022-虎穴に入らずんば――――
数時間後。
アロイテは正装に身を包み、ノルンと共にブリッジに上がっていた。
エレベーターから出ると同時に、アロイテは複数の視線に晒される。
厳しい目を向ける、紺色の髪と紫の瞳を持った美女。
その横に立つ、やたら豊満な肉体を見せつけるような、栗色の髪と緑の眼をした女性。
そして、シンとその横に立つ、軍服を着た黒髪と金眼の女性。
驚くべき事に、シンの隣にいる女性は人間である。
「まだ子供ではありませんか」
鋭い声を放つ、紺髪の女性。
獣耳が、その頭から天に向かって伸びている。
それを聞いたアロイテは、自分が何か悪いことをしてしまったのかと震える。
「まあまあ、それに...そのような気は無いんでしょう、シン様?」
「ああ、勿論だ。...アロイテ、気にしなくてもいい」
「は...はい!」
何故だかはわからないが許された。
そう感じたアロイテは安堵し、静かに息を吐き出した。
「アロイテ様は、何らかの素質をお持ちです。シン様はそれを見抜き、一時的に彼女を雇用している状態にあります」
「それに、この惑星においては彼女の身分は俺が保証する。上に立つ存在は、時に懐の深さを見せなければならない」
アロイテをノルンとシンの二人が弁護し、二人は言葉に困ったように立ち尽くす。
沈黙が続き、空気が張り詰めてきた時。
「現状維持は悪手でしょう、司令官。...まずは自己紹介を行うべきでは」
「そうだな...ああ、自己紹介してくれ」
張り詰めた空気を破ったのは、シンの隣に先ほどと全く変わらない姿勢で立つ女性だった。
彼女は咳払いすると、アロイテの方へ真っ直ぐ視線を向け、敬礼した。
「私はアインス、旧Noa-Tun連邦第一指揮官、現Noa-Tun連邦でも同じく第一指揮官を拝命しております」
「よ....よろしくお願いします!」
アインスは表情には出さないが、しかしアロイテを認めていた。
逃げ出してもおかしくないような修羅場である。
「(その勇気.....やはり貧民街出身であるからでしょうか?)」
アロイテは内心そう考えていたが、それを口に出すことはしなかった。
続けて、二人が順番に自己紹介を行う。
「私はルルシア・クロカワです。現在は新生Noa-Tun連邦で指揮官を行っています、このアバターの艦長でもありますよ」
「お邪魔しています!」
「ええ、可愛らしいお客様で歓迎よ」
「....じゃあ私? 私は、ネムリー・クロカワ。新生Noa-Tun連邦の物流担当だよ~」
ひらひらと手を振って見せるネムリー。
それを見たアロイテは、どう反応していいか分からず戸惑う。
「ルル、ネム。その辺にしておけ。お前たちのノリについていけるほど、心に余裕がない子だ」
「わ.....私は大丈夫です!」
凄まじいプレッシャーに気圧されつつも、アロイテは大丈夫だと声を絞り出す。
ここに居る人間たちは、「都市」にいる権力者よりも偉いのだと理解しているから故の行動だ。
彼ら彼女らに「使えない」と判断されれば、追い出されるどころでは済まない。
物理的に首が飛ぶかもしれないと、分かっているのだ。
「なら、緊張しなくてもいい。少なくとも俺は、一度拾い上げた人間を能力で厳選するような真似はしない」
「あ.......」
シンは”違う”。
アロイテはそんな感想を抱く。
色々な、「偉い」人間を見てきた彼女は。
その「偉い」人々が何をしてきたかよく知っている。
多くの「偉い」人間は、肩書だけに人がついてくる。
だがシンは違うのだと。
その在り方に、惹かれてついてくる人間が無数にいるのだと。
気付いたのだ。
「じゃ、そういう事で、解散ね」
「ああ、それでいいだろう」
ネムがそう言うと、シンも頷いた。
アロイテは、張りつめていた空気が一気に解けるのを感じる。
「頑張ってね、アロイテちゃん」
「....シン様、後でお話が」
ルルとネムはブリッジから出て行く。
だが、アインスは出ていかない。
「あの....」
「さて、これからの計画を話そうと思う――――君にも関係のある事だ」
出て行ってもいいですか、とアロイテが聞こうとしたとき。
シンがアロイテの目を真っすぐに見つめ、そう言ったのだった。
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