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014-『人間』として『執事』として

二日後。

知識インジェクターの疲弊から立ち直ったアロイテは、朝起きると直ぐに、知識として吸収した朝の身支度を済ませ、用意されたタキシードを身につける。

まだ髪はボサボサで、顔も傷だらけでお世辞には綺麗とは言えないが、格好は整った。


『準備はできましたか?』

「はい、オーロラ様...!?」


アロイテは、オーロラに対して返事を返す。

だが、言ってから戸惑う。

言葉が澱みなく口から紡がれ、かつそれが今まで使ったこともないような言葉であれば尚更だ。


『それがあの装置の効果です。これにより、かつての時代我々は...』

「はい、獣人兵士を育成、戦場に即時投入していたのですね?」

『その通りです、問題はないようですね』


苦痛を伴うこの装置は、言うなればインスタント兵士製造機。

知識を引っこ抜くために素体が必要とはいえ、人数人を廃人にする価値がこの機械にはあったのだ。


「今日は何をすればいいのですか?」

『あなたは今、全能感に包まれているでしょうが...しかし、知識として理解していても経験や慣熟は全く別です』

「...ということは、実践を?」

『ええ』


アロイテは艦内の知識に従って、オーロラの示した場所へ移動する。

そこでは、ノルンが待っていた。


「アロイテ様、どうやら立派になられたようですね」


そこで二人は、知識と動きを一致させるべく姿勢や仕草を擦り合わせていく。

アロイテは、自分の体が知識に沿って動かないことに、困惑と少しの苛立ちを覚え、それをすぐに恥じた。

それを見たノルンは、アロイテの頭に手を置き撫でた。


「大丈夫ですよ。それは恥ではありません。体が思うように動かないというのは、多くの人間が当たり前のように感じる感情です」

「...はい!」


アロイテはその後に、主人の前で行う仕草や、屋敷を歩く際の歩法などを確かめる。

未だ未熟さが見え隠れするものの、知識の裏付けがあるおかげで新人執事としてならば見れる程度にはなっていた。


「ちなみにお教えしますが、シン様が集中されている時は、視界に入っても大丈夫です。その程度で集中が乱れる方ではありませんので」

「はい」

「それから、呼称は複数ありますが、敬称は基本的に「シン様」か「司令官」で構いません」

「はいっ」

「シン様は公私混同を嫌う方ですので、勤務時間中は絶対に態度を崩さないように徹底してください」

「はい」

「失礼でなければ、勤務時間外はアロイテ様として接しても構いません」

「承知しました」


一瞬理不尽だと思ったアロイテだったが、身につけた知識が彼女に論理的な思考を齎す。

それは理不尽ではなく、マナーなのだと理解する。

職業と、生業。

それは全く違うものだ。

学生という、保護された身分である人間は職業として、ある程度の勤勉さがあれば金を貰うことができる。

だが、生業とすれば...それは、自分の全身を持って価値を示さなければいけない。

しかし...それがなんだというのだ?

アロイテは、生業を持つスタートラインにすら立てていなかった。

クロファートではそれが許される環境ではなかった。


「次はワインの知識をチェックします。こちらへ」

「はい」


アロイテはノルンの後へと続くのだった。


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