵令嬢が近すぎる距離にいる為注意をしたり礼儀作法を指摘したりしているらしい。

子爵令嬢が泣いて殿下に伝えるため、殿下達は婚約者を叱責する。

叱責された婚約者達は、自分達は悪くないと子爵令嬢を注意する……。

エンドレスである。


「解りました。私の好きにしますが、宜しいですか?」


「ああ、構わん。フィーが悪さをする事は無いのでな。」


私は入学と同時に寝たきりで学園に通えない、レオナ・カシュ子爵令嬢に成り代わり入学する事になる。

身分を数ヶ月借りる代わりに、カシュ子爵令嬢には精霊をつけ病を癒して貰う。




で、私フィオレンツァは、レオナ・カシュ子爵令嬢として学園の門に立っていた訳なのです。




「またやってるよ。」

「いい加減にしてもらいたいよ。」

「婚約者様が可哀想ですわ。」


周りから耳に入る会話を聞く限り、目の前の集団は嫌われていると判明。


フィオレンツァは心のメモに書き記す。


「またこんな場所で、何をなさっているのですか。」


私の背後から凛とした声が放たれた。


振り返ると、そこにいたのは王太子殿下の婚約者であるアドリアナ・グスタ公爵令嬢だった。


それからは門の前で騒ぎになるが、周りの生徒は気にせず通り過ぎて行く。

気にするのは、新入生くらいだ。


私も放置してその場を離れようとすると、冷徹銀髪公爵子息様が門から入る生徒をチラチラ確認していた。


不思議に思ったが、これも放置。


私は講堂に入り、入学式を無事に迎えたのだ。


それから学園で過ごしていると、王太子殿下一行と婚約者の令嬢一行の対立が凄いことに気がつく。


あっちでも、こっちでも言い争っている。

まぁー、婚約者の令嬢の味方をする人が多いのは良かった。


しかし、嫁入り前の令嬢が正論とはいえ言い争うのは印象的に良くはない。

私は何とかしようと、王太子殿下一行と婚約者の令嬢一行に数日精霊に張り付いて貰った。


精霊からお互いの情報を聞き纏めた結果。王太子殿下一行が悪い!と結論を出した。



今日は令嬢達は学園の特別室でお茶会をしている。と、精霊が教えてくれた。

精霊の案内で特別室の扉の前に来た。


ノックをするとマリア様が扉を開けてくれた。


「貴女は?」


「私は陛下から王太子殿下一行と婚約者の令嬢一行を処罰する差配を賜っている者ですわ。」


そう伝えると、部屋の中からガタガタと椅子が倒れる音が鳴り響く。


扉をガッシリと掴み私を睨みつけるように見つめるのは、殿下の婚約者のアドリアナ様。


「貴女、陛下のお名を出したからには嘘は通じないわよ。」


「承知していますわ。ですが、私の話を聞いた方が貴女方には有利に働きますよ?」


アドリアナ様の目を見て本音を語る。

アドリアナ様は視線を外す事はないが、頭の中はフル回転していると想像がつく。


「解りました。お入りなさい。」


部屋に入ると、サリー様もいた。

アドリアナ様以外は全員侯爵令嬢。


「話を聞きます。お座りなさい。」


「その前に、私の本当の姿に戻ります。」


私は精霊術を解いた。濃い青髪に薄い青目……儚い容姿の美少女の登場である。


「貴女、もしかしてカルロス様の婚約者のフィオレンツァ様?」


サリーが驚いた声で私を指さした。


「はい。あの冷徹銀髪公爵子息様の婚約者のフィオレンツァ・ガストンと申します。」


カーテシーをし、席に座る。


「変装をして、王太子殿下一行と婚約者様達を見極めていましたの。私は陛下に頼まれて、ずっと様子を見ていました。」


ずっと見ていた……。そう言われて、アドリアナ様達は苦い顔をなさった。


(悔しいと思う。未来の王太子妃であり側近の妻になる者達。

高位貴族令嬢であるのに、子爵令嬢を優勢し蔑ろにされるのは絶対に悔しく悲しいはず。)


「子爵令嬢は精霊が見える為、殿下がお守りしているのは事実です。」 


三人にその事実を伝えると、顔色を悪くした。


「だからと言って、ちょっと精霊が見えるだけの令嬢を優先する必要はありません。ましてや、婚約者を放置し暴言を言って良い理由にはならないのです。」


「貴女!ちょっと精霊が見えるだけって……口が過ぎると、貴女が罰せられますわよ!」


アドリアナが慌てて私に助言をして来た。


(ほらね!本当に優しい方よね。)


「私からすれば、「ちょっと」で十分ですのよ。」

そう伝えると、私は三人に精霊が見えるように術を放つ。


水色のふわふわした髪の精霊が三体姿を現した。


「この子達は貴女方を見張るためにつけていた精霊です。この子達は貴女方の優しさを知っています。我慢をし、泣いていた姿も知っています。優しい貴女方の側にいたいようですよ?

この意味が解りますか?」


「「「「……!!!!」」」」


三人は目を見開いて顔を青褪めさせた。


サリー様がまた私に指をさし、

「ま、まさか……!」


その先は口にする事は許されない。

私はサリー様の指を、ペシっと軽く叩き落とし


「二回目です。指さしは駄目ですよ?」


笑って注意したが、サリー様の顔色が真っ白になってしまった。


「想像通りですが、他言無用でお願いします。私の秘密は陛下と宰相に私付きの執事しか知らないので。」


ニッコリ笑顔で伝えると、三人は首がもげそうな勢いでコクコク頷いた。


「さて。何故私が貴女方の味方になるかと話をする前に、質問があります。

貴女方は婚約者を好いていますか?勿論異性としてです。子爵令嬢に嫉妬していますか?」


「嫉妬ですか?する訳がありません。婚約者として注意しただけです。

情はあっても、好意は微塵もありませんわ。

それに、殿下達は理解出来ておりません。

私達は恥ずかしながら、家族からは皆愛されております。そんな私達を蔑ろにすれば、私達の家が動きます。私達の家門全てが殿下の支持を取り消したら、殿下達は破滅しか無いのです。

もし家が動けば……。もしかしたら逆に陛下に罰せられる可能性もあり得ます。

それだけは、絶対に避けなければなりません。私達はただ、家を守りたかっただけですわ。」


はっきりともの申すアドリアナ様に嘘は見られない。


「殿下達一行が何故あんなに子爵令嬢に侍るのかをお伝えします。」


フィオレンツァの次の言葉を三人は聞き漏らさないように、意識をフィオレンツァに向けた。


「簡単な話です。貴女方の嫉妬する姿を見て、愛されてる実感が欲しかったようですわよ?」


…………。


「「「はぁー?」」」


(でしょうね。)


フィオレンツァは三人に精霊が見て、聞いた事を伝えた。


最初は精霊を見る希少な存在の子爵令嬢を守る為に側にいた。


でも、子爵令嬢と行動を一緒にしていると、婚約者が注意をしてくる。しかも、子爵令嬢にさえ注意が向く。

自分達が構って貰えないから嫉妬していると、勘違いからの今に至る。

であった……。


(阿呆らしい……。)


「何だかバカバカしいですわね……。」


気が抜けたのか、アドリアナがため息と一緒にポツリと呟いた。


「あの……。カルロス様もそう思ってますの?」


サリーがフィオレンツァにおずおずと質問をする。


「冷徹銀髪公爵子息様ですか?違うと思いますよ?私が学園でこの姿でいた事はありませんし、連絡など一切しておりませんから。私が学園にいないのも知らないのではないでしょうか。

子爵令嬢と宜しくやってますので、私の事に気が行かないのでしょうね。」


フィオレンツァの淡々とした喋りで、カルロス様に全く興味がない事を、三人は理解出来てしまった。


「これからの話をしましょう。貴女方は家を守りたい。殿下達との婚約もその一つ。良い嫁ぎ先であれば、家の名も上がる。ですが、婚約者が愚かならば名は下がる。

貴女方が守りたいのが家であるならば、もう子爵令嬢や婚約者に構うのは止めなさい。無駄な時間を過ごしては意味がありません。その時間を私の指導を受けて、精霊使いになる訓練に使って欲しいのです。」


「精霊使い……?私達に出来ますでしょうか?フィオレンツァ様とは違い、私達から精霊に契約を乞うのですよね……。」


「そうです。今では絶対にあり得ない事ですが、私の精霊達が貴女方をとても気に入っています。

遥か昔は精霊使いはいました。ですが、無理矢理契約を結び、精霊を酷使したため大精霊がその仕組みを壊したのです。

ですが、下位の精霊は自分からは契約出来ない。

精霊王からは許可を得ています。貴女方を精霊使いにして良いと。」


フィオレンツァの話を聞いて、四人は互いを見て頷いた。


「フィオレンツァ様のお話をお受けします。どうぞ、宜しくお願いします。」



その日から王太子殿下一行の婚約者達は構うのを止めた。


子爵令嬢にどれだけ甘く囁こうが、距離が近かろうが完全に無視して挨拶をすると過ぎ去るのだ。


婚約者達とはクラスが違うため、休憩時間や昼食時間に王太子殿下一行が令嬢達のクラスに行っても、会うことは出来なかった。


そもそも彼女達はそのクラスには既に在籍していない。


学園に精霊使いとして指導する旨をフィオレンツァが陛下に伝え、特別クラスを用意してもらっていた。

婚約者達はフィオレンツァと一緒に修行に励んでいるのだから。


朝、門で顔を合わせる以外に婚約者との接点が断たれた殿下達は焦り始めた。


嫉妬どころか、完全に無視だ……。


「オーネスト殿下……。もしかして、やり過ぎたのでしょうか……。」

子犬のようにしょんぼりするのは、侯爵家の嫡男のカーソンでサリーの婚約者。


「私達は浮気者だと噂が広まっていますしね……。」

同じくしょんぼりするのは、マリア様の婚約者のハルトである。


カーソンとハルトは落ち込んでいた。


カルロスは落ち込む以前の問題であった。

婚約者のフィオレンツァを学園で見つけられないまま今に至るのだから。


入学の日、門にいたのは恋焦がれるフィオレンツァを出迎える為であった。

門をチラチラ確認していたのは、フィオレンツァに会ったら愛を乞う為だった。


え?!フィオレンツァが好きなの?


そう思われるのは仕方がない事。

冷たい態度と会話の無いお茶会……。

フィオレンツァが季節の手紙を送ろうと返事の一つも寄越さない婚約者が……。


フィオレンツァを好き?である……。


そもそも、婚約をしたいと言い出したのはカルロスで、公爵夫妻もフィオレンツァを気に入っていたので話が纏ったのだ。

カルロスの恋心で結ばれた婚約であった。


カルロスはフィオレンツァを前にすると、極度の緊張でどうして良いか解らず、あの状態になってしまったのだ。


フィオレンツァと話を沢山したい。

愛の言葉を伝えたい。

上手く振る舞えない自分が歯痒かった。


子爵令嬢に何となく話をしたら、練習相手になると言ってくれたので練習として甘い言葉を囁いていただけである。


カルロスはフィオレンツァの事しか頭にないので、自分の子爵令嬢に振る舞う言動が浮気や婚約者を蔑ろにしている行為とは、全く気が付いていない。



一番たちが悪いのが、子爵令嬢であるネリーだった。

確かに彼女は何故か解らないが妖精が見える。

神殿での加護判定の時に精霊が見え、枯れた花を蘇らせたのだ。


判定の日からずっと妖精は見えるらしいが、精霊からの与えられるマナを使い力を行使する事は出来ずにいた。


ネリーに対し、「何故か解らないが……。」

フィオレンツァがそう思うのは、子爵令嬢ネリーの腹黒さを知っているからだった。

彼女の魂は黒に近い灰色になりつつある。

穢れた魂の持ち主に精霊がマナを与える筈がない。

ネリーには何かあるはず……。

そう考えるが、ネリーに付いている精霊から聞かされる話は、フィオレンツァには理解出来なかった。


殿下達は婚約者を探すが、見つけられないまま卒業式を迎えた。

殿下達は二学年の為、三学年の卒業式の催しを全て差配しなければならず毎日忙しく動いていた。


いつもなら婚約者達が支えてくれていたが、今は誰もいない……。

自分達でやり遂げ、婚約者達に許しを乞わなければならない。


忙しない中、子爵令嬢に構う事も無くなり殿下達は本来の能力を開花させ始めた。


卒業式も卒業を祝う夜会も完璧に仕上げていた。


遅過ぎる開花ではあるが、フィオレンツァから報告を受けた陛下は少しだけ安堵した。

陛下とて親である。息子を処罰するのを躊躇う内心を持つ事は仕方のない事。

ただし、二度目は無く、即切り捨てる判断をなさるだろう。


アドリアナ様、サリー様、マリア様と共に卒業の祝う夜会に参加をする。


婚約者であるアドリアナ達が会場入りをすると、会場から歓声が上がる。


アドリアナ達は生徒にとても好かれているのが解る。


アドリアナ達の後ろの人影に皆の視線が移る。

初めて見る美しい令嬢に視線が集まる。


四人の令嬢の前に走り込んで来たのは、四人の婚約者達である。


「アドリアナ!すまなかった。私達の愚かな行為で貴女を傷付てしまった。許して欲しい。」

王族でありながら、殿下は頭を下げられた。

それに習い、カルロス達も頭を下げた。


「殿下!頭を下げないで下さいませ!」


アドリアナ様が慌てて殿下の肩に手を添えた。

殿下は顔を上げると、本当に反省しているのかしょんぼりとした顔をしていた。


カーソンもハルトも同じく捨てられた子犬状態だ。


そんな中、カルロスだけは顔面蒼白である。

フィオレンツァがカルロスを完全無視だからだ。

サリーもマリアも婚約者を慰めている。

だが、フィオレンツァはただ凛と立ち感情のない表情で退屈そうに会場を眺めているからだ。


カルロスは震える足を必死に動かし、勇気を出してフィオレンツァの側に立った。


フィオレンツァがカルロスを見あげると、カルロスの心臓がバクバク跳ね上がる。

頭が真っ白になり、言葉を探せなくなる。


(駄目だ……。無理だ!可愛すぎるし、美し過ぎる!大好きだ!皆がフィーを見てるじゃないか!早く隠さないと!)


心の中は大忙しで、フィオレンツァへの愛の言葉で溢れかえっていた。


フィオレンツァはカルロスの心を読んでいた。でも簡単に許すつもりは無い。

フィオレンツァはクスリと笑うとカルロスを見上げた。


「カルロス様は私が好きなのですか?

違いますよね。子爵令嬢のネリー様を好いているのでしょう?

殿下達もそうですよね。あんなに人目を気にせず、愛を囁いていたのですから、ネリー様を皆様は好いていたのでしょう?

私達をお飾りの婚約者と思うからこそ、私達の前で堂々と愛するネリー様を優先なさった。そうでなければ、あの様な行動はなさりませんもの。」


可愛らしい口から放たれる言葉は、殿下達とカルロスの胸にグサリと刺さった。


「いや……ちがっ」


「大丈夫ですわ。殿下。私達はお飾りの婚約者でも大丈夫なのですから。」

アドリアナの言葉に、サリーとマリアも頷いた。


優しく慰めてくれていた婚約者から、残酷な言葉が紡がれる。


「婚約者として殿下の横には立ちますが、それは私達の役目として務めます。殿下は愛するネリー様を側室にするなりして、愛を育まれたら宜しいですわ。精霊が見える令嬢を愛するのは仕方ない事ですもの。

あ!でも、ネリー様に四人の夫は辛いでしょうか?」


アドリアナの言葉に、会場中がピシリと固まった。


そんな中、こっそり隠れていたネリーが前に出て来た。


ここ数ヶ月は殿下達から距離を置かれ、捨てられ令嬢と侮辱の言葉を散々言われて来たのだ。

今夜の夜会も居場所がなく、ひっそりと隠れていた。


だが、自分の名前が呼ばれ殿下達が自分を好いていると話が聞こえたのだ。

これはチャンス!

そう考え、ネリーは人を押し分けフィオレンツァの近くに足を運んだ。


ネリーはフィオレンツァの後ろに立つと、


「私の名が呼ばれたのですが……。」


申し訳なさそうに、怯えたようにフィオレンツァに声をかけた。


後ろから声がかかり振り向くとネリー子爵令嬢がとても申し訳なさそうにしていた。


フィオレンツァはネリーがそんな殊勝な考えを持つ者ではないと、知っている。


「貴女は?」


そう。フィオレンツァとしてネリーと会うのは初めてなのだ。

見たこともない令嬢から声をかけられ、フィオレンツァは態と不快な声で答えた。


ネリーは、あれ?とは思うが、気にせず「ネリー・ポートマンです……。」

と、声を震わせ怯えたように答えた。


「そう。」


フィオレンツァは一言返事をすると、ネリーを無視してカルロスと殿下達に視線を戻した。

殿下達もカルロスも、ネリーが現れた事で顔面蒼白になる。


アドリアナの言葉に傷付いたが、自業自得であるのは殿下達も理解している。

全てを話し、許しを乞うために今日まで頑張って来たのだ。

だが、話の張本人が出てきてしまった……。


フィオレンツァの態度に、ネリーが声を荒げた。


「ちょっと!私は精霊が見えるのよ!そんな態度をとって許されると思っているの?」


ネリーがフィオレンツァに言い放つが、フィオレンツァは一切反応しない……。


(何なのよ!私はヒロインなのよ?殿下や側近の方々とハーレムを作るヒロインなんだから!

この女、ムカつくわね。わからせてやらないとね。)


「貴女、私にそんな態度をとって良いと思っているの?私は精霊が見えるし、水の大精霊と契約するのよ?そんな私に不躾な態度をするなんてねー。」


ニヤリと口端を上げ、ネリーがフィオレンツァへと言葉を告げた。


会場はまた固まる。

水の大精霊と契約する者……。そうネリーが口にしたのだ。

人の口からそれを伝えてはならない。

ネリーは知らずにいたのか……。


会場は静寂に包まれるが、フィオレンツァがネリーへと振り向くと、コテンと首を傾げた。


「水の大精霊様と?貴女が?」


「そ、そうよ!そうなるように決まっているもの!」


鼻息荒くネリーが答えた瞬間、フィオレンツァの周りに水の波が現れた。


水は天井高く上がると、フィオレンツァの隣に落ち弾けた。

青い光の中から現れたのは、フィオレンツァに似た背の高い精霊だった。


殿下達やアドリアナ達が膝を突き頭を下げると、生徒達も保護者である貴族達も次々と膝を折る。



【お前と契約をする事はない。我はフィオレンツァと契約しておるのでな】


表情のない美しい顔立ちの精霊から放たれた一言で、頭を下げたままだがフィオレンツァが大精霊の契約者だと会場の者は知った。


「なっ!何でよ!精霊王はヒロインの私と契約する事が決まっていたのよっ!!

早く私と契約し直しなさいっ!」


ネリーが真っ赤な顔で、精霊王である水の大精霊へと指をさした。


フィオレンツァはネリーに近付くと、精霊王を指さす手をパシリと叩き落とした。


「指さすのは駄目ですよ。」


一言伝えると、精霊王の側に戻った。


【本来はお前と契約となるはずだった。だが、お前は精霊を大事にせぬ。魂も穢れ始めた。我は美しい魂を好いておる。我はフィオレンツァと契約する事にしたのだ】


「嘘……よ……。」

ポツリと呟くと、ネリーは表情を無くし床に崩れた。


遅れて来た陛下が顔面蒼白で精霊王の前で膝を突いた。


【そこの娘三人は精霊使いである。大切にせよ】


陛下にそう告げると、精霊王は消えた。


ネリーは騎士団に連れて行かれ、牢に入れられ調査される。


騒がしい卒業祝いの夜会はお開きとなった。




殿下達やアドリアナ達とは、あの夜会から会えていない。


ただ私の目の前には、締まりのない顔をしたカルロスがいる。

フィオレンツァをただ、じっと眺めているのだ。

フィオレンツァは引き攣りそうになる顔を必死に隠した。


その様子を遠くから執事のシリルがニヤニヤしながら眺めている。


(むかつくシリルのデザートは精霊に食べてもらうから!)



あの夜会の日、カルロスからは色々と話を聞かされた。

フィオレンツァが好き過ぎて、あの様な状態になる事を。

ネリーはフィオレンツァに愛を伝える練習相手であった事を全て正直に伝えた。


「カルロス様の言い分は解りました。私は気にしていません。だって貴方に興味は無かったので。」


と、カルロスが正直に話をしたので、フィオレンツァも正直に話をした。


それを聞いたカルロスは、フィオレンツァに泣いて謝罪をし許しを乞うたのだ。


フィオレンツァは泣いて縋るカルロスが少し可哀想になり、許しはした。


「今までの事は気にしていませんので、泣かないで下さい。これからちゃんと婚約者としてお互い努力をしましょう。

そうですね……。初顔合わせからやり直しましょうか。

またあの様な冷たい態度をされたら、直ぐに婚約は破棄しますので。」


フィオレンツァの許しを得てからのカルロスは、学園で見た甘い顔で微笑み愛を伝える。

ただ、学園で耳にした本に出て来る様な言葉ではなく、短いが「好きだ」「可愛い」「愛している」

ちゃんと自分がその時に感じた言葉を伝えたのだ。

気持ちの込もった言葉は、フィオレンツァの悪寒も肌のプツプツも出る事は無かった。


少しずつ距離が近付く頃、ネリーの調査が終わりフィオレンツァはカルロスと一緒に陛下に呼ばれた。


陛下の執務室には他にも呼ばれた者がいた。

オーネスト殿下の隣にはアドリアナが。

カーソンの隣にサリーが。

ハルトの隣にマリアが座っていた。


「フィーよ。よく来たな。カルロスもな。」


二人は皆に軽く頭を下げソファーに並んで座る。


「例の令嬢の調査が済んだ。あの者の魂はこの世界ではない世界から来たようだ。故に予知が出来たのだろうと結論付けた。」


陛下は渋い顔をしながら皆に伝える。


「生まれ変わりですか?違う世界から魂が来るなんて……初めて聞きましたわ。

王子妃教育でもありませんでしたし……。」


「いや……我が国ではないが過去に隣国で転生者と名乗る者が現れた。予知を使い国の危機を救い続けたと話はあるのだ。」


フィオレンツァは精霊から聞くネリーの話が理解出来なかった理由を知った。


(世界が違うなら、あの人の考えは理解出来ない訳よね。)


「令嬢は今は落ち着いておる。牢に入れられ冷静になれたのであろうな。

処罰は、辺境の修道院送りになる。」


ネリーの処罰を聞き、皆は少しだけホッとした。

精霊王の名を出したのだから、命が消えても文句は言えなかった。それが修道院送りで済んだ事に安堵したのだ。

知った顔の者の命が消えるのは、やはり後味が悪い。


「でだ。全員に聞く。この婚約をどうしたい?アドリアナ嬢達は精霊使い。婚約が無くなろうと傷者と蔑まれる事もなかろう。」


陛下が確認の為に全員に尋ねた。


「そうですね。この婚約は白紙になっても正直構わないと思っています。」


アドリアナの言葉を聞き、オーネスト殿下が絶望の表情に変わる。


アドリアナは殿下の表情を見てクスリと笑う。


「ですが、そんな話をすると殿下はこの世の終わりの表情をなさいます。私も情はありましたので、殿下次第で情が愛情に変わればこのまま婚約者でいれるかと。」


「アドリアナっ!」


殿下はアドリアナに抱きつき何度も謝罪をする。アドリアナはため息をつくが、その顔はほんの少し嬉しそうにしていた。


カーソンとハルトも婚約者に必死に謝り、愛を伝え許しを乞うていた。


サリーもマリアも二人を許していた。

でも、蔑ろにされていた日々は辛く悲しかっのは事実であった。

二人は時折その事を口にし、チクチク意地悪をしているらしい。


そして、カルロスとフィオレンツァだが。


「フィー。自分の不甲斐なさで貴女にとても失礼な事をしてきました。

私は初めて会った幼い頃からフィーを愛しています。どうか、婚約を続けて下さい。」


カルロスは真っ直ぐな視線でフィオレンツァに愛を乞うた。


「私達はこれからです。私は精霊王との契約もあり貴方だけに構う事も出来ません。貴方だけを支える事も出来ません。

私は国を精霊王とともに支える役目があります。それでも良いのなら、継続を受け入れますわ。」


フィオレンツァの言葉にカルロスは頷き、右手を掬い上げると口付けを落とした。



「では、全員婚約継続とする。」


陛下はとても嬉しそうに宣言なされた。



残りの学園生活は以前とは真逆のものとなった。

殿下一行と令嬢一行は言い争う事はなく、周りがドン引きする程に甘く優しく令嬢達に接していた。


フィオレンツァがある日うっかり以前呼んでいた呼び名を、カルロス本人に「冷徹銀髪公爵子息」

と、そう呼んでしまった。


カルロスは顔面蒼白で今にも気を失いそうになり、フィオレンツァが慌てて謝罪をしてカルロスの意識を戻そうとしていた。


そんなドタバタを見たシリルが大爆笑し、カルロスの怒りを買っていた。


シリルとカルロスは喧嘩もするが、以外と仲良くやれるのでは?

フィオレンツァだけが、そう思っていた。


精霊王である水の大精霊と契約をする者は国を巡り枯れた土地の再生をしたり、他国から外交に訪れる者の腹の中を探る務めがある。


フィオレンツァはカルロスに支えられ、陛下から届く任務をこなして行った。


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