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005-燃ゆる楼城

「っ!?」


家ごと、地面が大きく揺れた。

その振動で、アロイテは目覚める。

シーツの上から急いで立ち上がり、よそ行きに着替える暇もなく外に飛び出した。


「なに...これ...」


外は、地獄絵図だった。

遠くが紅く染まり、焦げ臭い臭いが風上から流れてきていた。


「貧民狩りだーっ!」

「逃げろ!」


アロイテが感想を抱く暇もなく、事態は進行していく。

下層の自治組織に属する人々が駆けて行き、そんな言葉を口にしたのだ。

直後、遠くで爆音が連続で響いた。

貧民狩りとは、政府が定期的に実行する間引きである。

下層が不法移民の溜まり場であることは確かであることから、数年に一度下層を焼き払うのである。

アロイテはそれを知らない。

知らないからこそ、固まってしまったのだ。

直後、家の前の通りを爆風が吹き抜け、アロイテの眼前にあった建物が衝撃波を受けて容易にバラバラになる。

それを見て、ようやく彼女は我に返る。

逃げなければと、確信したのだ。


「ひ...ッ!」


アロイテは通りを駆け抜ける。

貧民街に突入したのは、連邦の配備する人型兵器エスクワイア『アロカン・ザッツ』数機である。

レーザーによって焼き払われた家々が自然発火、もしくは爆発し、貧民街は甚大な被害を初撃で受ける羽目になった。


「ひどい...」


バルク街に出たアロイテは、火の海になった商店街を目にした。

バッテリーパック屋は完全に潰れ、弁当屋は半壊している。

自分も見つかれば、ああなる。

通りに転がる焼死体を見たアロイテは、確信を得た。

焦げた匂いの正体を知り、胃の中身を吐き出す。


「うぇぇ...」


昨日はそのまま寝てしまったため、アロイテは胃液だけを吐き出す事になり、喉が焼けて余計に苦しむことになる。

だが、悠長に苦しんでいる時間などない。


「ぁあっ!」


轟音と共に、熱い風が吹き抜ける。

アロイテは思わず目を瞑る。

近くで爆音が響き、衝撃波でアロイテは燃え盛る建物の中に放り出された。


「〜っ!」


何もできない。

その事に、アロイテは無意識の苛立ちを覚えていた。

何が起きているのかも分からない。

ここから逃げることもできない。

それは、自分が弱いからだ。

筋と骨だけの体。

自分に優しくしてくれる人間はいれど、助けてくれる人間はいない。

どんなに頑張ろうと、結局のところ貧民街という肩書きが足を引っ張る。


「...」


どんなに惨めだっていい、と彼女は思った。

いつか幸せになればいいから、とも。

だが、その未来は今、潰えようとしていた。

環境に慣れきり、自ら諦めた少女が抱いた夢。

それは今際の際に見る夢であり、今まで金という形で少しずつ蓄積していた希望が、塵となって消え果てようとしているのと同義である。


「っ、はぁ、はぁ、はぁ!」


這いずる様に燃える建物から出たアロイテだったが...そこに、砲弾が突き刺さる。

アロイテの姿を見つけた警備隊が、レーザーライフルで発砲したのだ。


『穢らわしい貧乏人がァ! 死ね!』

「...ひ!」


もはや逃げ場はない。

捕捉された以上は、兵器対人間では、兵器に軍牌が上がるだろう。

ザッツが、頭部のバルカン砲を作動させ、アロイテを確実に始末するべく少しずつ迫らせていく。

アロイテは、痛みと苦しみ、恐怖に目を瞑った。

凄まじい轟音が響き渡り、彼女には死という救済が与えられるはずだった。


「...え?」


彼女が目を開けた時。

ただ全てが白かった。

空から飛んできた光の柱が、ザッツを消し飛ばしたのだ。

アロイテはその光景に呆然とし、恐れ。

まるで、無知な原人が、空から落ちた雷を見た時の様に。

全てに精通し、それでも神を崇めた者が、雲間から差す光を見たときの様に。

空を仰ぎ見た。


「すごい...」


空のある一点が、緑色に輝いていた。

逆光になって見えないが、人型の巨躯が空に浮かんでいる。

その左手は、ザッツの方に向けられていた。


「......」


しかし。

そんな目立つ事をすれば、当然ながら地上からの集中攻撃を受ける。

砲弾の数々を受けて、それは...たった一つの手段に出た。

本来貧民街に干渉する理由のないそれが、なぜここへ来たのか?


「ひゃっ!?」


アロイテの眼前に、機械の巨人が立ちはだかっていた。

膝を突き、アロイテに覆い被さる様にしゃがむそれは、燃え盛る火に照らされ、赤黒く輝いていた。

その出会いは、唐突で奇妙なものだったが...

彼女の人生に、消えることのない回想として刻まれたのも、また事実であった。


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