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『処置なし。』

作者: おぷ。

「誰とでもって訳じゃないですよ」

 彼女はそんな風に強弁してみせた。

「例えば二人でカラオケに行くとして、この人とだと楽しいけど、あの人とはイマイチ盛り上がらないなあとかってあるじゃないですか」

 そうね、あるわね、とあたしは頷いてあげる。

 すると彼女は静かに微笑んで、言い募ったりする。

「それとおんなじですよ。この人とセックスするのは楽しそうだなって思ったら、それでいい訳ですよ」

 ああそう。あんたにとってセックスってそういうものなんだ。

「そうですよ。だってちっとも特別なものじゃないでしょう」

 うーん、どうかしら。結構、特別だと思ってる人はいるんじゃないの。

「そういう考え方はあると思いますよ、私だって。だから私、いつも相手には自分のスタンスを予め説明しますもん」

 それでみんな納得するもの?

「そこまで責任は持てませんけど。でもそう説明されておいて、それでもヤるんだったら、了解したと見做されるべきじゃありません?」

 あんたの言うことは正しいと思うよ。けど相手についてはもう少し慎重になるべきだったんじゃないの。

 溜息混じりに言うと、そこで漸く彼女は肩を竦める。

「んー、それは反省しないでもないんです」

 別に童貞切るのが生甲斐ってクチでもないんでしょうに。

「まあなんつーか、情にほだされたっていうかですね」

 あれは面倒臭いタイプだって、わかりそうなもんじゃない。

「やーでも、好きだって言うから……」

 それじゃやっぱり、好きだって言われたら誰でもいいんじゃないかって話になるでしょうよ。

「うーん、そういう傾向も否定出来ないかもしれないのかなあ」

 それ認めちゃったら、処置なしだわ。

 あたしは大袈裟にお手上げのポーズなんか取る羽目になって。

 なんだかなあ、とか思う訳よ。


 別にあたしはサークルのお目付け役ってんでもないんだけど。

 片端からオトコ喰ってる新参者がいる、なんてウワサがあちこちから聞こえてくるくらいの位置にはいたりする。

 で、ちょっと思い込みの激しいタイプの可愛いバカが、うっかりハマって問題行動を起こしてるーなんてことになったら、ちょっとなんとかしてよ、って言われちゃったりもするって訳。

 頼まれたら無下にも断れないのがあたしのイイトコよ。

 で、仕方なくタイマンで飲みに誘ってみたはいいけど、別にそこまでは破綻してないっていうのが、彼女の厄介なところみたい。筋は通ってんのよ。ちょっとオカシイだけで。

「オカシイって、ひどいなあ」

 いやあんたはオカシイのよ。それは自覚しなさいよ。少なくとも、あたしの好みじゃないわ。

「でも嫌いじゃないでしょ?」

 バカじゃないの。

「寝てみます?」

 ミイラ取りがミイラじゃないんだから。あたしは男女のそういうのに今更興味はないわよ。

「へんなの」


 可愛く笑ったって、ダメなのよ。

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