015-未熟なる香りはブランジェルミュのように
ブランジェルミュ...かつてアールシア獣人国において、人間が作る血のようなアルコール飲料。
それは、現在でも作られているものの獣人の寿命的にも高級品である。
蔵元は長命種が運営することが多く、現在ではかつてのエミド侵攻を生き残ったビンテージワインが高級品として取引されている。
なお、Noa-Tun連邦においてたまに取引される「オーロラブレス」という名のワインは、シンの持ち物である。
幻の20年ものであるため、資金源に利用されているのだ。
「では、こちらはどうですか?」
「ボトルは粗製ですが、密閉加工がされていますね。クロトザク帝国ワインのアルジュネーでしょうか?」
「そうです。420年ものですね」
帝国という言葉は、現在の連邦では複数の意味を持つ。
かつて存在した数多の国家、連邦が征服して殲滅した国家の中には、複数の王国や帝国が存在する。
歴史が古ければ、それだけ発掘されるワインなども値の張るモノになる。
「では、こちらは?」
「ヴァンデッタ帝国ワイン...ラベルに未知の鳥の模様、コルクがベランゼ樹木製...カイレックですか?」
「その通りです」
ヴァンデッタ帝国は、Ve‘zと呼ばれる未知の勢力に、連邦が進出するより前に滅ぼされた国家である。
残骸から回収された保存庫の中にあったワインなどは、大変高い価値を持っているのだ。
「マナーも無意識下に刻み込まれたようですね」
「はい、ただ....まだ難しいですが」
「基礎が出来ていますから、お目汚しにはなりませんよ。焦る事はありませんから」
昼になれば、アロイテはオーロラが作った食事を食べる。
勿論、軽くあっさりとした食事で、ナイフとフォークを多く使うようにされている。
『アロイテ様は、知識だけは身に着きましたが、まだ身体は虚弱かつ、内臓も傷ついています。そのため、食事は固定メニューのサイクルで行っています』
「はい、わかっています」
アロイテは知識だけをインストールされ、身綺麗にはなったものの内面は全く変わっていない。
精神的に成長したわけでも、急に健康になったわけでも無い。
つまりオーロラは、アロイテに釘を刺したのだ。
増長するな、と。
「そういえば...シン様は何をなさっているのですか?」
ふと気になったアロイテは、聞きたかったことを聞く。
ここ最近、シンは彼女の前に姿を見せない。
それを聞いたオーロラは、
『司令官は現在、“正式な手続きを踏んで”クロファートに降下する手筈を整えています』
「てつづき...もしかして」
『はい、あなたが危険だと知り、司令官は手続きを踏まずにクロファートに降下しました。現在は暗黙の了解ということになっております』
「私の...ために...」
アロイテはそこで、シンが何をおいても自分を助けに来たことを知った。
疑ってしまったことを、恥じた。
「分かりました、ご帰還をお待ちします」
そして同時に、シンへの信頼というものを少しだけ胸に秘めた。
信じてみよう、から信じられる、に変わった瞬間である。
「さぁ、食事を終えたならお茶の後に実践を続けましょう。次は護衛技術の戦闘訓練ですよ」
「はい」
アロイテは素早く皿を片付けようとするが、無理をさせすぎたのか腕から力が抜け、皿を取り落としてしまう。
それが地面に落ちる前に、ノルンが皿を掴んで止めた。
「お気をつけて」
「...はい」
アロイテは慎重に皿を重ねる。
そして、オーロラが用意したティーポットから練習がてら茶を淹れる。
それを、ノルンと二人で飲むのだった。
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