019-無関心と、優しさ
アロイテは通りを戻り、バルク街へと入る。
そして、先ほどは立ち寄らなかった店へと立ち寄る。
奥まったところにあるお陰で、手前にある建物を犠牲に生き残ったその建物(無論無傷という訳ではないのだが)は、弁当屋であった。
店には「準備中」の札が掲げられていたため、アロイテはゲブラーとケセドに待機指令を出して店の横にある入り口に回り込む。
「すみません」
「なんだい?」
ノックをすると、数秒後に中年の女性が顔を出した。
弁当屋の女主人であるマザイラである。
「あんた......入りな!」
「はい」
マザイラはアロイテを見るなり、店の中を指す。
アロイテは店の中へと入り、マザイラは扉を閉めて彼女を見る。
「生きてたんだね」
「はい、助けてもらって....今はそこで」
「そうかい....それで、何の用かい?」
アロイテは覚悟していた。
向こうは自分の事を何とも思っていないと。
それでも....
「私はこれから、主人に仕える事になります。もうここには戻れないと思います....だから、お礼だけでもと思って」
「......そう」
マザイラは少し黙って、息を吐いた。
「正直言うと、あんたが心配だったのさ」
「....え?」
「あんたみたいなガキは珍しくない、でもあんたは特別賢くて、特別可愛げのないガキだったからね」
「....?」
褒められているわけではないと考えたアロイテは困惑する。
そんな彼女を見つつ、マザイラはただ言葉を吐き出す。
「そんなガキが、貧民街でまともな仕事に就けるわけがない。皆、何かしら闇を抱えて生きてるんだ、あんたみたいに....自分に正直には生きられないのさ」
「違う.....私は」
自分の弱さから目を逸らした。
だから自分に正直ではない。
そう思ったアロイテだったが、マザイラは言う。
「少なくともあたしにはそう見えたね。だから、あんたが生きててよかった。......さぁ行きな、あんたの居るべき所はここじゃあない」
「でも!」
「行きな。あんたはもう貧民じゃない、心は残さなくていい」
半ば押し出されるように、アロイテは外へと追いやられた。
彼女はふとマザイラの顔を見て、その眼に侮蔑や面倒さが浮かんでいないことを知った。
その眼には、彼女の知らない感情が込められていた。
少なくとも、同情や心配などではない。
利用しようとする視線でも、侮蔑を我慢している視線でもなかった。
彼女がその意味を知る前に、マザイラはばたりと扉を閉めた。
「..........ありがとうございます」
彼女に聞こえないと知りながらも、アロイテはそう呟き表通りへと戻った。
『もういいのですか?』
「...はい」
『出航しますので、10分以内に着陸地点に向かってください』
「はい!」
最早思い残すことはなく、貧民街をシャトルが飛び立ち、軌道上へ向けて上昇していった。
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