027-主君の妻のレビュー
数時間後。
アロイテはまだ調理をしていた。
『そろそろですね、ひっくり返してください』
「は....はい!」
魚を焼いていた彼女は、菜箸で魚をひっくり返す。
よく焼き目のついた部分が表になり、再びけたたましい爆ぜ音が響き出す。
香ばしい匂いが広がり、アロイテの喉が小さく動く。
勿論、これが自分の食べ物でないとアロイテにはわかっている。
よくあることだ。
道を行く上層の人間が食べているものに食いつかないように。
自分が手にしているものは、必ず自分のものではないのだ。
「ねね、次はアロイテが食べない?」
「いいんですか...? わわっ!?」
唐突に油が跳ねたためだ。
魚を焼き終わった後は、揚げ物である。
パン粉を塗した魚を熱い油に放り込み揚げるのだ。
『油には触れないように、時間を正確に守ることで、サクサクとした食感になりやすくなりますよ』
「はい」
揚げ物を終えたアロイテは、とりあえず冷める前に食べるというフェーズになった。
フォークとナイフをぎこちなく使って魚を頬張り、咀嚼して飲み込むアロイテ。
「美味しい?」
「は...はい!」
アロイテは魚を食べたことがあまりない。
”弁当”に入っていたことはあるが、そもそも海の面積が非常に少ないクロファートでは珍しいものである。
「よかったね~、実は私も小さい頃、魚が好きだったんだ」
「そうなんで...すか?」
「うん、獣人の国は、海からも川からも遠かったから.....あんまり食べさせてもらえなかったんだよね」
人間のキャラバンと交戦した際に回収した荷物の中に会ったり、川で獲って急いで持ち帰ったり。
そうして、もともとは獣人の姫であるネムの口に入るのだ。
決して美味しいものとは言えなかったが.....
「獣人たちも、十年くらい前はアロイテちゃんと同じだったんだよ」
「そうですか.....」
「初めて食べる美味しい食事にびっくりしたり、シャワーとかヘアドライヤーに驚いたり。今じゃ文明人を気取ってるけど、みんなシンのおかげなのにね」
それが心底おかしいのか、ネムはいたずらっぽく笑う。
アロイテにはそれがどういう感情なのかわからず、つられてただ笑う。
何とか食事を終えたアロイテの前で、ネムはアドバイスをしていた。
「シンは食後には絶対コーヒーは飲まないんだ」
「じゃあ、何を飲むんですか?」
「お茶。朝昼晩、必ずお茶を飲んで席を立つよ、コーヒーを飲むのは仕事中、作業中は絶対手をつけないから、ぬるくなっちゃうんだけど....それがいいんだって譲らないの」
『全部、ルル様が見つけた特徴ですけれどね』
得意げに言うネムに、横からオーロラが釘を刺した。
ネムは歯を見せて笑い、頭を掻く。
『シン様が好んで飲むデアル茶です、どうぞ』
オーロラのマニピュレータが、ポットから深緑色のお茶を二人分注ぐ。
アロイテはためらっていたが、ネムが躊躇なく飲み干したことで少しずつ飲み始めた。
『もともとはビージアイナ帝国領土南部で栽培されていたものであり、畑ごと戦術核で焼き払ったため、軌道上のサイロにあった加工済みの葉から品種を復元しました』
「いいんですか、貴重なものでは....」
「シンしか飲まないからいいんだよ~」
デアル茶は獣人の間ではマイナーであり、かつ需要も無いに等しい。
獣人発祥の地、イルエジータの主要産物であるアラウェイ茶の方がはるかに人気のためである。
食後のお茶を終えた二人は、立ち上がる。
「さあ、もうすぐ夕ご飯だし――――シンに成果を見せてあげる時間じゃない?」
「......はいっ!」
気付けば時刻は17時を回っている。
各書類にサインをする作業に従事している彼に、軽食を振舞うべき時間であった。
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