017-お仕着せの帰郷、最期の別れ
クロファート・プライムに降下したアロイテは、シャトルが貧民街の中にある空き地に降下するのをじっと見ていた。
貧民街は先日の大掃除から立ち直り始めていて、降りてきているシャトルには誰も目もくれない。
当然だ、関わるだけ厄介の種だと知っているからである。
「...」
『大丈夫ですよ』
その時、ゲブラーが空中にオーロラを投影する。
彼らに明確な意思はないが、オーロラが彼らを指揮している以上は問題がないのだ。
アロイテは足を踏み出し、姿勢制御中のシャトルから飛び降りた。
「....よし」
覚悟は決まった。
そう感じたアロイテは、貧民街の中を歩く。
別に貧困だからと言って、服を買う金もない程困窮しているのはアロイテくらいのものであり、彼女に特別な目を向ける住人はいない。
何より、彼女に付き従う兵器二基を見て、先日街を焼いた人型機動兵器エスクワイアを連想したようで、それは恐怖を振りまいていた。
『どちらに行かれるのですか?』
「....家の跡に....」
『大事なものがあるのですか?』
「....残ってるかもしれないので」
バルク街を経由し、住宅街へと向かう。
それが、アロイテの辿るルートである。
復興中のバルク街を進むアロイテは、その道のりに想いを馳せる。
いい思い出はないものの、自炊のできない彼女にとって食糧を調達できるのはこの場所だけであった。
『.....ところで、普段はどのようなものを?』
「ええと.....黒揚げ.....包み練り焼きなどです」
『成程、どのようなものですか?』
オーロラの問いに、アロイテは半壊した屋台で店を開いている男の方を指す。
ゲブラーがスキャンシステムを作動し、屋台の機械の中で揚げられている真っ最中の揚げ物をチェックする。
『古い油で揚げたものですか........』
「そうなんですね」
アロイテは知識として見に付けてはいたものの、その時は確かにおいしく感じていたためスルーする。
お世話になった場所で問題を起こしたくないという彼女の心でもあった。
「ちょっと....挨拶したい人が居るんですが」
『構いませんよ』
アロイテは市場を外れ、比較的被害の少ない方向へ向かっていく。
そちらには弾丸を受けて二回が破壊された民家があり、アロイテはそこに近寄ってベルを鳴らした。
「どちらさんでー?」
「あ....アロイテです」
アロイテが不安げに言葉を紡いだ時、建付けの悪い扉が開いて禿頭の中年男が現れた。
その頭には、毛のない獣耳が生えている。
「おお......生きとったか」
『誰ですか?』
「色々お世話になった人で.....アルツさんです」
アルツはアロイテを見る。
そして、息を吐いた。
「その恰好.....いい所に拾われたんだな」
「はい」
「良かった。俺も心配はしてたんだが.....」
何故アロイテが困窮しながら、自分で家を買って住めたのか?
その答えはアルツにあった。
アロイテを憐れんだアルツは、彼女に安価で部屋を貸していたのだ。
「とにかく、こちらに請求書をお願いします」
「....ああ」
変わったんだな、という言葉をアルツは飲み込む。
自分に挨拶をしに来たのも、今までの借りをお金で生産するためだと察したからだ。
「(貸し借り、そこに義理はあっても情はねぇ。全ては契約――――この街のルールを破ってた俺が、アロイテに倍で返されるとはな)」
アルツは頭を掻くと、受け取った請求書の用紙を畳んでポケットに入れる。
「ああ、分かった」
「ありがとうございました」
二人の”薄い”関係はこうして終わった。
互いに納得を残しながら。
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