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第七十四章 再巡礼  

十二月五日。

 直人と真琴は東京駅にいた。

 五つの座標を巡る二度目の旅。第一部では暗号の物証を探した。今回は——声を聞く。

 最初の目的地は伊勢だった。

 新幹線の車窓から、冬の富士山が見えた。雪を被った山頂が、快晴の空に白く輝いている。

「富士山——」真琴が呟いた。「あの山の地下にも、行きましたね」

「歌を見つけた。『未だ成らぬ国の器を抱きしめて児らに渡さむ富士の白雪』」

「あの歌の声を——今、どう聞きますか」

 直人は窓の外の富士山を見つめた。

「あの歌を見つけたとき、俺は設計者の意図を読もうとしていた。暗号の構造の一部として。でも今は——ただの歌として聞こえる。子供に何かを渡したいという、一人の人間の気持ち。国家とか暗号とか関係なく——親が子に感じる、切実な想い」

「普通の感情」

「ああ。暗号の設計者は天才かもしれないが、同時に——普通の人間でもあった。子供を想う親だった。その普通の感情が、百五十年後の俺たちに届いている」

 伊勢に着いたのは昼過ぎだった。

 二人は内宮を参拝した。暗号の座標を辿るのではなく、一般の参拝者として。

 参道の砂利を踏む音。五十鈴川のせせらぎ。杉の巨木の間を吹き抜ける風。

 直人は正宮の前で手を合わせた。何を祈ったのかは、自分でも分からなかった。

 参拝の後、式年遷宮の御用材の貯木場を訪ねた。前回、二重円の刻印を発見した場所だ。

 今回は刻印を探さなかった。代わりに——貯木場の管理人に話を聞いた。

 管理人は六十代の男性で、三十年間この仕事をしている。

「遷宮はね、二十年に一度でしょう。でも準備は何十年もかけるんです。木を育てるのに二百年。二百年前に植えた木を、今の遷宮で使う。今植えた木は、二百年後の遷宮で使われる」

「二百年後——」

「自分が生きとる間には使われん木を、植えるんです。それが遷宮の仕事。自分のためやない。まだ生まれてない人間のために、木を植える」

 直人はメモを取った。管理人の言葉を、一字一句。

 自分のためではない。まだ生まれていない人間のために。

 それは——暗号の設計者の思想と、完全に重なっていた。

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