街へ
アルフィを助けてからさらに数日後、幼い頃の記憶を頼りに近くの街へたどり着いた。
人だった頃は幾つか村を経由したが、吸血鬼となった俺とアルフィに、安全な寝床や食料の補給は必要ない。まだ体力の戻り切っていないアルフィに合わせて何度か休息を取ったものの、人間の頃よりかなり早く着いた。
もちろん俺たちは吸血鬼なので、堂々と門から入るわけにはいかない。
幸いそこまで大きな街ではなく、城壁の高さも今の俺なら越えられる程度だった。
「どうする?自分で越えれるか?」
「(フルフル)」
「分かった、俺が抱えよう。掴まってくれ」
あれから何度か魔物や獣の血で食事をし、俺からの吸血も繰り返したが、アルフィの力は未だに見た目相応のものに留まっている。あまり強くなられて、万全の吸血鬼を連れ歩くのはまだ恐ろしく、俺にとってはありがたい話ではあるが、少し心配なのも事実だ。
「もういいぞ」
「おー」
アルフィは、物珍しそうに壁の上から魔石灯が怪しく光る街を見下ろしている。
吸血鬼についても、アルフィについても、まだ謎が多い。本人から聞くにしても、暫く時間が必要だろう。
別に目的のある旅ではないのだから、気長に行こう。
「これを被ってくれ」
「ん」
別に門を越えようが、街中に金髪緋眼の二人組がいれば吸血鬼だと一発でバレるので、フードで体を隠すことにした。ちなみにこれは例の馬車から取ってきたものだ。他にも金品と、使うか分からないが身分証も取ってきた。
こんなに死者から物を取り続けていると、いよいよバチが当たりそうな気もするが、もはや大切なものを全て失った俺に怖いものなどない。俺は無敵なのだ!
この規模の街ならあるはずの冒険者ギルドに行きたい所だが、今はまだ夜なので先に街を回ってみるとしよう。
「どこか見てみたい所はあるか?」
「あの、おっきな光があるところ」
アルフィが指差した、比較的壁に近い大きな建物に行くことにした。
ところが、ある程度建物に近づいたところで、嫌な気配を感じた。その時、アルフィが怯え出した。
「大丈夫か?」
覗き込んだフードの中のアルフィの顔は、ひどく歪んで、何かを恐れているようだった。
「あそこはやめておこう。もう夜明けも近いし、少し休憩しよう。それでいいか?」
近くの路地裏でアルフィを落ち着かせながら、俺たちは朝まで過ごした。
そして朝になると、アルフィが怯えていた理由がわかった。奴隷商達が建物から出てきたのだ。
一匹の吸血鬼を連れて。
「ひっ」
その吸血鬼は俺たちのいる路地裏を強く睨んだ後、商人達に連れられて行った。
どうやら街の管理をしている貴族に献上するらしい。
あいつもアルフィの過去に関係があるのだろうが、せっかく少しは心を開いてくれるようになったこのこを放り出してまで問い詰めに行く必要はないだろう。もちろんアルフィを連れて行くのは論外だ。
そもそも俺は過去を気にしないことにしている。こんな旅を始めた時点で、重要なのは精々今の財布の中身ぐらいだ。
それにしても、アルフィの馬車を襲った魔物もそうだが、吸血鬼は他の魔物に存在を感知されやすようだ。
「ギルドで登録を済ませたら、すぐに次の街を目指そう。」
「(こくん)」
そうして俺たちは、街の中央にあるギルドへ向かった。
ギルドは酒場と併設されているようで、飲んだくれの冒険者が溢れかえっていた。
「冒険者登録を頼みたい。俺と、この子だ。」
「あら、可愛いおふたりだこと。はい、これに名前を書いて。字は書ける?」
「書ける」
渡されたカードは、発行場所であるこの街の名前と冒険者名の記入欄、それにギルドの印鑑と受付嬢のサインを書くだけの、簡素なものだった。
「うん、レオンとアルフィね。問題ないわ。少しこのカードについて説明するわね。
このカードは冒険者カード。作られた素材によって持ち主の『ランク』を示すの。今渡したのは木で作られた『ウッドランク』のカード、ランクが上がるにつれて、『アイアン』、『ブロンズ』、『シルバー』...と続いていって、受けられる依頼の数も信用も増えていくわ。一番上は『オリハルコン』らしいけど、そこまで行く前に大抵は商人や口のお抱えになるから、よっぽどの異常者しかいないって話よ。どう、なんとなく分かった?」
「ああ、理解し「おい!ヘレナ!そんなガキの相手してねえでこっちにもっと酒持ってきてくれよ!」...た。」
屯していた冒険者の一人が会話に割り込んでた。
「どうせそんなガキ、『アイアン』でウサギ狩りでもしてるうちに魔物に襲われて死ぬっての!それより今夜どうだよ?」
「絶対に嫌。アンタが大規模討伐依頼死で死んでくればよかったのに。今仕事中なんだから黙って待ってて。」
「まだあのボンクラの事引きづってんのかよ。わぁったよ、仕事が終わりゃあいいんだろ?
おい、ガキぃ。俺がお前達が冒険者にふさわしいかテストしてやるよ。」
「やめて、この子達は関係ないでしょ?」
「関係ないこたねぇだろ。これから冒険者になろうってんなら、俺達の同業者になるんだ。それに冒険者同士の諍いには干渉しねえのがギルドの方針だろ?」
「....っ!ねえ、キミ達、この街じゃなくて、別の街で登録してきたら?」
「どう見ても親のいない孤児じゃねえか、護衛も雇わずに他の町に行けるわけねえだろ?」
少し黙っている間に、事態がどんどん進んでいく。
というか、よくよく考えたらこいつは俺達の仇なんじゃないだろうか。口ぶりからして吸血鬼の掃討に参加したのは、間違いない。ということは、間接的に俺の村を滅ぼし、アルフィの仲間(?)を殺した張本人の内一人と言える。なら、目の前に転がっているのは敵討ちの機会なのかもしれない。
「あの、なんでもいいから登録をさせてくれないか?」
「はあ?状況分かってないの!?」
「ほら、ガキもそう言ってるよ。お前ら、そこの水晶にカードと手をかざせ、そうしたら魔力の登録が完了して、お前らは晴れて冒険者だ。」
「分かった」
「ちょっと?!」
手をかざした後に気づいたが、魔力の登録というからには、個人単位の魔力の差異を読まれるんだろう。
これ、吸血鬼ってバレるんじゃないか?
まあ、結論から言えば心配は杞憂だったが。
俺が手をかざした次の瞬間、水晶がどす黒く染まった。
後で知ったのだが、この水晶は本人の魔力の性質を反映するもので、色や濃さによってその人物の力量や性格を判断でき、犯罪者の尋問や、大きな都市の出入確認でも使われるらしい。つまり、魂を映す鏡のようなものだ。
極彩色にも似た漆黒を見た受付嬢と冒険者の反応は、まあ、言うまでもないだろう。
「お前、この魔力....」
「あなた、これ...」
続けてアルフィにもかざさせたが、こちらは逆に透き通ったままで、何も変化しなかった。なんだこいつ。吸血鬼だろお前。俺がおかしいみたいじゃねえか。
そして俺達のカードには青白い光の紋様が浮かび上がってきた。登録は無事完了したようだ。
「これでいいか?」
「なっ、なんなんだテメェ!」
「冒険者間の諍いは不干渉、だったよな?」
「え、ええ。間違いないわ。」
「だそうだ。やるか?」
「誰がてめえみてえな気持ち悪いガキとやるかよ!」
仇は討たせてもらえないらしい。だがそんなことより、さっさとこの街から離れたかった俺は、アルフィの手を引きながら言った。
「もういいか?他に説明事項がないなら俺たちはこれで失礼する。」
やっと酷い茶番から抜け出せたと安堵したのも束の間、アルフィが動かなくなった。襲いくる嫌な予感から、アルフィを抱えて逃げ出そうかとも思ったが、遅かった。
「なんの騒ぎだ!」
その声の先に振り返ると、数人の衛兵に囲まれながら、異様な白さのローブに身を包み、鎖で縛られた吸血鬼を従える男がいた。間違いない、貴族だ。なんで性格の悪そうな貴族に限って白いローブを着るのだろうか。白で包んだら、中身の醜悪さが余計目立つだけだろうに。いや、今は関係ない。
どうしようか。全力でアルフィを抱えて逃げれば、逃げ切れはするはずだ。だがしかし、怪しいローブの二人組が貴族に出会った瞬間逃げたなど、他の都市に伝われば困る。俺たちはまだ、ローブ無しでは人前に出られないのだ。ん?だが、髪色とを誤魔化すだけならその辺の野草でも絞って頭に塗りつければ十分じゃないか?そもそも、俺たちが知らないだけで吸血鬼なら擬態能力ぐらいありそうなものだ。
そんな現実逃避紛いの思考をしている間に、気づけば俺達は衛兵に囲まれていた。
あーあ、ギルドで水晶ペカらせて「なんだこいつ、やべえ!」なんてお約束展開してるからバチが当たったんだよ。恨むならもうちょっとマシな展開考えられなかった作者を恨むんだな!




