第八十三章 逮捕
一月二十二日。
その日の朝、直人のスマートフォンに見知らぬ番号から電話が入った。
「鷺宮直人さんですか。弁護士の山崎と申します。真壁透さんの弁護を担当しております」
直人の血の気が引いた。
「真壁さんが——」
「昨日、国家公務員法違反の容疑で逮捕されました。秘密漏洩の疑いです」
真壁が逮捕された。
直人は受話器を握りしめた。
「具体的な容疑は」
「内閣情報調査室在職中に、業務上知り得た秘密を第三者に漏洩した疑いです。——鷺宮さん、率直に申し上げます。真壁さんは逮捕前に、弁護人として私を指名し、一つだけ伝言を託しています」
「何ですか」
「『USBメモリのデータは消すな。あれは証拠だ。——そして、空白を書け』」
電話を切った後、直人は修復台の前に座ったまま動けなかった。
真壁透。維持派の末裔。内調の分析官。暗号を封じる側にいた人間が、暗号を守るために——自分の自由を差し出した。
USBメモリ。あの夜、バーのカウンターで渡されたメモリ。内調の全ファイルが入っている。機密漏洩の物証そのものだ。
真壁は覚悟していた。逮捕されることを。それでもデータを渡した。
直人は真琴に電話した。
「真壁さんが逮捕された」
電話の向こうで、真琴の息が止まった。
「——秘密漏洩で」
「ああ。USBメモリのデータ。あれが証拠だ」
「直人さん。USBメモリは——今どこに」
「シェアオフィスの金庫の中だ」
「データのコピーは」
「早川が分散バックアップを取っている。六箇所に」
「なら——原本のUSBメモリを、証拠として提出すべきかもしれません」
「提出? 誰に」
「真壁さんの弁護士に。裁判になった場合、真壁さんの行為が正当だったことを証明するには——USBメモリの内容が、国家的に重要な歴史的発見に関わるものであったことを示す必要があります」
「だが、USBメモリを弁護士に渡せば、内容が裁判で公開される可能性がある。内調の全ファイルが——」
「公開されるべきです」
真琴の声は、揺らがなかった。
「真壁さんは、空白を守るために自分を犠牲にした。その行為を無駄にしないためには——真壁さんが守ろうとした情報を、世に出す必要があります。裁判という公の場で」
直人は長い間、黙っていた。
「——分かった。弁護士に連絡する」




