024-牙を剝くは権力と富の怪物か
その日、「上層」に衝撃が走った。
複数の資産家が共同で確保していた、大規模なショッピングモールの建設地点が何者かによって買収され、急に工事が始まったのである。
『よろしかったのですか?』
「? 何がだ?」
大荒れのクロファート星系のコミュニティを閲覧しながら寝そべるシンに、オーロラが物憂げに問いかける。
このような強引なやり方でいいのだろうかと。
「.....そうだな、人間は何を恐れると思うか?」
『死です』
「では、それから最も遠い――――資産家達は?」
『.....分かりません』
「金だよ」
資産家たちの恐れるものは、やはり金なのである。
大規模な経済の動きを作るものは、彼等にとっては捕食者と変わらない。
『富ですか?』
「そうだ、資産家は自らの立場を脅かすものは金しかないと考えている。金は彼等の盾であり、弱点でもある」
シンは少なくとも、そう考えているのだ。
彼は起き上がると、クロファート星系で放送されているローカル放送を閲覧し出す。
その中では、経済的な危機感を醸し出すような解説映像が流れていた。
「充分、必死だと思うぞ?」
『勉強になります』
「十年学習したAIにそんな事を言われることになるとは」
シンは皮肉ったように笑い、脱いでいた制帽を被り直してベッドから起き上がる。
そして、ベッドで眠る妻を一目見てから外へと出た。
彼は無理のないペースでブリッジへと向かい、現在文面でクロファート政府と交渉中のネムの隣へと移動する。
「上手くいきそうか?」
「あっ、シン。...多分、うまくいくと思うよ、向こうも困惑半分みたいだし」
「そうか」
ネムは物流担当ではあるが、交渉術は幹部クラスの中でトップクラスに上手い。
無論、オーロラが担当すれば終わることだが、今回のように獣人の価値観が絡む件ではネムが担当する事がある。
「武装した戦艦を街に降下させる分には問題ないみたい」
「ずいぶん緩いな」
「お金持ちの護衛だから許されてるって感じみたい」
流石に艦隊は降ろせないものの、敷地内であれば戦艦までを下ろすことはできるようであった。
「軌道上に旗艦の駐留は?」
「出来る...けど、代わりにクロファートの主力艦が一隻、警備に配備されるみたい」
「ああ、なら問題ない」
『暴走の兆候があれば停止させますので』
クロファートに限らず、Noa-Tun連邦で獣人のみならず全ての人間が使用していて、かつオンライン状態にあるすべてのデバイスは、オーロラによって情報の流通が行われているのである。
それは即ち、いつでも都市機能を沈黙させられるということに他ならない。
しかし、それを行うことは恐怖政治に他ならない。
今も旧連邦を牛耳る「元老院」と何も変わらないのだ。
新生Noa-Tun連邦は、「元老院」という凡愚の政治に辟易した者が志を同じくする場所であり、テロリストではないのだ。
「...そういえば、シン」
「なんだ?」
「どうしてあの子を拾ったの?」
ネムは作業の手を止めぬままシンに問う。
それは、先日シンが言ったことが完全に真実でないと察していたからの台詞である。
「わからない」
「わからないって...」
「あの子がキネスを持っていることはわかるがな」
「ああ、それで...」
キネスとは、人智を超えた力である。
全員が持つわけではなく、ある日覚醒することが多いもの。
シンは今は使えないものの、かつてその力を持っていた。
キネスを利用するつもりだと、ネムは察する。
「シンは変わらないね」
「そうか?」
「皆に優しいフリをしても、その実自分の利しか見てない」
「そう見えたなら悪かったな」
棘のある言い方だったが、シンは特に気にした様子ではなかった。
それが彼の心理なのだから。
それっきり黙り込むネムに弁明するように、シンは言った。
「ただ、キネスだけが全てではない。俺ならそれを利用するよりも、抹殺する方が確実性は高いと考えるからな」
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