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第七十六章 京都の沈黙  

十二月十一日。京都。

 東寺の五重塔を見上げた。

 第一部で確認した四番目の封印。第三層の軒裏に隠された刻印。観光写真から発見した、「見上げる者のみが見出す」封印。

 今回は刻印を探さなかった。ただ、塔を見上げた。

 五層の屋根が、冬の空に向かって聳えている。千二百年前に建てられ、何度も焼失し、何度も再建された塔。首里城と同じだ。焼けて、建て直す。焼けて、建て直す。

 京都御所にも行った。紫宸殿の南庭。十月二十三日の夜に、真琴が五つの星を見た場所。

 昼間の南庭は、観光客でにぎわっていた。左近の桜は葉をすべて落とし、枝だけが空に伸びている。

 直人と真琴は南庭の砂利の上に立ち、空を見上げた。昼の空には星は見えない。だが、星はそこにある。

「見えないけれど、在る」真琴が言った。

「空白と同じだ。何も書かれていないけれど、意味が在る」

 京都では、もう一人の声を聞いた。

 京都府立資料館で、直人が第一部で発見した明治元年の覚書——更新派と維持派の対立を記録した文書。その文書を書いた人物の子孫が、京都市内に住んでいることが分かった。三条冬美の紹介だった。

 高瀬川沿いの古い町家。当主は七十代の女性で、表具師の家系だった。

「うちは代々、掛け軸や屏風の表装を生業にしております。明治の頃の先祖は——宮中の文書の表装も手がけておりました。あの覚書を書いたのは、先祖の弟子でしょう。うちには——弟子たちの習作がいくつか残っています」

 直人は習作を見せてもらった。和紙に墨で書かれた文字の練習。表具師の弟子が、裏打ちの技術を磨くために書いた。

 その中に——一枚だけ、異質な紙があった。

「これは——二重和紙だ」

 直人の手が震えた。楮紙の下に、もう一層の紙がある。雁皮紙。

「先生。この紙は——」

「ああ、それは変わった紙ですね。うちの先祖が試作した二重漉きの紙だと、祖母が申しておりました」

「試作——」

「ええ。二枚の紙を一枚に漉き合わせる技法。実用にはならんかったようですが、面白い技術だと」

 直人は紙を光に透かした。繊維の操作は——ない。これは暗号ではなく、二重和紙の製造技術そのものの試作品だった。

 だがこれは——重要な発見だった。二重和紙の製造技術が、京都の表具師の工房で開発されたことを示している。設計者は、この工房の技術を使って暗号の和紙を製作した。

「この紙を——お借りすることはできますか。研究のために」

「どうぞ。うちには必要のないものですから。——でも、大切に扱ってくださいね」

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