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003-プラネタリウムと灰色の街

アロイテは、ずぶ濡れになりながら家に戻った。

家といっても、複合住宅(アパート)のようなものであり、アロイテの部屋は地下にある。

玄関のボックスを開けて、エネルギーパックを入れてエネルギーを充填する。

下層はほぼ全ての建物が違法建築であるために(もともとは上層と下層だけだった為でもある)、インフラ関連は全く整備されていないのだ。

水道水もガスも電気も、住民は自分で確保しなければならないのだ。


「...」


アロイテは、鍵を開けて部屋の中に入る。

たった一室だけの地下室は、アロイテの数少ない私物があるだけである。

拾ってきたシーツをチラリとだけ見た後、ボロボロのスタンドに灯りを付ける。

エネルギーパックの「6時間分」とは、ブレーカーギリギリまで利用して6時間という意味である。

アロイテの稼ぎなら、電気くらいは維持できる。

だが、今日の食事は抜きであった。

彼女はよそ行きを脱ぎ捨てると、ボロ切れのような部屋着に着替えた。

何を隠そう、彼女はこの瞬間が好きであった。

誰にも配慮しなくていい、この瞬間が。

八年ものの中古汚れ成分分解機によそ行きを叩き込んだ彼女は、手製の洗面台で歯を磨くと、シーツの上で寝転がった。

シーツが敷いてあるとはいえ、打ちっ放しの床の上である。

背中を痛めて、彼女はいつもここで眠るのだ。


「...あ」


スタンドを消し忘れた事に気づいた彼女は、ぜんまいの切れかけた玩具のように起き上がり、灯りを消した。

蛍光塗料が飛び散った天井が、スタンドのわずかな光を吸って薄く輝く。

昔の住人の置き土産である。

4時間しか眠ることのできないアロイテを祝福する、室内の星々なのである。




4時間後。

即ち、まだ日が沈み始める頃にアロイテは目覚めた。

彼女はPTSDを発症しており、いつも同じ悪夢を見る。

もう慣れたものの、4時間程眠ると同時に目覚めるために、そのあとは眠ることができない。

それを彼女は辛いとは思わない。

アロイテはそれでも体を休めるために、目を閉じて刻を数える。

眠りはやってこないが、しかし身体は休息を経て、なけなしの栄養を消費してボロボロの身体を少しずつ修復する。


「...」


彼女の人生は悲惨だが、それは恵まれた環境で生きる我々の目から見た客観であり、彼女にとってはそうではなかった。

明日を生きられることだけが、彼女の幸せなのだ。

『金がなければ人である権利すら買うことができない』という言葉通り、彼女は人間として扱われていない。

それは、貧民街に住む皆が同じことだが...しかし、彼女は違う。

ギラギラとした目付きで「人間」を目指す貧民街の者たちとは違い、彼女は根本的に情熱というものが欠如していた。

自らが人間であるか、認められた存在であるかなど、彼女にとっては些細なことだ。

重要なことでないわけではない。

叶いもしない夢を抱く事を諦めているだけだ。


「...」


眠れないことに嫌気が差したのか、アロイテは起き上がる。

そして、扉を開けて夜風にあたりに出た。

貧民街に大きな建物はないため、外に出れば少しだけ星空が見えた。

反対側を見渡せば、都市の眩い灯りが見える。

それとは縁がないことを自覚しながらも、彼女は暫くそこに佇んでいた。



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