第七十七章 東京の光
十二月十五日。東京。
五つの座標の最初の地点。皇居。
直人は一人で皇居外苑を歩いた。真琴は別行動で、ハートリー教授とのビデオ会議に参加している。
二重橋の前。十月に真壁と話した場所だ。
直人は橋を見つめた。橋の向こうに、宮殿の屋根がかすかに見える。
第一の封印。鏡。国家が自らを照らすための光学装置。満月の夜に皇居の石垣が光を発する——その仕掛けは、もう確認した。
だが今、直人が思うのは光のことではなかった。
皇居は——この国の中心だ。象徴の住まう場所。だが皇居の中には、一般の国民は入れない。見えるが、入れない。そこにあるが、触れられない。
暗号の最初の封印が皇居に仕込まれたのは——その距離感そのものを表現するためかもしれない。
国家の象徴は、見えるが触れられない。だが——光は届く。石垣の光は、堀の外まで届いた。直人はそれを見た。
象徴は、光として届く。直接触れることはできなくても、光は届く。
直人は堀の水面を見つめた。冬の水は冷たく澄んでいる。石垣が水面に映っている。逆さの城壁。
反射。鏡。照らすもの。
「鏡が照らすのは——自分自身だ」
直人は呟いた。
暗号は国家を照らす鏡だった。だが同時に——暗号を解読した人間自身を照らす鏡でもあった。直人は暗号を通じて、自分自身を見つめることになった。修復士としての自分。過去に生きてきた自分。そして——未来に何かを渡そうとしている自分。
ポケットのスマートフォンが震えた。早川からのメッセージ。
『先輩。大変です。ニュースを見てください。』
直人はニュースアプリを開いた。
速報。
「首里城地下出土の印章、政府が文化財保護法に基づく緊急管理を決定。学術調査は一時中断。」




